●04
この村に来て1週間が過ぎた。
雑貨屋には魔物3体と、雑貨屋で一番高額な素材を入手し、買い取ってもらった。印象としては雑貨屋からすると、僕は良いお客さんでしかない。これは何年経っても、良いお客さん→長年の良いお客さんになるだけではないか。
まぁ、だよね~と言う感じだ。他の村にも行ってみたが、どこの誰だか分からない流れ者は信用がないのはどこも同じだった。
素材を採取しに森へ行く道中、商人に会う事がある。お金を渡し馬車に乗り、商人と世間話をする。これが唯一の人族の情報だった。ある国では内乱が起き、物価が高騰しているらしいとか。又、ある商人の話しによると、村から出た商人は住民権が失われ、僕と同様の流れ者になるらしいと言っていた。住民権を買いゆっくり暮らすのが夢だとか。流れ者でも商人になれるのかと聞いたところ、少なくとも村の村長の紹介書がいるとの事。流れ者は商人以下の信用しかない事が分かった。
少なくとも、商人と会話する中で踏ん切りが付いた。
身分が不明な者は人族領内では旅は出来ないのだと。そして、当初の考えにあった瀕死の人族の体を乗っ取るのには、リスクがあった。体を乗っ取る再、一時的でも瀕死状態になるのだ、そこまでして旅をしたいのかと却下した。
考えを変えてみるのはどうだ?。
通常では人族領内で旅は出来ないが、通常でなかったら? 紹介書を偽装し、町に入ればいいのでは?
早速、村の村長の家に行き、村長に魅了を掛け、紹介書を入手する事にした。
「ん~っ!! ここまでする必要があるのか?」
現在、村から出て、近くの町に向け街道沿いを飛行している。
商人がいれば情報を入手する為だ。
商人からの世間話は癖になっていた。
村の人達は流れ者として僕を嫌って来るが、商人は道中が暇なのか、人恋しいのか愛想よく何でも話してくれるのだ。又、話術が巧みで会話をしていて楽しい。
んっ!! 僕の探索スキルが反応している。昏睡状態の反応だ。だが街道沿いには魔物はいないはずだ。地面に降り、街道沿い脇の木の間を進む。大きな切り株の中を覗くとその生物はいた。人族の女の子のようだ。薄汚れている麻のよれよれの服を頭から被ったかのような恰好だ。こんな見すぼらしい服を着た子供は村にもいない。女の子は目を薄っすら開け口を開いた。
「おじさんは誰?」
鑑定スキルを発動し、回復スキルで昏睡状態を解除したが、今度は餓鬼状態になった。
「僕は食料なんて持っていないぞ!」
どうすればいい? そうだ!! 見放せばいいんだ。見なかった事にしよう。
どう考えても、厄介ごとになる。
僕、1人でも町に入るのに面倒臭いのだ。
そして、衛兵から見ると、僕は誘拐犯と間違われないか?
その場で飛び上がり、飛行で町に向かった。町の城壁門の近くに降り、城門前の列に並んだ。
あの子は死んだだろうか。もしかして誰かに助けられたか? その可能性は低いか。気になって仕方がないぞ。
あ~もうっ!!!
「食料はありませんか? 買いますので」
前に並んでいる商人に声を掛けた。
「食事だったら、もうすぐ町に入れるだろ」
「いますぐに必要なのです」
商人は訝し気に、食料を「はいよっ」と渡してくれた。そして処分するつもりだったと言って、無料にしてくれた。
僕は城壁門の近くの森に走り、転移スキルで女の子の元に転移した。
女の子の容態は昏睡状態に戻っていた。
回復スキルで昏睡状態を解除、食料を圧縮スキルで液状にした。それをコップに注ぎ、女の子に飲ませようとしたが。
「飲み込んでくれないぞ!! じゃ、これなら」
僕は転移スキルで女の子の胃の中にそれを流し込んだ。
◇
目の前には僕を睨みつけているミーシャがソファに座り、足を組んでいた。
「ラーシ様、人族を神聖な精霊殿に連れ込む理由をお聞かせ下さい」
女の子の状態を正常にしてからの処遇に困った。精霊殿に連れて来たのは、村に連れて行くにも、町に連れて行くにも、面倒な事になりそうだったからだ。ぼろぼろの女の子を背負った光景は人攫いと間違えられるだろう。違う言い方では、目立ちそうだったから、精霊殿に連れて来たのだ。
現在、女の子は僕の寝室のベッドで寝ている。
「あの娘は僕が保護したのだ」
「無暗に精霊殿を使用しないで頂きたい」
「ふ~っ、分かった。それでは出て行こう」
「では、精霊殿の魔道具は全て返して下さい。又、2度とここには来ないで下さい!!」
また、えらい嫌われようだな。
精霊殿から借用していた普段着を脱ぎ捨てた。すると、たちまち愛用の鎧が僕に装着される。
僕は寝室に向かい、まだ寝ている女の子を抱きかかえて転移した。
転移した場所……。そこは森の中だった。
僕1人であるならば、紹介書を持って町に入る事が出来るだろう。しかし、この娘をどうするか、意見を聞かなければならないだろう。帰る場所があるかもしれない。
起きるのを待つしかないか……。
体が冷えないように薪を拾い、火を焚き、そして食事を作る事にした。
空間収納ボックスから、魔物を取出し、解体スキルで解体し、火で炙る。
ぱちぱちと火の粉が舞い、煙が出て来た。
煙が少ない木を探さないといけないな。
娘は寝返りを打ちながら、ぐっすりと寝ているようだ。
しばらくすると、むくっと起き上がった。
しばらく、僕に警戒をしていたが、焼いた魔物の肉を差し出すと勢いよく食べ始めた。
食事に満足したのか、お腹を擦りながら火に近づいて来た。
「おじさんは誰?」
最初に口に出したのと同じ言葉だ。
「僕の名前はラーシ、君が倒れていたので介抱した。君の名前は?」
「ありがとうございます。セラと呼んで下さい」
しばらく沈黙が続いたが、聞かなければならない事がある。
「なぜ、森で倒れていたんだ?」
……沈黙が続く。話したくないのであろう。
「セラは帰るところはあるのか? 送っていくぞ」
「帰る場所はない。森で暮らしていて、たまに素材を村で買ってもらっている」
「そうか、これからも森で暮らしていくのか?」
だんだんと声も出るようになってきた。表情も明るい。もう大丈夫なようだ。
「うん、2年も暮らしているから平気。友達もいるから」
「友達?」
辺りを見回してもそれらしき生物はいない。
ぼさぼさの髪の毛の中から、小さな木の枝を取り出した。
「トレントのあかちゃんのトレ君」
すぐ折れそうな10センチ程の木の枝だ。
そして、トレントはこれまた小さな枝を上に上げた。
挨拶しているようだ。
「だが、瀕死状態になったのは事実だ。このまま、放置することは出来ないぞ」
え~っと言う非難めいた顔つきになった。
「それはたまたま倒れただけです」
「君はこの森で自由に生きたいのは分かるが、僕は大人として介抱した責任もある。君は保護させてもらう」
セラは保護する事に決めてある。なぜなら、このまま放置状態では僕が気になってしょうがないのだ。
「もう大丈夫です」
かたくなに拒否された。怪しいおじさんとして認識されてしまったようだ。
それもそのはずだ。出会って直ぐに保護しますと言っているのだから当然だ。知らない人に付いて行くのは躊躇われるだろう。
だが、大人に守られるのは子供の特権であり、子供を保護するのは大人の義務であろう。
「文字の読み書きは出来るのか? 身を守る手段はあるのか? 大人、老婆になっても森で暮らすつもりか? このままでは、大人に怪しい奴と思われて討伐されるかもしてれないぞ。その都度、森の奥の方に生活の場を移す必要になるぞ。森の奥に行くにつれて魔物は強くなるぞ」
ちょっと脅しのようになったが、この娘の安全を守る為にはやむを得ない。
娘は渋い顔付きになり、納得はしないが、今後に不安を懐いたようだ。
「分かりました。でも……、私が1人で生活出来るまでなら」
子供は大人になれば、独立すればいい。
ひょんな事から、<宇宙創造>の目的とかけ離れて、子供の保護者になろうとは。