●02
現在、僕はある星の上空を漂っていた。「転移」により、魔力脈を追って原点の場所……最初の拠点の星に辿り着いていた。拠点にしていた星には守護精霊を配備していたので、容易に来る事が出来た。
元々、この星には生命はなく、ただの死の星だったが僕が<生命創造>で作成した星だ。
今では青緑がかった星になり、生命の息吹が感じられる。
知った魔力脈が近付いて来た。僕はこの魔力脈を追って「転移」して来たのだ。
「ラーシ様、お迎えに参りました」
「御苦労。破壊の精霊、ミーシャ」
出迎えは守護精霊のミーシャ、1人。
ミーシャは猫耳精霊である。頭に猫耳があり、白のロングスカートに背に大剣を背負ったいで立ちで現れた。
「ラーシ様は何用でここに来られたのですか?」
ミーシャは訝し気に聞いてきた。
「この星の精霊を学びに来たのだ」
「精霊はラーシ様が御作りになったのです。学ぶ事はないと思いますが」
ミーシャは当然と言い放つように言った。
僕は<生命創造>で生命が生活できる環境を創造した。主要な精霊を創造し、他の精霊は勝手に増えていったと言うのが正しいだろう。僕が800種の精霊を作成するのは不可能なのだから。
「1億年のあいだの変化……成長を実感したくてな」
「取り敢えず精霊殿でお休み下さい。お話しは後でお伺えいたします」
この星の精霊殿はなじみ深かった。父上、兄上と今後について精霊殿の居間でよく話し合ったものだ。
ミーシャに付いて行くと、草木に覆い茂った場所……隠すようにその精霊殿のゲートはあった。僕でも分からない場所にあると言う事は、精霊殿を随時移動していたのだろう。訳は後で聞いてみよう。
精霊殿の入り口はゲートであり、ゲートは蠢く白色を醸し出していた。縦2メートル、横1メートル程のゲートだ。ゲートを潜ると、そこは精霊殿の中だ。大通路があり、天井が高く壁画が施されていた。通路脇には大きな彫刻を施した柱が平行線上に、何本も立っていた。明かりは柱と壁から光が発光しているかのようだ。僕はこの精霊殿がどのようにして作られたのかを知らない。各精霊のスキルを集結して作られた事くらいだ。僕は気にも留めていなかったが、今後は精霊のスキルを学ぶ為にもそうも言っていられないだろう。
そんな僕の気持ちを知らずに先頭をミーシャが歩き、それに僕は付いて行く。
大通路の突当りの大扉を開け。その先の小通路にミーシャと僕の靴音だけが響き渡っていく。
ミーシャがある扉の前迄来て、立ち止まり言った。
「お休み下さいませ」
「あぁ」
この扉は知っている。1億年前に僕が使っていた寝室だ。
「お食事の時間になりましたら、お呼び致します」
「ありがとう」
精霊は食事をとらない。上位精霊以上の精霊ともなると食事は一生いらないのだ。しかし、食事ができるスキルを父上が編み出した。食事という行いを楽しもうと言う事らしい。精霊を集めてパーティーを開き、食事は交流を深める為の一翼を担った。
寝室に入ると以前に比べかなり様変わりしていた。各精霊が腕を振るい調度品を作成したのだろう。全ての調度品が上限突破した魔道具であり、衣装ケースを開けると、パーティー用の衣装、普段着、鎧が並んであった。これらも上限突破した魔道具だ。壁には武器が何本も立て掛けてあり、抜き身が光できらきらしていた。
僕はベッドに俯せの状態でダイブした。
どれくらいぶりだろう、ベッドに横たわるのは……。
頭を整理して、今後の事を考えよう。
母上の助言では、精霊を個別に訪問して教えを乞うのが妥当だろう。だが、それでは要領が良くない。数名の精霊を伴って旅をするのはどうだろう。そうする事により、個々の精霊について学べるのではないか。5名程が妥当か? 10名は把握するのに大変そうだ。ミーシャに助言してもらうか。
そう言えば、食事と言っていたな。……着替えるか。
ベットから飛びおり、衣装ケースから普段着を選んでいると、手の平サイズの3名のメイド妖精が飛んできて、何やら囁いている。どの衣装が僕に似合うのか議論しているようだ。メイド服を身に纏い、ひらひらと飛びながら見る角度を変え、僕の寸法を測っている。
僕は漆黒の鎧を脱ぎ捨てると、メイド妖精は僕にクリーン魔法をせっせと掛け、体を清潔にしていた。僕は適当に黒のズボンに白のワイシャツとチェックのジャケットを羽織った。
普段着と言っても1つ1つにとんでもなく時間を掛けて作成されているのだろう。これでもかっていうくらいに付与魔法が掛けられているようだ。
メイド妖精の会話を盗み聞きしていると、メイド妖精は精霊殿の雑用をしているようだ。精霊殿のカーテンはこの魔法よりこの魔法の方が効率が良いとか言っている。メイド妖精は話しながら僕に魔法を掛け、シャツとズボンの皺をのばし、髪を整えてくれた。
コンコンコン。
ミーシャが扉をノックし、入って来た。
「準備の方は宜しいでしょうか?」
ミーシャは先程と同様に畏まった態度だ。
この最初の拠点に来てから思っていた事だが、歓迎はされていないようだ。
それはそうだろうと思う。1億年ほったらかしにし、今更突然創造主が現れたのだから、どう対応していいのか分からないのだろう。強いて言うならば、いなくなってほしいのだろう。嫌々対応しているのが良く分かる。
ミーシャに促されながら歩いて行く。
ミーシャに今後の事を相談していいのだろうか? 相談する精霊が他にいるのではないか? まず、800種の精霊を覚えるのが先決か……。
食事と言っているが、精霊殿には食事をする場所はないはずだ。どこに連れて行くのか。
「こちらになります」
精霊殿の居間に連れて来られた。
この場所が会話するには妥当だと判断したのだろう。
僕はソファに座り、ミーシャはソファの端に立っていた。そこにメイド妖精が食事を運んで来る。
メイド妖精がテーブルの上に食事を並べる。並べ終わり1口食べてみると、驚いた事に味付けされていた。調味料があるのか……この星は食事に対する発展がみられる……。1憶年も経てば、なにがしらの発展があるとはいえ……。これはその一旦か。なるほど、面白い。
「お口に合いますでしょうか?」
「食事については興味があるな」
精霊は食事はいらない。食事が出るのはパーティくらいなのだが、ミーシャはあえて食事を出したところを見ると、なにがしらの成果を見せたいのだろう。1億年なにもしていませんでしたと報告するには体裁が悪いと思ったのか。
「ラーシ様の御帰還のパーティを開きたいのですが」
このミーシャの発言は想定内の事だ。ミーシャ1人が創造主帰還を知っていては他の精霊に何を言われるのか分からないからだ。
だが、僕の帰還を他の精霊が知るにはデメリットが大きい。
これから精霊の魔法について精霊の中に入り学ぶのだ。創造主だと分かれば、心を開けないだろう。それか、気後れして会ってくれないかもしれない。
「パーティは却下だ。お忍びで来たのでな」
ミーシャは怪訝な顔になっている。この創造主は何を言っているのだろう。言葉の意図が分からないという体だ。
「それより、ミーシャに頼みがある」
「はい、承ります」
今度は何を言って来るのだろうとビクビクしている。
「精霊の一覧を見たい。どこかにないか?」
「それでしたら、知識の精霊に来てもらうというのはどうでしょう?」
<知識の精霊>を呼ぶのか……。
精霊の移動手段はそれぞれだ。最上位精霊、上位精霊だと一瞬で移動できるだろう。最上位精霊の<時の精霊><空間の精霊>は時間と空間を操り一瞬で行き来出来る、上位精霊の<水の精霊><土の精霊><火の精霊><風の精霊>は媒体があればどんなところでも移動可能だ。しかし<知識の精霊>は名前からして媒体がなさそうだ。他の精霊の力を借りないといけないだろう。
それよりも来てもらう理由を考えるのは面倒臭いな。
そして、旅をするにも目的と動機が必要になるのか……。後、どの精霊を旅に連れて行くのか……。考える事は山程あるな。
「ミーシャよ、知識の精霊に来てもらうのは却下だ。それよりも精霊の魔法を学ぶ手段はないか?」
「空間の精霊が学び舎を作っております。いろいろな精霊が集まります」
「学び舎とは何だ?」
「もともと精霊は字も書けない、読む事も出来ないので、学び舎という学ぶ場所を空間の精霊が作りました。私も通っていました」
精霊語という言語を父上が考えたのだが、下位精霊等は学ぶ機会もないので勉強する場所を考えたのだろう。<空間の精霊>は優秀らしいな。
取り敢えず、ためしに学び舎とやらに行ってみるか。
「ミーシャ、その学び舎とやらに行きたいのだが」
「それでしたら、私の養子と言う事なら入れるかと」
ミーシャの精霊格は中位精霊であり自然発生した精霊の中では第一位である。
そして種族名は<破壊の精霊>の族長にあたる。<破壊の精霊>は3000程の精霊がいて、下位精霊から中位精霊が<破壊の精霊>に属している。養子になると下位精霊の精霊格になるとの事。調べないと分からないらしいが、第3241番目の位になるらしい。
ミーシャ曰く、僕は学び舎の中では普通の序列になるようだ。一般的との事。目立たず、紛れ込むには丁度いいともいえる。
精霊格は大精霊、精霊王、最上位精霊、上位精霊、中位精霊、下位精霊に分かれていて、学び舎は中位精霊、下位精霊が生徒として行く事になるようだ。
「学び舎は4年後からの入学になります」
だいぶ先だな、4年後か。それでも1億年の年月からするとあっという間か……。
その間にこの星をざっくりと1人で見て回ろうか。
ミーシャにこの星を旅をすると言ってもどうぞと言う感じだ。我関与せずのようだ。お忍びの御遊びとしか思われておらず、僕が事故で死んでも創造主は父上と兄上の3人がいるのでどうでもいいらしい。
実際は違うのだが……。この星も兄上の暮らしている星も僕が<生命創造>で作成している。それは兄上には雑用として何でもやらされてきたからだ。兄上は<生命創造>の魔法を使わない訳ではなく、イメージが乏しくて使えないのだ。
僕が死ねば<生命創造>は解除され、僕が創造した精霊は消滅する事になる。