04
墨は屋上から飛び降りた。
落ちた瞬間は、死んだと思った。
脚から落ちたので死ねなかった。
なのになぜだろう?
脚は自由に動く。
少し痛いけど……
自由に動いた。
「もしかして既に転生してる?
この世界では最強でチートでハーレムでウハウハ?」
墨はそういって笑った。
誰もいない部屋。
誰も入ってこないマンションの一室。
最後に墨以外が入ったのをいつだったかは墨は覚えていない。
だから馬鹿みたいに笑っても誰も墨は怒られない。
「……」
墨は笑うのをやめた。
「脚が痛い。
何で痛いだけで済んでいるんだろ?
昨日の人は治癒系の能力者だったのかな。
いいなー能力者。
ずるいなー能力者」
墨はそういって今度は拗ねてみる。
拗ねたところで誰も相手にしない。
小さい頃、墨の父親は殺された。
墨の目の前でヒーローによって。
裁判にもなった。
その結果、ヒーロー協会が多額の賠償金を墨に支払うことになった。
皮肉にも墨はヒーローによって父親を奪われヒーロー協会によって生かされている。
そんな状況である。
「僕もなにか能力に目覚めないかな」
墨は自分の能力についてなにも知らない。
個性が開花されないただの一般人。
なのにヒーロー学園に推薦された。
そのせいでジルたちに目をつけられ……
そしてイジメられた。
「なにかこう爆発させる能力とかがいいなー
風とかもかっこいいよね。
ビューンって動いてドッカーンと攻撃して……」
墨の目が一瞬だけ輝くもののすぐに暗くなる。
「そんなのありえないよね。
ここは現実。現実四丁目の地獄道。
僕は僕以外の誰にもなれない。
左目は見えない。右目しか見えない。
そのうえトロい。トロくてどんくさくてそれでついた名前が大トロ」
墨は情けなくなった。
なにもできない自分が……
涙があふれる。
大粒の涙が溢れる。
「なんで僕は僕なんだろう」
どうすれば強くなるのか。
どうすれば勇ましくなれるのか。
考えても考えても答えは見つからない。
探しても答えは出ない。
「だってそうだろう?
僕は僕なのだから……」
墨はまどの外を見た。
「このままもう一回飛び降りようかな」
そう思ったとき墨の脚が痛む。
「傷は癒やしても痛みは消さないよ。
それが飛び降りた君への罰」
あのときあの少年が言った言葉。
墨は名前も知らない少年を恨んだ。
恨んでも仕方がないのはわかっている。
八つ当たりしたい相手がほしい。
でも、当たれない。
「ダメだ僕。
なにも考えるな僕。
当たったら恨んだら僕はアイツらと同じ土俵に立つことになる。
だからダメだ、押さえるんだ僕」
墨はぐっと堪えた。
堪えるしかなかった。