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ラスト・クリスマス

作者: mom

一年くらい前に書いたやつです。



俺の話を少し聞いてほしい。


それはつい5分ほど前のことだ。

クリスマスイブも終わりに近づいた12時前、繁華街でイチャつくカップルどもを呪い疲れた俺は、コンビニでエロ本を買いそれを読みながら自宅アパートへの道をポテポテ歩いていた。

街灯がポツポツあるだけの、土手の横の砂利道だった。


背中に衝撃を受け、気づくと体が宙を舞っていた。後ろから来たトラックに追突されたようだった。

俺の体はそのまま土手を転がり落ち、トラックの運転手は酔っていたのか窓を少し開けて「ふぇ?」と言っただけで下を確認もせずそのまま走り去って行った。

ちきしょう。

飲酒運転と過失運転致死で捕まっちまえ。


そういうわけで俺は今死んでいる。

エロ本片手に死んでいる。

死にたい。

いや死んでいる。エロ本片手に。


「────うがァアアァア!!!こんな死に様晒してたまるかァアアア!!!」


必死でエロ本だけでも回収しようとするがすり抜けるばかりだ。とても虚しい。


「嘘だろ?!クリスマスイブにこんな……おふくろ見たら泣くぞ?!」


このままでは葬式で俺が死んだ悲しみ以外の涙を流されることになる。

そして最悪なのはERO BOOKだけじゃない。カバンにはさっきコンビニで棚にぶつかった時に落としたであろうクリスマス向けの高級チョコレートが入っている。もちろん未清算だ。このチョコレートにはさっきエロ本を広げる時に気づいた。

ここで死んだらイブにチョコを万引きして死んでる成人男性という悲しい構図ができてしまう。

いやもうできてしまっている。

隠し通そうにも死んでるしこの通り手がスカスカすり抜ける。虚しい。

朝になって見つかって検死とかされたら未清算チョコだと分かるんじゃなかろうか。

いやそこまで調べないかな…コンビニも高級とはいえチョコレートで被害届とか出さないだろうし……いやでも俺事件性ある死に方してる気がするからいろいろ調べられるかも…


「……死にたい…」


いや何度も言うがもう死んでる。

長年のクセでうっかり生者っぽいセリフを言ってしまうが死んでる。

そもそも死んでるのにこんな意識?みたいのがあるから悩むんじゃなかろうか。

いっそそのまま意識ごと召してくれや…

おーい神さま忘れ物ですよー!


「あひゃひゃひゃひゃ、一人芝居始めよったww」


「は?!」


何だこの不快なDQNみたいな笑いとコメントは…


「あー、よろしくシクヨロ天使で~す。にしてもクリぼっち死wwwwお疲れどんまいお疲れちゃ~んwww」


同じこと何回も言う奴だな……

ってか天使って言った今?


「どんどんどんまいドントマイケル有馬チャ~ン!今からあたしと頑張ってけばおるおけ!」


「お前絶対バカにしてるだろ?!」


「いやいや全然バカにしてないっぴょ~んww」


「嘘つけ!!………って、何で俺の名前知ってんの…?」


いくら死んで朦朧としてるからってこんな不審者に名乗るわけないし…


「だーかーらぁ、天使や言うとるがな!適応力ないな~。あ、だからクリスマスもエロ本死なのか!なるへそ~ww」


こんな妙に大阪弁でクソ失礼な天使嫌だな…


「とりま逆転一発天界チャチャチャチャンスにチャレンジするかな~?!」


「………は?」


最近の若者の言語聞き取れない…


「するかな~?!」


「えぇ~……」


小声でめっちゃ「いいとも~!」って言えって指示してくる……


「するかな~?!!」


「い、いいとも~…」


パリピ怖ぇえ~…


「ちょっとちょっと有馬チャン!ノリ悪~!一人芝居はあんなノリノリやったのに!ソロプレイがお好きですか?ん?そこんとこどうなん?」


なにこの絡み系天使…マジで怖いんですけど。


「ところで天界チャンスってなんすか?」


「天界チャチャチャチャンス?」


それテンション高く言っただけじゃなくて正式名称だったのか…


「クリスマス特別企画で~、えっと…ちょい待ち。」


ポケットから折りたたんだ紙を取り出した。

つーかよく見たらサンタ風ワンピース着てんじゃん…イブに浮かれてる奴じゃん……


「えー、イブに孤独死した可哀想な人間限定!今日中にちょっとしたナゾが解けたら来世何になるか自由に選べます!」


「ズバリ言うね?」


全国のクリぼっちバカにしてんだろ。


「あ、詐欺じゃないからね?」


「えっ、詐欺とかあんの?」


なら詐欺じゃないってわざわざ言うコイツも怪しいけど。


「最近死にたてホヤホヤを狙った詐欺が多くてな~、死んだ後に来世ローンで変な数珠とか来世で頭良くなる権利(嘘)とか買わされとんねん!笑けるやろ?!」


笑えね~!

来世ローンって何?!その詐欺ハマったら生まれる前から来世死んでんじゃん!


「死後の詐欺とか対策しようがないじゃないスか…」


「それもそやなー!天使って言われたら信じるヤツ多いねん。人間割とピュアやから。」


お前ほど怪しさ丸出しで来たら流石に死にビギナーでも警戒するだろうけどな。


「ところでちょっとしたナゾって?」


来世選べるってちょっと夢あるよな。意識継続するかしらんけど。


「有馬チャンの死因はなんでしょ~か?」


「え、トラックに轢かれたんじゃないの?」


「ブッブ~!ワンペナでーす。因みにワンペナごとに来世のモテ度が20%ダウンしま~す。」


ペナルティ重っ!!


「いやいやいや、今のアンサーじゃないから!ただの疑問だから!ね??」


「……仕方ないな~。じゃあ今からネ!推理スタート!」


「え、つーかトラックじゃないって……え、なんで?」


確かに当たったよな?感触あったよな?


「もうちょい原因的なやつかな~。あ、推理にあたって今あたしたち以外時間止まってるから。自由に動いていいよ。」


「はぁ…」


とりあえず自分の死体でも調べてみるか。


「『スケスケJK100連発』……こんなのが好きなん?」


「やめんか!!それは調べんでいい!」


天使から本をひったくる。

人の恥を蒸し返しやがって…


「……あれ、触れる。」


そっか。調べる用になんか特別に触れるようになってるのか。この機会にエロ本とチョコは破棄しとこう…ラッキー。


「あ、ズルいで!あたしにもちょーだいや。」


「へいへい。」


大阪ご当地エンジェルと高級チョコをつまみながら俺を調査する。

しばらく調べているとバイト先の先輩から連絡が来ていることに気づいた。


「そういやメール見てなかった。何だろ。」


まぁもう死んでるから見ても仕方ないんだけど。


「『暇なら家来ないか?クリスマス会しようぜ 笑』…クリスマスのお誘いやん。良かったなー。」


「……そうか?」


死んでるから行けないけど……


「せっかくやから行ってみよーや。時間いっぱいあるし!」


手を引っ張られるとすぐ空間が歪んで、気づくと先輩の家にいた。


「おー、便利だな~。」


「あ、見てみて!めっちゃケーキとか用意してある!こいつ浮かれすぎやんwww」


ヤローだけの悲しきクリスマスに張り切り過ぎだろ。俺行くって言ってないのに。


「死んじゃって悪いことしたな。」


「いや、有馬チャンこっち来ても死んでたからな。」


「へ?」


「今日死ぬ運命やしトラック回避してもあちこちで死ぬで~。」


あちこち?!

なにその死の投げ売り……


「駅行ったら酔っ払いに押されて死ぬし公園行ったらブランコに首絡まって死ぬし実家帰ったらガスボンベの爆発で死ぬし…」


「もういいです…。」


ろくな死因ねーな。


「あ、先輩だ。」


隣の部屋に目をやると、先輩が何かを握って佇んでいた。


「ほんとに止まってるんだ。」


動かない……けど動かしたら動くな。何握ってんだ?


「お、これは……手錠やな。」


「は?!」


なに先輩何で手錠持って立ってんの?!………つーか怖!!よく見たら表情すげー危ない!!

手錠見つめて犯罪者スマイルしてる!


「なーなー、こっちの部屋見てみ~。」


天使に呼ばれて行くと壁一面に写真の貼ってある部屋があった。…俺の。


「なんじゃこりゃあぁぁぁ!!!」


「おっ、イイネ~。いいリアクションいただきました~!」


何で俺の写真貼ってんの?!は?!

ちょっと待て、ちょっと…


「ここに日記もあるよ?」


天使が楽しそうに持ってくる日記を見ると、要約すると「今日はついに有馬が俺のものになる日、拒絶されたら心中」的なことが書いてあった。


「嘘だろ?!!」


全てが意味わからん!

先輩はホモで精神疾患だったってこと?!!


「目につくとこにナイフあるしこれでザックリいかれるとこやったなwwとりあえず時間あるしこのケーキとか食べてから次行こ!」


「んな呑気な…。」


頭が全然追いつかないのでとりあえず勧められるままに無心でテーブルにあったチキンを食べる。


「これめっちゃ美味しいなー!!お口の中が核融合爆発やわ~!!」


何その危ない食レポ。


「有馬チャン暗~い!クラッカーもあるで~。」


パンパン!と天使がクラッカーを鳴らす。

気に入ったのか、あるだけ部屋に撒き散らしている。


「先輩がこんなに危なかったなんて…」


「先輩だけちゃうでwほらスマホ見てみ。」


俺のスマホを弄ると画面を見せて来た。


「なにこれ?」


「GPSアプリやな!有馬チャン見張られてるでwww」


「は?!誰に?!」


「じゃあちょっと見てみよか。」


また空間が歪むと今度はツリーのイルミネーションの前に出た。


「確かこの辺に……おったおった。」


天使が指す方を見ると妹が立っていた。


「この子な、有馬チャンの帰り道でバッタリでくわそうと思って待ち伏せしてんねんwwメンヘラ妹とかやるなー有馬チャン!」


背中をバシバシ叩かれる。

半信半疑で妹のスマホを見ると、確かに待ち受けは俺だし例のアプリは入ってるし俺との愛の計画書とかいう怪しいブツも出てきた。


「愛されてるね!」


「こんなん知りたくなかった……」


「じゃあダメ押しでラスト、ストーカー行ってみよー!」


まだいんのかよ…

つーかこの妹もストーカーでは………


「あそこの木の影なー。」


今度は最初俺が死んだところの近くに出た。

木の影……眼鏡の子がいる。ビデオカメラを構えた…


「…これ見ていいの?」


「何を今更w」


ビデオカメラを巻き戻して再生すると、今日の俺の後ろ姿が1日分映っていた。


「マジのストーカーじゃねーか!!」


記録型の!


「ひゅ~!モッテモテ~!」


嬉しくねーわ!!


「ん、あれ……?」


ビデオを進めると俺が死ぬ直前のところまできた。

これって死因わかるんじゃ……


「あ……………」


直進するトラックの前を女子が歩いている。

俺はその子を突き飛ばした直後宙を舞った。

女の子はキョロキョロしているが、暗い道で俺は土手に落ちたので見つからなかったようだ。

ここでビデオは終わっている。天使の介入で時間が止まったのだろう。


思い出した。

そっか、俺女の子をかばって轢かれたんだ……


「ハイ正解~!!おめでと~!」


お、親に顔向けできる死に方で良かった…。


「どうする?来世なんにする?」


「えっと……あー、じゃあ犬で。ポメラニアンあたり。」


「別に干支にちなまんでもいいねんで。人間じゃなくていーん?指名人気No. 1やけど。」


ホストかよ。


「いや、今世一応モテてたしモテてても正直どうかなって感じだったからもういいかなって…犬楽しそうだし。」


こんなんだけど一応女の子とクリスマスっぽいことできたしね…チキン食べてツリー見て……


ちなみにこのあとは天使のお節介で実家の様子を見に行ったり心残りを減らしてから天に召した。


「じゃあ来世はモテモテわんちゃんにしといたるわ。暇やったら様子見に行くなww」


こいつ絶対からかいに来るな…

退屈しなさそうだしいいけど。


「まぁじゃあ、来世も宜しくお願いします。」


ま、来世もぼちぼち楽しむか。



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