始まりの日
「ねえ、祭ちゃん。今週の土曜日空いてる?」
「うん、空いてるけど、どうしたの?」
「一緒に「ポリポリポリス」って映画見に行ってくれる人探しててさ、良かったらどう?」
「え、いいの?嬉しい。楽しみにしとくね。」
これが、僕、山田完介がした高校生活2週目の会話である。
僕は、リア充だ。男友達・女友達・彼女など、人間関係に困ったことは、今まで一度たりともない。初彼女は、小学4年生の時でそれから高校1年生の今まで彼女歴が途絶えたこともない。そう。すなわち、正真正銘のモテ男なのだ。
「いいなー。お前は。学年1の美少女、雛森祭ちゃんとデートに行けるなんて。」
「お前だって、恭子ちゃんがいるじゃん。4年も続いているのに文句をいうんじゃありません。」
嫉妬の眼差しを向けるいかにもスポーツマンっぽい男の名は、山中劉備。僕と同じく、男にも女にも人気が高いが、義理堅いやつで、モテまくるにも関わらず、彼女一筋のグッドガイだ。
そういう僕はと言えば、二股などの浮気はしないことにしているが、飽きれば次の女に乗り換える超遊び人である。自分で言うのもなんだが。
僕は女の子が好きだ。あらゆる意味で、女の子が好きなのである。大好きなのである。
女の、女による、女のための人生。それが僕の人生の始まりであり、ゴールである。
「ところでさ。もう完介は、童貞卒業したの?」
声を潜めて、俺の耳元で山中劉備がささやく。
「ふむ。劉備くん。その議題は、少々この空間には余りあるものだね。来たまえ。」
そうやって、僕は劉備を連れて、渡り廊下に出る。
「その話をこの僕にふってくるということは、お前、、、もしや、、、、」
山中劉備の目がギラっと光る。間違えない。こいつ、男になろうとしていやがる。
「ま、そういうことだ。俺は、男の最大の課題を一つクリアしちまったんだ。」
「な、なんだとおおおおおおおおおおお」
早すぎる、早すぎるよ劉備。貴様謀ったな。
「で、感想は?」
「とりあえず、超気持ちよかった。」
「羨ましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。」
なんかツヤツヤしてると思ったんだよ。なんか一皮むけたと思ってたら、本当にむけてたんかい。こいつは。
童貞卒業。
それは、男がもつ最初にして最大の課題。
受験勉強など、この課題に比べたら屁でもない。
「そうか、でも、俺は嬉しいよ。」
「完介」
「お前たちがまた一歩幸せになってくれて。」
つい、涙ぐんでしまう。ライバルが先に言ってしまうのは、少し寂しいけど、戦友の勝利を今はただただ祝福したい。
「お前のことだ。すぐに俺に追いつくだろう。つーことで、先輩の俺から一つアドバイスしてやろう。」
「謹んでお受けいたします。」
「ゴムは、薄ければ薄いほど、気持ちいいぞ。」
ガシッ。
気づくと、俺たち2人は、固い握手を結んでいた。
「学年1の女で」
「ああ、行ってくるぜ。」
そうして、男の約束は終わった。
そして、時は過ぎ次の週の月曜日。
一度目を経験して迎えた、スーパーハッピーな月曜日。帰宅中に僕、山田完介は、山中劉備と共に夢の一夜について語り合い、すっごくホクホクしていた。
「いや、劉備様様ですよ、本当に。」
「何言ってんだ、お前だって俺に祝いをくれただろう。そのお返しだろ。」
「持つべきものは友達だな。」
アイスの冷たさと甘さに2人で悶絶していると、ふとケータイがなった。
雛森祭からの着信となっている。
「祭ちゃんから着信だわ。」
「お、そっか。俺も今から恭子とこれから一緒に勉強する約束しているから、じゃあな。」
「ウイーッス」
山中劉備の背中を目で追いつつ、電話に出る。
「もしもし、祭ちゃん?」
「もしもし、完介くん?」
「どしたの?」
「えっとね。実は、お友達をやめて欲しくて」
「え?」
なんだ?どういうことだ?
この前の土曜日のデートで、告白されたのは俺の方で、さらに、大人の階段に登ろうと誘ってくれたのも雛森祭の方からだったはず。嫌われる理由を探すも全く思い浮かばない。
「え?ごめん、なんで?」
「なんででも。ごめんね。じゃあ、バイバイキーン。」
ブチっ。
電話が切れてから、なんども掛け直すが、一向に電話もラインもメールも繋がらない。着信拒否、ラインブロックなどを、全て済ました上での連絡だったのか。
それにしても、「バイバイきん」は酷くないか。流石に傷ついたぞ。
背中がやけに冷たい。
無意識で大量の汗をかいていたらしい。
こんなこと今まで、人生で一度もなかった。女の子に告白され、振るのはいつも自分。
それも、理不尽な理由で振ったことは一度もない。引っ越しが理由だったり、本当に他の子に気が移ってしまった時だけ、やむを無しに振ってきた。
それがいきなり、なんで?
家に帰りながら、ずっと頭で理由を考えても、わからない。
「他の女の子と遊ぼ。」
そう前向きに捉え直そうと努力しながら、自室に入る。
すると、1人のおじいさんが、立っていた。
いや、
「浮いている? て、おわっ・・・、びっくりするな。」
「こんにちは、山田完介くん。私は、この宇宙の管理人やらせてもらってるもんでの。君たちの言葉を借りているなら、妖精ってやつじゃ。」
「神様的なやつ?」
「いや、神様って、全知全能なんでしょ?そんなチートな能力は流石に持っておらんでの。」
なんか、中途半端だ。どうせなら神様って言って欲しかったな。しかも、妖精って、もっと可愛い女の子のイメージなんだけど。
「突然で悪いがの、君に一つだけ命令しにきた。」
「お願いじゃなくて命令?」
「うむ。」
なんかやばそうだ。聞きたくない。
「君には、世界平和を実現してもらうことになった。ツーことでよろしく。」
こうして、僕は、世界平和を実現することになった。