劇
冬休み初日。
俺は自室に居た。別段する事もなく――山のように課題は出たのだけどもまぁ、手を付ける気分じゃない。
誰に話すでもなく、俺は言った。
「好きだ」
昨日の事を思い出す。
別れ際謝っていた後輩。
他に好きな人が居るから、ごめん! 無理! これならわかる。これなら俺もスッパリ諦めて先輩、後輩の関係でこれからもやって行きたい。寧ろ後輩の恋路を応援していたかもしれない。
先輩としてしか見られていなかったパターンはどうだろうか。俗に言う友達以上恋人未満だ。この場合、俺が焦りすぎたんだろうなと思う。踏み込むタイミングが早すぎたせいで、後輩を混乱させてしまったのかもしれない。
何にせよ、だ。
「別れ際、ごめんなさいは無いだろ。後輩」
考えに考え抜いたが、そのどれにも敗因は当てはまらなかった。
あの顔をさせた原因が俺にあるのなら、謝らなければいけない。
ふと、初めて会った時の事を思い出す。
新入生達は、上を向いて歩いていた。期待と不安。少なくとも皆、いい顔をしていた。
その中で一人、下を向いて歩いているのならば嫌でも目に入る。
お節介でも、差し出がましくとも、放ってはおけなかった。
悲しいのか、泣きたいのか、つらいのか。表情を押し殺した、あの顔を。
「メールは・・帰ってないか」
ごめんな、と一言送った。
言葉を重ねるほどに陳腐になる文面。書いては消し、書いては消すのを繰り返す事3時間、結局は4文字に収まった。俺はわからない。本当にわからなかった。
理解したつもりになっていた。あいつの事を。でも本当は――
だから俺は、謝るしかなかった。
何に謝っているのかは、わからない。
嫌われたくないから、取り敢えず謝った。我ながら軽薄すぎて反吐が出る。
でも今は、文章でもいい。後輩の言葉を、聞きたかった。
俺は手にしたモノを、見る。
紛失したとばかり思っていた、後輩の入部届。
土下座をして謝り、もう一枚書いてもらってそれを顧問に提出した。その、オリジナル。
そこには後輩の住所、緊急時の電話番号等が書かれていた。
ストーカーくせえなあ、と自嘲する。
住所を教えていない部活の先輩が、突然家に来たと考えた時の後輩の気持ちは想像に難くない。
俺ならドン引きもいい所だろう。情報元が失くしたと思っていた入部届だとすると、気持ち悪いのを通り越して距離を置くレベルだ。それが・・仮にフった次の日だと尚更。
「善は急げ、だよな。姉ちゃん」
百戦錬磨の姉はうそぶく。鉄は熱い内に打てと。
これが原因で嫌われたっていい。退部届けを突きつけられても構わない。
自分の気持ちに嘘だけは、つけない。
○
娘を部屋に呼んだ。
今まで、色んな子に手を付けたが、あの子だけは格別だった。白く、磁気のようにきめ細かな肌。スタイルも高校生の割に、良い。
ただ、あの子を格別とまで私に言わせるのが、ヤる最中の仕草、表情だ。
涙目になりながらも、私の言う事に逆らわず、従順に命令に従う。まるで王様にでも成った気分だよ。とするとあの子は奴隷かな?うん、美味い事を言った。そういったプレイもいいだろう。
嫌と言えば妻の事を引き合いに出す。
ハッ、あの時の顔を思い出すだけで股ぐらがいきり勃ちそうだ。
私は人生を通して、過去を反省した事は無かったが、一つ出来た。
隠し撮りしてまで回りくどい事をせず、そのままヤれば良かったのだと。
あそこまでコントロールしやすい子は中々居ない。否、あの子だけかもしれない。嫌な顔をすれば妻の事を。嫌だと言えば妻の事を。――視線を合わせなければ、妻の事を。
あの時の泣き笑いしたような顔は最高だったよ。
私は心の底から再婚して良かったと思う。
私は再婚して良かったと思う。ハハハッ。
部屋をノックする音が聞こえる。ノックの心地よい音と共に股間に血が集まってくるのがわかる。
「おまたせ、パパ」
パパ?この子も私の喜ばせ方をようやく理解したらしい。
「お義父さんじゃなくてパパか。ククッ」
「パパはパパでしょ?変なの」
クスっと娘は笑う。今日はそういった趣向か。今日は任せてみるのも一興だろう。
「私ね、虫歯があるんだよ。ずっといたいの」
確か妻から完治していると聞いたが・・そうかそうか。
「ズキズキーっと痛むんだ」
「そうなのか。じゃあ治療しないとな」
私は椅子から立ち上がり、娘の前まで来る。まてよ、ナースの衣装がどこかにあったような・・まぁこの場合患者は娘か。
「うん」