二人の気持ち
初めて二人で星を見に行ったあの日から、俺は後輩に思いを募らせていった。
あの日、殆ど6割近くの時間を寝てしまった俺は、自分でもどうかと思う。念入りに計画を立てた(2日と少し)筈がこれじゃあ台無しもいい所だ。天文部初の課外活動も、これじゃあ絞まらなすぎる。
それでも、後輩は嫌な顔せず――いや呆れていたなアレは。いやまあ申し訳ない気持ちで一杯だった。
そんな顔をしながらも差し出してくれたコーヒーは、暖かかったのを憶えている。
好きだと“思う”から“好き”に。からかってくる時の控えめな笑顔、ふとした時に見せる儚げな寂し顔。一挙手一投足から目が離せられなかった。
――先輩、どうしました?
あぁ、いや。今日もいい天気だなぁって――
――今日は土砂降りですよ? ふふっ、何時にもましてボケてますね。
あーあーあ、そんな事言っちゃうか?じゃあボケちまったら後輩に面倒見てもらおうかな――
――勘弁してください、先輩。
あの時の後輩の真顔っぷりには笑ってしまった。
まぁ、ボケてたわけじゃない。くっそ、本当の事なんて言えるわけがないじゃないか。気がついたら無意識に目が後輩を追っていたなんて、ドン引きもいい所だ。
そんな他愛もない日々が続く。俺は後輩に今一度、自分の想いを伝える事にした。
○
初めて星を見に行ったあの日あの瞬間。私は先輩に全部、全部。自分の全てをぶちまけようとしていた。
現地についた途端、眠りこけてしまった先輩。
星を見に行こう、殆ど思いつきのような提案からたった2日で実現した夜間観測。正直、勉強はしているものの、実際に観測に行くとなると良くわからなかった私は、先輩に丸投げにした形になってしまった。 寝る間も惜しんで計画立てをしてくれていたと思うと、嫌な気一つ沸いてこない。
こんな間抜けな寝顔一つで、私をドキドキさせる先輩はずるい、と心から思った。
そして、あの瞬間――
「そろそろお開きにしようか」
先輩は片付けの準備に取り掛かり始めた。
この時間が続いて欲しい、そんな思いから私は咄嗟に――
「私、ずっとこのまま見ていてもいいよ」
敬語すら忘れてしまった。自分の純粋で正直な想い。
どうか届かないで――
どうか私を――
「ん?ごめん聞き取れなかった。もう一回言ってくれ」
やっぱり先輩は先輩だ。肝心な所でこれだから、と私は内心苦笑する。
先輩は、私を誘ってこの日常から連れ出してくれた。今度は私から踏み込んでみよう、と思った。
「私が、悪い事をしていたら、先輩、どうします?」
問い方は、随分ぼかしてしまった。これじゃあ一体何のことかわからないな、と私は自嘲する
全部、話をしたら天文部を抜ける事を考えていた。
私は先輩が好き・・なんだと思う。
でも、こんなに心も、体も。汚れた女を好きになってくれる人なんて、この先ずっと、居ない。知られてしまうときっと嫌われる。だから、せめて。自分に正直で在ろう。先輩にだけは、見てほしい。
好きは好きのまま終わらせたい。嫌いになんて、なってほしくないけれど――
言い切った後、返事も聞かずに何処かへ行こう。どこがいいかな――
「怒るに決まってるだろ。まあ後輩のする事だ、悪い事をしていたとしてもたかが知れてるよ。まー俺は容赦しないからな! 地の果てまで追ってぶん殴ってやるぜ!」
どこか諭すような、言い聞かせるような。遠い過去、お兄ちゃんにも同じ事を言われた、そんな気がした。
先輩、お兄ちゃんみたい。私はそれしか出て来る言葉が無かった。
○
“悪い事”のただ中でも、先輩の事を想うと苦ではなくなった。
先輩が、いつか。どんな場所に居ても怒りに来てくれる。そう思えば、乗り切れた。
そう想う事で、壊れてゆく心を繋いでいく。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、先、輩――“大好き”だよ。
遅れました。終わり方が纏まったのでハッピーに終わらせようと思います。






