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人を殺した後輩へ。  作者: サブロー
5/8

二人の気持ち

 初めて二人で星を見に行ったあの日から、俺は後輩に思いを募らせていった。

 あの日、殆ど6割近くの時間を寝てしまった俺は、自分でもどうかと思う。念入りに計画を立てた(2日と少し)筈がこれじゃあ台無しもいい所だ。天文部初の課外活動も、これじゃあ絞まらなすぎる。

 それでも、後輩は嫌な顔せず――いや呆れていたなアレは。いやまあ申し訳ない気持ちで一杯だった。

 そんな顔をしながらも差し出してくれたコーヒーは、暖かかったのを憶えている。


 好きだと“思う”から“好き”に。からかってくる時の控えめな笑顔、ふとした時に見せる儚げな寂し顔。一挙手一投足から目が離せられなかった。


――先輩、どうしました?


あぁ、いや。今日もいい天気だなぁって――


――今日は土砂降りですよ? ふふっ、何時にもましてボケてますね。


あーあーあ、そんな事言っちゃうか?じゃあボケちまったら後輩に面倒見てもらおうかな――


――勘弁してください、先輩。

 

 あの時の後輩の真顔っぷりには笑ってしまった。

 まぁ、ボケてたわけじゃない。くっそ、本当の事なんて言えるわけがないじゃないか。気がついたら無意識に目が後輩を追っていたなんて、ドン引きもいい所だ。

 

 そんな他愛もない日々が続く。俺は後輩に今一度、自分の想いを伝える事にした。



 初めて星を見に行ったあの日あの瞬間。私は先輩に全部、全部。自分の全てをぶちまけようとしていた。

 現地についた途端、眠りこけてしまった先輩。

 星を見に行こう、殆ど思いつきのような提案からたった2日で実現した夜間観測。正直、勉強はしているものの、実際に観測に行くとなると良くわからなかった私は、先輩に丸投げにした形になってしまった。 寝る間も惜しんで計画立てをしてくれていたと思うと、嫌な気一つ沸いてこない。

 こんな間抜けな寝顔一つで、私をドキドキさせる先輩はずるい、と心から思った。

 そして、あの瞬間――

 

「そろそろお開きにしようか」

 先輩は片付けの準備に取り掛かり始めた。

 この時間が続いて欲しい、そんな思いから私は咄嗟に――


「私、ずっとこのまま見ていてもいいよ」


 敬語すら忘れてしまった。自分の純粋で正直な想い。

 どうか届かないで―― 

 どうか私を――


「ん?ごめん聞き取れなかった。もう一回言ってくれ」

 やっぱり先輩は先輩だ。肝心な所でこれだから、と私は内心苦笑する。

 先輩は、私を誘ってこの日常から連れ出してくれた。今度は私から踏み込んでみよう、と思った。


 「私が、悪い事をしていたら、先輩、どうします?」


 問い方は、随分ぼかしてしまった。これじゃあ一体何のことかわからないな、と私は自嘲する 


 全部、話をしたら天文部を抜ける事を考えていた。

 私は先輩が好き・・なんだと思う。

 でも、こんなに心も、体も。汚れた女を好きになってくれる人なんて、この先ずっと、居ない。知られてしまうときっと嫌われる。だから、せめて。自分に正直で在ろう。先輩にだけは、見てほしい。


 好きは好きのまま終わらせたい。嫌いになんて、なってほしくないけれど――

 言い切った後、返事も聞かずに何処かへ行こう。どこがいいかな――


「怒るに決まってるだろ。まあ後輩のする事だ、悪い事をしていたとしてもたかが知れてるよ。まー俺は容赦しないからな! 地の果てまで追ってぶん殴ってやるぜ!」


 どこか諭すような、言い聞かせるような。遠い過去、お兄ちゃんにも同じ事を言われた、そんな気がした。

 

 先輩、お兄ちゃんみたい。私はそれしか出て来る言葉が無かった。



 “悪い事”のただ中でも、先輩の事を想うと苦ではなくなった。

 先輩が、いつか。どんな場所に居ても怒りに来てくれる。そう思えば、乗り切れた。

 そう想う事で、壊れてゆく心を繋いでいく。


 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、先、輩――“大好き”だよ。

 

 

遅れました。終わり方が纏まったのでハッピーに終わらせようと思います。

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