光
私は、この世から光が消えてしまったと思っていた。
あの時のお義父さんの貎を思い出すだけで、友達ともうまく話せない。
徐々に孤立していく私は家でも学校でも、居場所は無くなった。お母さんの前だけは、明るく振る舞うように努力した。笑顔を作れば作るほど、私の心は摩耗する。
そんな日々が続いたせいなのか、感覚が麻痺したんだと思う。とっても悲しいのに、つらいのに。
涙は出なかった。
お義父さんがする“悪い事”は、私が受験期に入るとぱったりと止んだ。私は逃げるように勉強に没頭した。幸いにも第一志望に合格し、高校生になった。
入学式。期待と不安が溢れ、わくわくとした雰囲気が感じられる同級生達。私はどこまでも場違いだった。
これからの3年間を思うと気が重くなる。これまでの3年間も十分すぎる程重かったのに、やっと折り返し地点。早く一人になりたかった。
○
この学校は入学式が終わった後に、式場である体育館出口で部活動の勧誘を行うのが伝統らしい。逃げるように立ち去ろうとしたその時――
「君は天文学に興味がありそうな顔をしているな! 星を知る事は自分を知ることにも繋がるぞ! ほら、えーと・・星座占いとか?」
立っていた場所が悪かった。私はどうも勧誘されているらしい。
「私に、構わないでください」
自分でもゾっとする程の低い声が出る。とっさに謝ろうと思ったけど、やめた。どうせこの人とは金輪際関わりなんて、ない。
「・・ごめん。ちょっと馴れ馴れしかったよな。自分でもどうかと思った、うん」
どこかでこの声を聞いたことがある気がして――とっさに振り返る。
「まぁ、あれだ。話だけでも聞いていってくれたら嬉しいよ。俺がいくら新入生に声かけても素通りされるんだよなぁ・・何が悪いんだろ」
“あの日”以来、見る事が叶わなくなった顔を、見る。
その人は真っ直ぐ、私の目を見てくれていた。私は咄嗟に目を逸らした。その人の目は眩しくて、私の目は濁っているような気がして――
「・・占いはどちらかと言えば心理学に近いです。自分の星座なんてだいたいみんな知ってますし、・・って近い近い!? 少し、離れ――」
「俺の見立ては間違いじゃなかった! 興味があるんだろ? 俺は天文部のたった一人の部員なんだよ。顧問から、6月までに部員が入らないと廃部にするなんて脅されてなぁ・・。俺を助けると思って、どうかここは一つ話だけでも聞いてくれ! いや聞いてください!」
私の手を握って、頭を何度も下げる先輩。人の話を聞かない人、第一印象はそんな感じだった。
でも、その手は暖かくて、大きくて。――話だけなら、聞いても良い気がして。消えたと思っていた光が薄っすらであるけれど、見えた気がした。
「それでは、話だけなら、聞いてあげます」
久しぶりに人と話した私。とっさに口から出た言葉は随分上から目線になってしまった。私がこんな返事をされたらきっと距離を取るだろうな、と自嘲する。結局、光は自分で散らしてしまった。
それでも、光は私を照らした。
「おっノリ気だな! 任せてくれ、俺は子供の時から役立つ星のうんちくを大量にストックしてあるから、あっという間に虜にしてやるぜ! ん? この言い方はちょっとアレか・・?」
こうして、先輩は私を逃がさないとばかりに天文部の部室へ移動を提案した。
二つ返事で了承した私は部室への道すがら、先輩の背を追いながら、静かに涙を流した。悲しくて、つらかった時に流れなかった涙が、止め処なく溢れ出る。理由は、わからなかった。
先輩は歩きながらも星座や星の解説を続ける。私は相槌をうちながら、新品の制服で涙を拭う。
何故だかわからないけれど、
泣いている事を知られたくなかった私は、平然を装った。
○
私は晴れて天文部の一員になった。
先輩との日々、一秒一瞬が愛おしかった。
けっして口には出さないけれど。間抜けそうで馬鹿で優しい先輩の事を、私はきっと――。
この場を借りて懺悔させてください。
最初バッドエンドを考えていましたが、書いている内に後輩と先輩に感情移入してしまいこのままじゃ駄目だと思いました。
大筋から外れずに超ハッピーエンドに修正します。みんなハッピー!