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人を殺した後輩へ。  作者: サブロー
2/8

過去

後輩編です。

 私には兄が居た。2つ違いの兄は当時子供だった私から見ても優秀だった。テストがあれば満点、所属していたサッカークラブでも大活躍。皆に慕われる兄だった。


 小さかった私はずっとそんな兄の後をついて回った。兄が右に行けば右へ、左に行けば左。随分鬱陶しい妹だったに違いない。私が兄なら辟易するだろう。


 だけど兄は優しくしてくれた。勉強でわからない所があれば丁寧に、運動会が近づけば100m走ビリ常連だった私を少しでも順位を上げられるように鍛えてくれた。結局、ビリだったけれど。

 そういえば家の花瓶を割ってしまった時にも一緒に謝ってくれたっけ。


 自慢で、大好きで、とても誇らしいお兄ちゃんだった。


 楽しい日々は突然終わってしまった。

 偶然、下校時間が被った私と兄は一緒に家に帰る事にした。私はその日あった出来事をずっと話していたっけ。

 今日の給食おいしかったね、とか今日の○☓先生ずっと機嫌が悪かったね、とか。思うにくだらない事だ。

 うんうんと笑顔で聞いてくれていた兄の顔は心底面白可笑しそうだったのを、私は憶えている。


 横断歩道に差し掛かる。話に夢中だった私は赤信号だったのにもかかわらず渡ってしまった。

 後ろから兄の大声で気づいた時にはもう遅かった。おっきなトラックは私の目の前。


 死ぬのは私でよかったのに。


 トラックに接触する瞬間、兄はトラックとのクッションになるように私を抱きしめた。

 

 そして兄は――

 

 そこから先は記憶が曖昧だけれど、兄の墓前に立つ両親の顔は忘れようにも忘れられない。


 兄の事故死から数ヶ月後、お父さんが経営する会社が倒産した。私は詳しいことは聞いていないけれど、借金に次ぐ借金でもう数年前から立ち行かなくなっていたらしい。


 お父さんは職を失った日から家で呑んだくれるようになった。夜になると聞こえてくる両親の喧嘩。とっても辛かった。私はお兄ちゃんが使っていたイヤホンを耳栓代わりにして眠る事が多くなった。

 お兄ちゃんが耳を塞いでいてくれている気がしたから。


 そんな生活が続くと両親は離婚した。私は嬉しいのか悲しいのか、よくわからなかった。お兄ちゃんが居た頃にみんなで笑いあった日々、実際にあったのかすらわからなくなった。


 私はお母さんに引き取られた。


 お母さんと二人だけの生活。お父さんも居なくなって寂しかったけれど、お母さんと私はお互いに頑張っていこうね、と励ましあった。私はこれ以上家族が居なくなる事に耐えられなかった。お父さんの分は私が、お兄ちゃんの分も私が頑張ろう、この頃はそんな事を思っていたような気がする。


 しばらくするとお母さんは男の人を連れてきた。

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