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♂♀ 魔王代理の華麗なる日々 (序)

 


 漆黒の森に囲まれた、聳え立つ灰色の城。



 重厚な魔人王の居城、魔王城 「ダスク・スプレンドーレ」 



 城内には破壊の跡がくっきりと残り、あちこちに黒紫の煙を立ち昇らせている生き物が伏し倒れていた。


 阿鼻叫喚の地獄絵図の中を歩く、白銀に輝く鎧を付けた一行。


 行く先は魔人王 ガイル・ラベク の待つ謁見の間。 一行の先頭に、至聖騎士ハイパラディンが位置し、行く手を遮る者達を、容赦なく排除する。



 ”頼む、出てこないでくれ。 用が有るのは、魔人王だけなのだから”



 先頭を歩く至聖騎士ハイパラディングッタベル=ジーナス の願いも虚しく、謁見の間に続く回廊には、ガーゴイル共が蠢いていた。



 *****



 ヴァッサー帝国 の皇帝より、魔人王討伐の勅命を勝ち取った、ジレーヌ=ファム=ヴァッサハーブ 第三王女の討伐部隊パーティは、至聖騎士ハイパラディンを先頭に、無事、魔人王の棲む魔王城への侵入に成功した。 当初の予測に反し、魔王城内には、精鋭たる魔人兵の姿は無く、巡回するは、ガーゴイルのみ。



 ジレーヌ第三王女は、ふと、隣を注意深く歩く、男の姿を盗み見た。



 幼少の時よりずっと付き従っていてくれる、美形の聖騎士パラディンフレセッテ=ビエント=ターホナー。 ジレーヌ第三王女は、この場所に彼と共に至って、「野望」の達成を確信していた。 


 しかし、先行させている ”三級市民の「C級」中年冒険者” グッタベル、誰にも望まれて居ない至聖騎士ハイパラディンの後姿に、苛立ちと、少々の怒りを覚えていた。 本来、その場所には、しかるべき人物、美形の聖騎士パラディンフレセッテが居る筈だった。  


 彼女の ”計画” とは本来全く関係のない、凡庸な風貌に、取り立てて優れた能力もない、”三級市民の「C級」中年冒険者”グッタベル=ジーナス が、なんの因果か、「至聖剣パレディウス」を台座から引き抜いた事が、彼女の誤算の始まりだった。




 ジレーヌ第三王女は、その男を討伐部隊パーティに加え、魔人王討伐の旅に出発せざるを得なかった。


 


―――――




 彼女には「野望」があった。 


 渇望する物は、至高のきざはしにある、「玉座」


 現在の王位継承権を持つものは、彼女の上には、たったの二人。 腹違いの姉王女達だけであった。 聡明で美しいと評判の彼女達には、相応の権力と財力を兼ね備えた王配候補もいる。 しかし、事実は、真実とは異なり、二人の姉は、驕慢で、我儘が強く、とても帝国を支え切れるとは思えない。 


 彼女達のどちらかが、女王位に就けば、帝国は割れる。 彼女達を支え傀儡にすべく暗闘を続ける高位貴族達が、他方を支えて来た貴族達を許すとは思えなかった。 いずれ、血で血を洗う、骨肉の争いに成る。 皇帝陛下でさえ、それを想い憂いていた。


 振り返って、我が身は、いずれどことも知れぬ先へと、政略の為、嫁がされる身。 我慢ならなかった。 自分ならば、この状況をひっくり返せる。 誰の傀儡にもされず、帝国を一枚岩に出来る。 そう信じて疑わなかった。 知力、胆力共に、姉たちを上回り、権謀術策にもたけた彼女が、単なる政略結婚の駒になる事など、耐えられなかった。 



 では、どうするか。




 答えは、目の前の食卓にあった。 王族の食事にしては質素な「晩餐」




 ヴァッサー帝国では、増え続ける人口を支える為に、広大な土地が必要なのだ。 周囲の人族の国々はあらかた、侵攻が完了している。 残すは、辺縁部に広がる、魔人達の土地だった。 目をつけ、執拗に追い込み、自らの物にしていったが、魔人たちの王が、それを阻んできた。


 ジレーヌ第三王女の中で、たった一つの答えしかなかった。 ” 邪魔者は消す ” どうせ、人族ではない。 恭順の意を表して来たとしても、三級市民にすら該当しない彼らを殲滅する事に、良心の痛みを感じる訳もなかった。 




 彼女は、父、皇帝陛下に、とある提案をした。 帝国の行く末を想う、彼女の真摯な提案でもあった。




 父、皇帝陛下より、勅命をもぎ取り、魔人族の王を討伐を敢行する。 帝国の領土を押し広げ、人族の未来の為に尽力した第三王女は、喝采をもって、帝都に凱旋し、王位を継承する手筈となって行った。 他の必要な人員、装備は全て用意した。 あとは、魔人王を殺せる力を持つ、人族の至聖騎士ハイパラディンのみ。


 勅命は、「至聖騎士ハイパラディンを含む、” 人族 ” による魔人王の討伐。」 その為には、人族の至聖騎士ハイパラディンの同行が何としても必要だった。


 この役目を担うのは、幼いころより、ただジレーヌ第三王女一人を見つめ続けていた、聖騎士パラディンフレセッテ=ビエント=ターホナーだけだと心に決めていた。


 厳しい訓練と鍛錬を潜り抜けて聖騎士に任じられ、何度も至聖剣を引き抜く為の「聖剣の試練」に挑戦し、これを及第した彼に、ジレーヌ第三王女は満足を覚えていた。 彼が至聖剣を引き抜くことは確かな事だと、彼を知る者は、皆、口を揃えて言っていた。 


 ジレーヌ第三王女の望みは、至高の聖騎士パラディンであるフレセッテと共に、至高のきざはしを上り詰める事だった。


 成功した暁には、その地位を父親である皇帝陛下より、禅譲される事は確約されていた。 それが、彼女が、父にした、彼女の真摯な提案だった。





―――――





 ジレーヌ第三王女は、魔王城の「謁見の間」に続くこの回廊に至って ”邪な思い” を、思い浮かべた。


 この、出自の下賤な至聖騎士ハイパラディンだけを魔人王と戦わせ、相打ちさせる。 しかる後、愛する聖騎士パラディンフレセッテに、討伐の証を回収させ、出自の下賤な至聖騎士ハイパラディンをこの場に打ち捨てて、帝都に帰還する。 所詮は三級市民。 貴族騎士と、一級市民の他の仲間は何も言うまい。



 最初から居なかった者として扱えばいいのだ。



 邪な思いに、口元をゆがめ、第三王女は、魔人王の「謁見の間」に続く、扉に至聖騎士が消えた後、固くその扉に封印を施した。





 ” 互いに討ち殺しあって、我が野望の糧となれ! ”





******************************





 至聖騎士ハイパラディンに成り行きで成ってしまった三級市民のC級冒険者である グッタベルが、魔人王ガイル・ラベクに「至聖剣パレディウス」を突きてていた。 剣に伝い流れ落ちるガイル・ラベクの黒き血潮。 


 ニヤリと頬が歪んだ魔人王。 



「よくぞ、ここまで、高めた」


「付き合ってもらって悪かったな」



 ニヤリと笑い返すグッタベル。 彼の脇腹に、魔人王が手にする、「魔剣フェガリ=セリニ」 が、深々と突き刺さっている。



「相打ちか……」



 グッタベルの赤い血潮が、魔人王の持つ「魔剣フェガリ=セリニ」に滴り、滑り落ちる。 致命傷とも言えるその傷に、「聖鎧 セントリカオ」に仕込まれた治癒の魔法が発動しようとしていたが、グッタベルの魔力は、尽き果てていた。 いかな高位の付与魔法でも、着用者の魔力が切れていれば、発動はしない。



 ゴフッ



 グッタベルの口から血が噴き出した。 血で汚れた顔を、魔人王に向け、もう一度凄惨な笑みを浮かべる。 しかし、魔人王 ガイル・ラベクもまた、致命傷を負っていた。 彼を護り包む禍々しい漆黒の鎧から、黒紫色の煙が立ち上がっている。




「至聖騎士よ…… 一つ、疑問がある」


「なんだ。 命乞いか?」


「フハハハハ! この期に及んで、そのような無駄な事はせぬ。 おぬし、何故、魔人達の村を避けた」


「……」


「覗見の鏡で見て居った。 おぬしの仲間は、村を焼こうとしておったが、お前は止めた。 儂の処に早く行きつく事が、何よりも重要だと説いておったの」


「……」


「お前の仲間達の不満、判らんでもない。 前線以外まともな兵が居らぬのを、奴等は判っておったようだ。 もう一度、聴く。 何故だ」


「……要らない血を流したくない。 魔人王たる貴様が倒れれば、人族の面目は立ち、いま戦っている双方のつわのも達も、矛を収める。 魔人達の生死は、人族には何の感慨も無い。 強いて言えば、他種族が、それも魔人族が大嫌いなだけだ。 土地を手に入れる為に、無益な虐殺をする事は……我慢ならんからな」


「そうか…… 」




 魔人王ガイル・ラベクの左手が、おっさん至聖騎士ダックベルの頭を掴む。 彼は、直接頭の中を掻き毟られる様な感覚に襲われた。 笑顔を納め、ギロリと睨む。 ガイル・ラベクの深紅の目に、ちょっとした驚愕が浮かんだ。




「おぬし…… なぜ、人族に加担する。 お前の記憶を覗いたが、理由が判らん」


「……勝手に覗くな。 流されたんだよ! 状況まわりにな!!! ……俺の意思など、何処にも無かったんだ!!! それでも、少しでも、いや、一人でも、たとえそれが、魔人でも、獣人でも、この大地に住まうどんな種族の者でも、助かる命が有るのならば、と思っただけだ!」


「疎まれ、蔑まられ、差別され、虐げられても尚、人族に加担するか?」


「あいつ等の仲間に成った覚えは無い。 ただ、流れで受け取った力を使って、戦いを終わらせたかっただけだ」


「終わるのか?」


「一時の平穏でいい。 ほんの一時の平穏で。 それだけだ……」




 何かを考える様な揺らぎが、魔人王の深紅の瞳に浮かぶ。 そして、重く沈んだ声で語った。




「もっと、早くにお前に逢えていれば、この結末は変わっていたかも知れんな。 ……どうだ一つ、取引をせぬか?」


「取引? 命乞いじゃ無いのか?」


「馬鹿か、おぬしは。 もう、儂も持たぬのは、判って居ろう。 ……単純な取引だ。 今ならば、おぬしの命は繋ぎ止められよう。 儂の残った魔力と魔法でな」


「……何が望みだ」


「虐げられるであろう、魔人族を踏む、魔族達の安寧……」


「なんだと?」


「……この戦、人族から仕掛けられた。 濃い魔力の高まりに、儂は目覚め、そして応戦した。 しかし、人族の欲望は貪欲だ。 奴等は魔人を認めない、その存在すらも許さない。 しかし我等はココに生きている。 儂が眠りに就けば、魔族の者達を護る者が居なくなり、人族の欲望の餌食になる事は、火を見るより明らか。 我が望みに応えるならば、おぬしの命を繋ぎ止めよう。 多少、姿形は変わるであろうが、おぬしはおぬし。 次に儂が目覚める「その時まで」 その命、繋ぎ止めてやろう」



 ドクドクと脇腹から血潮が流れ出し、魔人王の魔剣を真っ赤に染め上げて行くのを、目の端でとらえている、おっさん至聖騎士ハイパラディングッタベル。 幾許いくばくも時間は残されていない事は理解した。 魔人王の提案を撥ね退ければ、このまま命を失う。 よしんば、受け入れて、命を繋いだとしても、人族の世界に戻る事は出来ないだろう事も理解した。 


 どう転んでも、グッタベルには最悪でしかない。 しかし、ここで、命を長らえれば、たとえそれが魔人でも、助かる命が有るのならば、ちっぽけで、”何処までも軽い自分の命” が、役に立つのならば、それもまた、アリなのかもしれない、と、そう彼は思い至った。



「どの位の時間がある?」


「時間?」


「お前の云う、命を繋ぎ止める魔法が発動するまでの時間だ」


「そうさな…… 四半時か」


「……判った。 受け入れよう」


「ほう……受け容れるか。 条件は判って居るか。 一旦魔法が発動すると、もう、今のお前には戻れぬ。 それに、儂が次に目覚める時、お前は死ぬ。 それまで仮初かりそめの「生」だ」


「そうだな、それも含めてだ。 このちっぽけな命が、なんかの役に立つのなら、それも良いと思ったまでだ。 時間を聞いたのは、人族の奴等に、”預かった物” を、返せる時間があるかどうかだ」


「ふむ…… 死せる《命》を、役立てようとするか。 あい判った。 では、先に、これを渡して置く」


「ん?なんだ、この水晶玉は」


「儂が倒れた証だ。 おぬしの仲間達に渡せ。 それで、儂が ”斃された” 事が、奴等にも理解出来よう」


「《ガイル・ラベクの華水晶》か…… 受け取ろう」










「俺の私のTS企画」 参加作品


主人公、ガンバレ! 負けるな主人公! 明るい未来が、きっと来る筈?

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