春の足音
冬の女王様が四季の塔へ向かわれてから、はや三月。いつもなら寒さが和らいでいる頃ですが、今年は真冬の寒さが続きます。
「ヘンねぇ……。まるでオリビアが塔を降りていないみたい。」
春の女王となるフェリシアは、窓の外の雪景色を眺めながら呟いていると、トントンとドアをたたく音が聞こえてきます。
「いいわよ。」
「失礼します、リッタ入ります。」
フェリシア様の侍女リッタが部屋へと入ってきました。
「フェリシア様、お務めのご準備をお願いします。」
フェリシア様は驚いた顔をしました。
「早すぎじゃない、リッタ。」
「いいえ。もう四季の塔に向かわなければならない時期です。」
「そういうことじゃないわ、まだ朝よ?」
フェリシア様は眉間にしわを寄せて、ふくれっ面になりました。
「今年はいつもより時間がかかります。道が雪で塞がっているので、雪かきをしながら進まねばなりません。」
「あら、雪をかき終わってから行けばいいじゃない。」
気乗りしないフェリシア様は、リッタの主張に耳を貸しません。
「雪がやむのであればそうなのですが、一向にやむ気配がありません。雪かきしたそばから雪が積もります。それに……。」
「それに?」
「……入って。」
リッタがドアに向かって声をかけると、戸を叩く音とともにもう一人の侍女が入ってきました。
「失礼します。」
「あら、あなたはオリビアの……。」
「ノーラと申します。」
それはオリビア様の侍女ノーラでした。
「実はこのノーラが、オリビア様の様子が出立の時からおかしかった言うのです。」
ノーラが言うには、あの日は身仕度がいつもより遅かったとか、椅子からの立ち上がり方が違ったとか、瞬きの速さも違ったとか、ノーラの事を好きだと言ったとか、まあ出るわ出るわ。
細かい侍女を持ってオリビアも大変ね、とフェリシア様は心の中でオリビア様に同情しました。しかし、フェリシア様の腰を上げさせる決定的なものはありませんでした。しかし……。
「……そして、果てには送迎は途中まででいいと言ったり……。」
「……途中までって……どういう事?」
「四季の塔までの一本道に到達すると、オリビア様は馬車を止め、我々従者の帯同を許さず一人で歩いて行かれました。」
オリビアは相変わらず物好きね、と思いつつも流石のフェリシア様も少しは気になり始めました。
「きっとオリビア様の身に何かあったに違いありません。」
「そんなに心配しなくてもきっと大丈夫よ。だって、現に冬にはなっているしノエビアだってオリビアに会って戻ってきたのでしょ?」
「それはそうですが……。」
フェリシア様の正論にノーラは少し俯いてしまいましたが、すぐに顔を上げフェリシア様に強く懇願しました。
「どうかお願いです、フェリシア様。オリビア様をお救い下さい!」
フェリシア様は気乗りしなさそうな顔のまま、カップのお茶を口に含みます。
「フェリシア様、ご準備を。」
「リッタは強情ねぇ。全くどっちが主人かわからないわ。」
「フェリシア様の事を思ってこそです。」
「なぜよ?」
「王様のご意思ですから。」
「え?」
「終わらない冬を終わらせ、春にするようにとのお触れが出ております。」
春の女王様は仕方なく朝早くに出発することになりました。