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ひとりぼっちの少女と   作者: ゆめ
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第二章 希望と絶望

あの日からサヤは毎日男と連絡をし続けていた。

男の名前はリョウ。

沖縄に住んでいる23歳の大学生だった。


話すことは他愛もないことばかりだった。

今日は学校行った?今なにしてる?

そんなことばかりだった。

サヤが今まで知り合った汚い大人たちとは全く違った。


サヤはそんなリョウに少しずつ心をひらいていった。

同時に少しの恋心も芽生えていた。


『リョウはガールフレンドいるの?』

「いないよ」

『本当?!』

「ほんと。きみはいるの?」

『あたしもいない。今まで何人と付き合った?』

「中学生のころに一度だけ」

『へえ、もてないんだね』

「ひどいなあ」


サヤはリョウと話しているときが一番楽しかった。


それから幾日が経ち、中学三年生になった。

サヤは東京の高校に行くために猛勉強をした。

塾に通い、五年から中三までの勉強を一からやることにした。

夏休みだってほぼ毎日塾に通った。


『リョウ、あたし塾行きたくない』

「うん、でも東京の高校にいきたいんだろう?」

『行きたい』

「ならもう少し頑張ろう。僕も頑張るから」

『なにを頑張るの?』

「将来薬剤師になりたいんだ。だから頑張って勉強しているんだ。」

『そうなんだあ、じゃあお互い頑張らないとね』

「うん、約束だ」


サヤはリョウとした約束のために一度も休むことなく通い続けた。


そうして長い夏休みが終わった。


休みが明けてすぐ学校では三者面談が始まった。

当然進路のことだった。


『あたし私立は受けません』

先生と目も合わせずにサヤはそう言った。

《でも一応滑り止めとしてどうかな?みんなは受けるんだよ》

先生は気を使うようにそう言ったがサヤは何も答えなかった。


学校の先生はサヤに対して気を使っている。

きっと扱いづらい生徒だったんだろう。

サヤもそれに気づいていた。

だから先生たちの態度がサヤにとっては気に入らなかった。


それからもサヤは自分の意思を変えることはなく冬休みがきた。

冬休みの間も毎日塾に通っていたが、サヤはそれほど辛くはなかった。

少しずつ勉強も分かっていき楽しいとさえ思えてきた。


勉強で忙しかったサヤは、いつの間にかリョウとも連絡を

とらなくなっていた。


そして冬休みも終わり私立の受験が始まった。

結局何度も言われたがサヤは受けなかった。


サヤは久しぶりにリョウに連絡をした。

『久しぶり。元気だった?』

「ひさしぶり。元気だよ。」

『連絡とらない間なにしてたの?』

「勉強だよ。きみもだろう?」

『うん、あたしも。でも最近は勉強が楽しいと思えてきたの』

「それはよかったよ」


リョウは前と変わらず普通に過ごしていた。


そして二月になり受験まであと三週間となった。

受験する学校の掲示板で、もう友達もできていた。


『あと三週間で受験なんだ』

「もうそんな時期か、あっという間だったな」

『でもあたし、想像がつかない』

「想像?」

『自分がちゃんと学校に行くのが想像できないの』

リョウは笑いながら返事をした。

「ははは、それはきっと今まで君が学校に行けなかったからだよ」

『そうなのかな』

「そうさ、誰だって初めてのことは想像できないよ」

『それもそうね』

サヤはリョウの言葉で不安が少し消えたように思えた。


「来週から僕も合宿があるんだ。だから二週間連絡が取れない」

『え?そんなこと聞いてない』

「きみが忙しそうだったから、言おうか迷ってたんだ」

『連絡取れないなんて嫌。二週間ってもう受験も終わってる』

「ごめん、もっと早く言うべきだったね」


サヤは悲しくなった。

一番不安な時期に頼れる人がいなくなってどうしたらいいか

分からなくなった。

そしてサヤはある決心をした。


『ねえ、リョウ』

「どうした?」

『あたしリョウが好き』

「僕も好きだよ」

『受験が終わったら付き合ってほしい』

リョウは少し考えてこう答えた。

「僕らはまだ学生だ。それに住んでる場所も遠いからなかなか会えない」

『それでもいいよ、あたし』

「はは、そうか、じゃあこうしよう。きみが18になったら付き合おう。

そうすればきみももう大人だ、何も問題ない。どうかな」

『・・・わかった。約束だよ』

「うん、サヤはいい子だから」


一週間が経ちリョウは合宿に行った。

サヤも受験まで一週間となった。

長かった塾での勉強も終わった。

もともと受験までの一年間だけの契約だった。

サヤは解放されたような気分と少し寂しいような気分が入り混じっていた。

残りの一週間サヤは学校が終わるとすぐ勉強をした。


そうして受験の日がきた。

一年勉強したとはいえ、分からない問題が多かった。

でもサヤは一生懸命に考え時間ぎりぎりまでやった。

夕方には終わり、その日はとても疲れたがなぜかすっきりした気分だった。

一週間後の受験発表までの間、意外にも不安はなかった。


そうして一週間が経った。

きっと受かってるよ。

家族はそう言い、サヤと母は笑いながら家を出た。


駅を降り学校まで500メートル、サヤの心臓は凄くドキドキしていた。

ついた時間が早くまだ結果の紙は張り出されていなかった。

そして9時ぴったりにその紙は張り出された。

あたし恐くて見れないからあんた見てきな。

母にそう言われサヤは歩いた。

紙まで100メートルとなった。

サヤはもう見えていた。

『なかった』

サヤは笑いながら言った。

うそ、母は驚きながら紙を見た。

サヤの番号はなかった。

『もういいよ、帰ろう』

サヤは笑いながらそう言ったが今にも涙が出そうだった。

でも泣くなんてかっこ悪いと思っていたから我慢した。

でも学校の門を出た瞬間にサヤの目からは涙があふれた。

周りの人たちが見てたがそんなのもうどうでもよかった。

帰りの電車に乗ってるときはもう、ただただ外を眺めていた。

その間、母は何も言わなかった。

きっと言えなかったんだろう。


もっと責めればいいのに。

サヤはそう思っていた。

家に帰って、サヤは誰とも口を聞かず部屋にこもった。

そしてまた泣いた。


当然一年間で小五から中三までの勉強をするなんて無理なことだ。

先生や親はそれを知っていた。

受かったら奇跡とさえ思ってた。でもサヤには言えなかった。

もちろんサヤも分かっていた。

それがどんなに難しいことかなんて。


でもサヤはどこかでうまくいくと信じていた。

きっと大丈夫。

そんな根拠もない期待をもっていた。

だからショックも大きかった。

その日からサヤは何に対してもやる気がおきなかった。


最後だから出ようと思っていた卒業式も結局出なかった。

夕方ひとりで学校に行き卒業証書をもらいに行った。

校長先生から学年の先生が全員集まり、ちゃんとした卒業式みたいにやった。

でもサヤはそんな自分が惨めにも感じ馬鹿馬鹿しくさえ思ってた。


その日からずっとサヤは今後どうするか悩んでいた。

浪人も考えたが年が下の子達と勉強をするのは少し嫌だった。

夜間学校なんて当然行きたくなかった。

そうなると後は私立しかなかったが、サヤはこれ以上

親に負担はかけたくなかった。


結局サヤは夜間の高校に通うことにした。

すごく嫌だった。不安だった。

でもサヤにはこれしか選択肢がなかった。


そうしてるうちにリョウの合宿も終わった。

「サヤ、ただいま。受験どうだった?」

『駄目だったよ』

リョウはそれを聞いた時なんて言ってあげたらいいか分からなかった。

「そっか。でもサヤはよくがんばったはずだ、きっといいことがあるさ」

『そうだね、ありがとう』

今のサヤにはリョウの言葉も響かなかった。


そうして春がきて、サヤの高校生活が始まる。









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