story 2
「舞由〜、起きて〜。大丈夫??」
ポンポンと肩を叩かれる。何?
起き上がろうとしたけど、頭がグワングワンと揺れて、目を開けるのでさえも億劫になる。
「舞由〜?起きてよ〜」
起きてるってば。
頭が痛い。耳元で騒がないでよ。
イラッとして、思わず肩に置いてある手を振り払った。
「う〜ん。……舞由、学校行ける?熱、まだひいてない??」
ヒヤリとした手が、額に触れる。
気持ちいい。ずっと触っててほしいくらい。
「あっつ!!!こりゃダメだ。舞由、今日は学校休んでね。ママには萌から言っておくから」
パタパタと可愛らしい足音をたてながら、萌が遠ざかっていく。
熱……。あぁ、だから頭がこんなに痛いのか。
今更ながら、萌の言っていた意味を理解する。
ーピコン…
静寂に包まれた部屋で、場違いなほど軽快な音がスマホから聞こえてきた。
誰。何。今動けないんですけど。
無視していいかな。いいよね。
寝返りさえもうちたくないのに、ベッドから出れるわけがない。
何も聞こえなかった事にして、もう1度目を瞑る。
私の意識はゆっくりと、暗闇へと落ちていった。
◇◆◇
ーピコン…
ーピコン…
ーピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…
「……………ん〜、………何」
うるさく鳴り続けるスマホの音で、意識が浮上してくる。
本当は二度寝しようと思ったけど、うるさすぎて無視出来ない。
「誰………?」
渋々起き上がって、スマホの画面を見ると、萌と悠真から1件ずつ。
中学の頃から仲良くしてる佐々木から99+連絡がきていた。
お前が原因か、ふざけんなよ。
《佐々木:
まゆゆん、大丈夫〜??生きてる〜?》
《スタンプ》
《スタンプ》
………………。
最初の一言以外すべてスタンプ。
嫌がらせが古い。
あと、これ指つらないのかな。
佐々木の指の心配をしながら、ケータイに文字を打ち込む。
《まゆゆんって誰よ。存じ上げませんお帰り下さい。あと勝手に殺すな》
おまけに、くまさんがうさぎさんの耳を引っ掴んでるスタンプを送ってあげた。
勿論くまさんが私で、うさぎさんが佐々木。
満足しながらそれを眺めていると、下から玄関が開く音がした。
「たっだいま〜!舞由起きてるかなぁ?」
「お邪魔します。……部屋行ってみるか」
……え。
心臓がドクンと嫌な音をたてる。
考えないようにしてたのに、なんで、悠真が家に来るの。
「舞由〜、起きてるの〜?」
トントン と階段を上がる音が聞こえてきて、意味もなく焦る。
嫌だ、今はまだ2人に会いたくない。
心の準備も何も出来てない。
急いでスマホの電源を消して、ベッドに潜り込む。
来ないで。まだ、何も知りたくない。
ーコンコンッ
「舞由〜。………寝てるの〜?」
「………返事、ないな」
「こりゃ寝てるね〜。どうする?起こすのは可哀想だし、舞由の部屋で起きるの待つ?」
「ん〜、いい」
「そう?じゃあ萌の部屋行ってて。飲み物とってくる〜」
今朝と同じような足音をたてながら、萌がリビングへ降りていく。
恋人のような2人の会話に胸を痛めながら、そっと目を開くと、ドアの前にまだ人影があって少しビックリした。
え、悠真まだそこにいたの。
早く、萌の部屋に行けばいいのに。
自分で考えてズキッと痛む胸を無視して、ドアの向こう側を見つめる。
すると、悠真が私の部屋のドアノブに手をかけた。
え……?
一瞬呆けて、その後大慌てで目を瞑る。
ーガチャ
私が目を瞑ったのと、悠真が私を視界に入れたその差はきっと、0コンマの世界。
私は、今日ほど人間の反射神経に感謝したことはない。
「舞由……?」
ゆったりとした、独特の心地いい声が鼓膜を揺さぶる。
悠真だなぁ、なんて。当たり前の事を考えた。
ただ名前を呼ばれただけなのに、こんなにも胸が高鳴る。
嬉しくて、幸せで、泣きそうになる。
馬鹿みたいだ。みたいっていうか、馬鹿。
大馬鹿者だ。
ゆっくり、悠真が近づいてくる気配を感じる。
ベッドのすぐそばまでやってきて、一旦動きを止めたかと思ったら、優しく優しく、私の頭を撫でてきた。
なんなの?悠真がよくわからない。
萌を好きだと言うくせに、私に優しく触れないでよ。
昨日のことは夢だったのかな、なんて。
そんなことを考えたくなっちゃう。
今、悠真から香るのは、いつもの爽やかな匂いじゃなくて、萌のお気に入りの香水の匂いなのに。
暫く撫でて満足したのか、悠真は音をたてず私の部屋から出ていった。
「……ふ、ぇ……」
ボロボロと溢れて落ちていく涙は、昨日枯れたと思っていたのに。
なんで、こんなに好きなんだろうだろう。
嫌いになれたら、楽なのに。




