8話
「由依!」
「おはよう、ってえっ!?」
思わず由依を抱き締めた。
二度と会えないと思っていた彼女にこうして会える事が出来たのだから。
「あの…恥ずか…しいよ…」
「あっ!ごめん」
慌てて離れる。
「えっと…今日も由依は可愛いなと思って思わず抱き締めてしまいました」
「何それ…」
「朝から何してるのよあなた達」
後ろでニヤニヤしながら母親が見ていた。
「わっ!居たのかよ」
「居たら悪いのかしら?」
「べっ…別に」
「あっそう?式の日取りはいつかしらね?」
完全に楽しんでいるな。
「いいからあっちいけよ!」
「はいはい、由依ちゃんこんな出来損ないだけど宜しくね」
「あっ!はい、出来損ないは前から知ってますから」
「お前なぁ!」
「仲いいわね、あんたも待たせずに早く用意しなさい」
慌てて用意を始める。
由依はと言うといつもと違う感じで俯いたままだった。
まぁ原因は多分俺の所為だろう。
「「いってきます」」
用意を済ませた俺は由依と共に家を出た。
「今日は楽しみだね」
「あぁ、そうだな」
10月3日。
今日は学園祭があった。
単純に近い過去を思い描くのにこの日が印象強かっただけだった。
本当は事故のあった日に戻りすぐに由依を救いたいと思ったが。
あいつの言葉を鵜呑みしてしまった。
いや、もし失敗して由依をまた失うのが怖かっただけなのかも知れない。
「ねぇ…なんで朝あんなことしたの?」
「何が?」
「いきなり…抱き締めたりして…」
「!」
不意に思い返すと我ながら恥ずかしい事をしたと思う。
「あっ…えっと…」
「由依が可愛いなと思って」
「馬鹿じゃないの?」
「馬鹿ですね」
そう言って躱すしかなかったのだが由依は笑ってくれていた。
それだけでも良かった。
ただ由依が居てくれるなら。
残り約1ヶ月。
正直過去に戻っている事は信用はまだしてはいない。
でも確かに由依はここに居る。
俺もここに居る。
ならやるべき事は一つだけ。
由依が居る未来を創ることだ。