6話
「サンタ気取りかよ、それなら赤い服で来い」
皮肉を言いながらも後ずさりしながら距離を置く。
「ははっ、サンタですかぁ」
「ならサンタって呼んでくださぁい」
この状況どうすればいいのだろうか。
俺は変な奴に絡まれているが生憎ここは人が多い。
走って人混みに紛れ込めば巻くことは出来るだろう。
そうと決まれば実行に移す。
「あんたと話すことはないし、プレゼントも要らねぇよ!」
そう言い放ち振り返った時違和感を感じた。
「!!!」
人が誰1人いない。
有り得ない。
ましてや今はパレード中短時間で全ての人がいなくなることがあるのか?
「どうかされましたかぁ?」
「今はわたくしとお兄さんだけですよぉ」
意味がわからない。
どうすればこんな状況になるんだ。
また頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
とりあえず逃げるのは諦めた。
「おやぁ?やっぱりプレゼント欲しいのですかぁ?」
「いや、もう訳がわからないから諦めた感じだ」
「あんた何者なんだよ」
「ただの人間ですよぉ」
首を曲げニタァと男は笑う。
「なら何の用だよ、プレゼントとか言いながらそれで俺を殺すつもりか?」
「言いがかりですねぇ」
そう言うと同時に男は目の前に居た。
「なっ!」
「これぇ、プレゼントですよぉ」
男はニタァと笑いながら懐中時計を差し出した。
「時計?」
「そうですよぉ、でもただの時計ではありませんよぉ」
「どう言う意味だ」
「時間を戻せるのですよぉ」
「馬鹿にしてるのか?」
「心外ですねぇ、でもそんな物があったら欲しいと思いませんかぁ?」
「人だったら誰でもぉ、一回は思ったことあると思いますがねぇ」
男は時計を俺の目の前でブラブラさせながら笑う。
「だったらあんたが使えよ」
「わたくしにはぁ、必要ありませんからぁ」
気づくと手には時計が握られていた。
「!」
体が動かない。
これが金縛りと言うものなんだろうか。
「無事プレゼント受け取って頂いたのでぇ」
「使用上の注意でもお伝えいたしますねぇ」
反論したいが声も出せない。
「先程も言った通りぃ、時間を戻すことがぁ」
「出来ますぅ」
ドヤ顔を見せつけられても今の俺には何も出来ない。
「使い方は簡単ですぅ」
「ただ戻りたい時間を思い描いてもらうだけぇ」
「あら簡単ですねぇ」
2度目のドヤ顔か。
動けるようになったら殴りたい。
「使用制限はありませんのでぇ」
「使い放題なんですがぁ」
「1度戻った時間より昔には2度と戻れませんのでぇ」
「悪しからずぅ」
次はニヤケ顏か…。
「と言うわけでぇ」
「良き人生を送りくださいませぇ」
男は指をパチンと鳴らす。
「!」
体が動く。
そして周りもざわつきだす。
先程の光景がなかったかのように人々は楽しんでいた。
「おい!あんた!」
振り返った時既に男は居なくなっていた。
夢かと思った。
だけどしっかりと俺の手には懐中時計が握られていた。