4話
「ほら、オレンジジュース」
「あっ、ありがとう」
笑って受け取る由依の顔を見れずに視線を外す。
「どしたの?顔赤いよ?」
「なんでもねぇよ」
「そう?あっ、相変わらずブラックは飲めないんだね」
「飲めるわ」
「奏がコーヒー甘いの以外飲んでるの見た事ないよ」
「由依が居ないとこで飲んでる」
「ふぅん、あたしが居ないとこでなんだ」
少しばかり不機嫌そうにしているがそんな所も可愛く見えてしまうのは何故なんだろうか。
公園のベンチに座り何気なく空を眺めた。
「今日は天気良くて良かったな」
「そうだね、最近雨ばっかりだったし」
「思ったよりも荷物も多いから雨なら大変だった」
「なにそれあたしのせい?」
「雨降ってないからいいだろ」
「じゃあ許す」
「なんだそれ」
こんな他愛もない会話ですら飽きないのはきっと由依だからなんだろう。
「そう言えばこの公園覚えてる?」
「俺が木から落ちた」
「あはは、そうそう」
「笑い事じゃないからな、痛かったし母さんにも怒られたし」
「まだ跡残ってるの?」
「残ってるけど消えなくていいから」
「その話おばさんから聞いちゃった」
「へっ?」
「聞かされたあたしも恥ずかしいよ」
「なんで話すんだよ…」
「この傷に誓って由依ちゃんを2度と泣かせないんだ!」
「でしょ?」
「やめてください」
「何回も泣かされてますけど?」
「ごめんなさい」
「許す」
恥ずかしさのあまり何も言えなくなってしまった。
あの時の俺に会えるなら口を封じてしまいたい。
「でもそう思ってくれる事は嬉しかったよ」
「えっ?」
「奏は優しいから」
「あの時のビー玉まだ持ってるんだよ」
そう言いながらカバンの中を開けて小さな袋を出す。
「ほら」
袋の中から出てきたのはあの頃と全く変わってない綺麗なビー玉だった。
「まだ持ってたんだ」
「ずっとお守りにしてた」
「嫌なことあってもこれ見たら頑張ろって思えるから」
「それに…」
「それに?」
「ううん、何でもない」
暫くお互い黙ったままだった。
俺に関しては恥ずかしさから戸惑っていただけなのだが。
「あっ、思い出した!クリスマスの話なんだけど」
均衡を破ったのは由依だった。
「あたしバイト休みなんだけど奏は?」
「多分お前が来るだろうと思って休みにしたよ」
毎年両家集まってクリスマスはパーティーをしている。
由依がいるお陰で毎回何かしらのイベント事は残念な結果を回避出来ている。
「あたしもそのつもりで休みにしたんだけど」
そう言う由依の手にはチケットが握られていた。
「友達に貰ったんだけど行かない?」
「これは!あの夢の国のやつじゃん!」
「うん、それでクリスマスはいつも違うみたいだからせっかくだしその日に行きたいと思って」
「俺は大丈夫だけど母さん達何て言うかな」
「一緒に行くとか言い出しそうだね」
「言いそうだな」
「あたしは奏と2人が良いけど…」
「えっ?」
「あっ!ごめん何でもない忘れ…」
「俺も行くなら2人がいい」
「へっ?」
「あっ…、えっと…」
「ほら、2人で出掛けるのはいつもの事だし」
「そっ…そうだね」
「問題ないよね」
少し由依は頬を赤らめながらそれでも嬉しそうな顔をしていた。
「奏と行けるの楽しみだな」
「俺も行った事ないから楽しみだよ」
「今度は寝坊しないでよね」
「さすがに次したら大変な目に合う」
「よくご存じで」
クスクス笑ってる由依を見ながら後少しで訪れるはずの幸せを思い描いていた。
「遅くなってきたしそろそろ帰ろっか」
「買い物はもういいのか?」
「うん、必要な物は買ったから大丈夫だよ」
「わかった」
「ほら、奏帰るよ」
「待てって、まだ荷物持ってないから」
慌ててベンチに置いてある荷物をまとめる。
その時大きい音が聞こえた。
そして周りから悲鳴が聞こえる。
振り返った俺が見たものは。
変わり果てた由依だった。