3話
「でね、友梨がクリスマスに予定があるからバイト代わってって言ってるんだけど」
「ってねぇ、聞いてる?」
「あぁ悪い、聞いてなかった」
「どうせ眠たくてぼーっとしてたんでしょ」
そう言いながら俺の手を掴み歩き出す。
「ちょっ、おっおい!」
「照れない照れない、買い物もほとんど終わったし休憩しよ」
「分かったから手を離せよ」
「奏ちゃんは危なっかしいからお姉ちゃんがしっかりしないとね」
「昔の話だろ!ってか同い年だろうが!」
「あたしの方が誕生日早いもん」
「…っ」
「どうかした?どこか痛い?」
「なっ、なんでもない」
笑顔の由依を見て少しドキッとした。
無邪気に笑って。
俺の事を心配してくれて。
そんな所は昔と何一つ変わってない。
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「奏ちゃんあーそーぼ」
「あら、由依ちゃんいらっしゃい」
「奏、由依ちゃん来たわよ」
「はーい」
「奏ちゃん公園行こうよ」
「奏ちゃんは止めてよ、僕男の子だよ」
「奏ちゃん由依より小さいもん」
「それに由依はお姉ちゃんだからね」
確かにあの頃は由依よりも背は低くていつも由依の後ろに付いて行ってた。
周りの大人からも兄弟みたいだと言われたりもした。
でもそんな毎日が楽しかった。
「奏ちゃんそんな所登ったら危ないよ」
「平気だよこれくら…うわっ!」
この時俺は木登りをしていたんだけど足を踏み外して落ちてしまった。
「奏ちゃん!」
「大丈夫!?血が出てるよ!」
「どうしよう…」
由依は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
幼かった由依はどうすればいいのか分からなかったのだろう。
実際俺も痛くて泣きたかったけれど由依を心配させたくなくて必死に我慢していた。
「ごめんね奏ちゃん…」
「お姉ちゃんなんだからちゃんと奏ちゃんを見てなきゃいけなかったのに…」
「ご…めんね…」
泣いてる由依を見て子供ながらに思った。
泣かせたくないと。
いつも心配してくれる由依を泣かせたくないと。
「大丈夫だよ由依ちゃん」
「それとこれ」
「ひっ…く、これ…ビー玉?」
握りしめていた物を由依に渡した。
「さっきの木にあったんだ、綺麗に光ってたから由依ちゃん喜ぶと思って」
「でも由依ちゃん泣かせちゃったね…」
「ごめんなさい」
相手を喜ばせようとしたことが逆に傷つけてしまうことを俺はこの時に知ったんだ。
「それだけで危ないことしたの?」
「うん…」
「ばか!!」
「ごめんなさい…」
「奏ちゃんに何かあったら、奏ちゃんが居なくなったら由依嫌だよ…」
「でも由依の為にビー玉取ってくれたのは嬉しかったよ」
「ありがと奏ちゃん」
笑ってありがとと言ってくれたことで俺は救われた気がした。
そして泣いてる顔よりも笑ってくれている顔の方がやっぱり可愛いと思った。
この後直ぐに家に帰ったのだがこっ酷く怒られた後病院に連れて行かれた。
結果として大した怪我ではなかったが傷跡は今でも残っている。
この傷跡に由依を泣かせないと誓った。
自分に対しての戒めでもあり、心からの願いでもある。
だがこの先何度もそれを破る事になる。
最後までも…。