1話
「……て」
何か聞こえる気がする。
「…きて」
「起きてってば!」
声と同時に寒気を感じた。
「なんだ由依か…、寒いから布団を返してくれ」
「いやいや、もう12時だよ?」
「約束忘れてないよね?」
そう言えば今日は由依の買い物に付き合う約束をしていたんだった。
「悪い、忘れてない」
「約束の時間は11時でしたけど?」
腕を組みながら呆れたように見つめてくる…
いや、睨んでいるが正しいのだろう。
「大変申し訳ありませんでした」
「棒読みですけどね」
「なんで俺の部屋にいるんだよ?」
「奏が11時に迎えに行くって言ってたのに来ないからだよ」
「お前は今12時と思ってるかもしれないが果たして本当に今12時なのだろうか?」
「もしかするとお前は騙されてい…」
「うるさいばか」
「すいませんでした」
「おばさんも呆れてたよ?」
「こんな可愛くていい子を待たせるなんてダメな男だねって」
「……だれが可愛くていい子だよ」
「なんか言った?」
「言ってません」
「急いで用意するから少し待ってて」
「奏は慌てると色々やらかすからゆっくり準備しなよ」
「靴下色違いとか、シャツ裏返しとか」
由依は笑いながら茶化してくる。
「悪かったな、そこ昨日買ったゲームあるからそれで遊んどいてくれ」
「寝坊した理由はそれだな」
急いでその場から立ち去った。