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新年の挨拶、或は抱負を述べる手紙

2015年元日


 新年あけましておめでとう。今年もどうぞよろしくお願いします。

 本当は、君に手紙を送らないで済むようになるのが一番かも知れないが、どうももうしばらくお世話になりそうです。



 今、私は実家の近所のハンバーガーショップでこの手紙を書いています。働くようになってからは、毎年のことですが、一人で初売りに出掛けています。一人で初売りに行くのは普通の事だと思いますが、5年連続となると、我ながらどうにかしているのではないかと思います。


 原宿・表参道界隈から、明治通りあるいはその一本裏の通り(表参道からMoMAショップとかシャネルの入っているビルの脇に入る道)を歩いて渋谷まで歩くのがいつものコースです。東京の豊かなファッション事情を満喫できるコースです。様々な国から、それは多くの人が買い物に訪れています。ファッションの中心だからかスタイリッシュで美しい人も多いです。私も背は低いですが、見た目に自信の無い方ではありません。でもやっぱり本当にカッコいい人たちに囲まれると気後れしますね。最近は若いのに旋毛が気になります。


 自分自身に嘘をついても仕方ないので、心のわだかまりを正直にここに書きます。このわだかまりを解いて、先に進むのが、私の数年来の目標です。実は(あなたは当然ご存知ですが)私はこの齢になるまで、女性と交際した経験がありません。思い返せば、機会はいくらでもありました。私が好きになった女性もいますし、私のことを好きになってくれた女性もいたと思います。友達もまた少ないです。私が交友を深めたいという意思を、あまり示さないからでしょう。ですから、彼女を作るのが目標です。普通の人にとっては、この夏の目標くらいの、簡単な目標だと思います。


 なぜこんなことになってしまったのかと言えば、ただ単に私に自信と勇気がなかったことに尽きると思います。私は自分の好意を(あるいは嫌悪感も)知られるのが怖いのです。手紙を書く時にも、こんなことを書いたら嫌な風に取られてしまうのではないかと、何度も何度も推敲してから封をします。


 私がそんな性格になってしまったのは何故なのでしょう。私は無駄にプライドが高く、見縊られるのを恐れている部分がありますから、それも要因の一つでしょう。家庭環境にも原因はあると思います。両親はどちらも人の話を聞かないヒステリックな人間で、子供のころから喧嘩ばかりしていて、大学生の時、今更という感じで離婚しました。中学生のころから、私は両親と同じ部屋にいるのも会話するのも嫌でした。嫌で嫌で、大学生の頃はもう限界に近かった。というよりも、既に私はまともではなくなっていました。離婚して父に会わなくて済むようになり、だいぶ楽になりましたが、もう既に、私は人と心を通わすことを恐れるようになっていました。正月、或は名古屋に居た頃は、出張で関東に用があったときは母と妹の住む実家に戻っていますが、妹が独立すれば、もう訪れることもないでしょう。両親に対して、最早、私は生理的嫌悪感すら感じます。話しかけられるだけで不愉快なのです。友人の披露宴で、ご両親の姿をお見かけすると、自分がもし結婚できても、親族すら呼べないんだな、どう説明したらお嫁さんに説明できるだろうかと考えてしまいます。


 こんな風に書くと、大学まで出させてもらって離婚したとは言え、感謝の気持ちはないのか、と思う方もいるかもしれませんが、私自身に宛てた手紙なのだから、言い訳無用ですね。感謝の気持ちなんてありません。父は、私が思い通りにならないと思うと、稼ぎは幾らでもあるのに、学費の話ばかりしました。金なんて本当に唾棄すべきものです。そもそも片親で大学を出たお前は何なのか。その祖母をバランス窯の古いマンションに住まわせて。


 大学を卒業してから、そんなことをよく考えるようになりました。加えて、普段は飄々とクールな風ですが、女性に甘えたい、という気持ちが日々強くなっています。女性の胸に顔を埋めて眠りたい、抱きしめられたい。この際おっパ○でも行ってみようかとも時々考えますが、風俗嬢に気持ち悪いと思われるのも、なんだか怖いですし、実際のところ本当に行きたいとは思いません。行けば当然笑顔の接客なのでしょうが、私はきっと、この人は何を考えて乳房をいじらせているのだろうかと、考えてしまう。


 仕事も、勤務地以外は安定した仕事ではありますが、全く満足していません。時々冗談めかして専業主婦になりたいと、周囲には言いますが、本当にそう思っています。子供のいる暖かい家庭以外に、幸せな居場所の想像がつかないのです。その答えが本当に正しいか分かりませんが。短い週末を、また来る平日に怯えながら生きていても、虚無感ばかりが募るのです。少ない友達と遊んでも、それはその場しのぎで、次々予定を詰め続けなければいけない。そうでなければ、虚無感はすぐに戻ってきます。私は本を読み、手紙を書いて、週末に何とか時間を忘れようとします。物語の中にいるときだけ、すべてを忘れられるから。


 だから、心を重ね合わせる相手を見つけたい。そのためにも、少しずつ、他者に好意を伝える練習をしていきたいと思います。差当りは手紙で(恋文ではなく文通ですが)その練習を始めたいと思います。



ドッペルゲンガーX様へ


                        碇.S.シンジ

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