友人Kへのお礼の手紙
前略
三文小説を満載したダンボールをありがとう。中身は見ないでそのまま全部Aに渡そうかと思ったけれど、多すぎるので一応目を通して、何冊か選ぶことにした。
まず、センスのない恋愛小説。無理やりキスされたら好きになっちゃった、以降の展開の無さは、まるで居酒屋で酔っぱらいの自分語りを聞き続けているかのようだった。これは真っ先にAに読ませたいと思った。
次に、山中の洞窟の奥にある地底湖に、未知の水棲知的生命体の生き残りがいるが、開発で存亡の危機に陥るみたいな小説だが、ラスト直前、洞窟に向かい主人公と協力者の女が山を登っていく際に、先を行く女の尻に主人公が欲情するシーンが最高だった。あと少しで鼻血が出そうだった。僕が鼻血を出すのは、カラオケでラルクのHONEYを歌ったら、画面にはちみつおねえさんが出てきたとき以来だ。
三つめ。黒衣の女。古典すぎるが故のつまらなさ。映画オーメンが怖くないのに似ている。そういうのはズルい気もするが、ホラーが無いので採用したい。
最後に、こじんまりとしたフレンチレストランのシェフが客の周りで起こる事件を、料理を絡ませつつ解決する底の浅いミステリー。被害者が腹を壊した真相が、腹いせに料理に卵の殻を擦り付けたというのは秀逸だった。
君は他にも、イタコ芸で有名な宗教本とか、マクロビダイエットの本とか、カメムシの写真集とか、色々選んでくれたが、今回は不採用としたい。絶対につまらないのが分かり切っている本はズルい。最後まで読んでみて、いやぁ予想以上につまんなかった!と思える本をAに送ってあげたい。新興宗教のお布施ツールなんて、数ページ読んだところで捨てられてしまうだろう。あと彼女はダイエットなんかしないし、カメムシに興味もない。
しかし、お蔭で貴重な時間を無駄にしてAに素敵なプレゼントができた。ありがとう。
本屋大賞選考委員K様
蜂蜜お姉さんは好きだが壇蜜お姉さんは好きじゃないS