書評の手紙
1月19日
前略 冬晴れの日が続いています。空気が乾燥して鼻水が止まりません。
X氏に手紙を書く中で、段々と自分がどう変わらなければならないのか、見えてきたような気がします。
さきほど、ブローティガンの"愛のゆくえ"を読み終えました。人に読ませるためではなく、ただ書くことそのものを目的として、書かれた本を収蔵するためだけにある謎の図書館(本は出版されないし、借りに来る人もいないし、著者は二度と図書館を訪れもしない)に住み込み、司書として本を受け取り、目録に記録するだけの毎日を、もう三年も続けている三十路過ぎの主人公の物語です。彼は本を受け取る、ただそれだけのためだけにそこで人々を待っていて、買い物にも出掛けず、本棚の整理すらしません。(著者たちは本棚の好きなところに、著書を収蔵できる)ただただ、文学的にも学術的にも何ら価値の無い本が持ち込まれるのを待ち、持ち込む人々(大抵は人生の敗北者)を気持ちよく迎え入れることだけが、彼の仕事です。そんな日々を送っていたある日、絶世の美女が本をもって現れます。彼女は持って生まれた肉体が美しすぎるが故に、すれ違うあらゆる男性に色目を使われ、あらゆる女性の嫉妬を受ける人生を送ってきました。過剰な肉体に精神が追い付かない彼女と、過大な世界についていけない主人公は意気投合し、奇妙な図書館で同棲を始めます。すぐに彼女は妊娠し、堕胎手術を受けるために彼らはメキシコへ旅立ちます。メキシコから帰ってくると、司書の座は知らない女に取って代わられていて、否応なく現実の世界で彼女との生活が始まります。
じめじめした幻想世界の図書館と、乾燥して埃っぽいメキシコで受ける堕胎手術の現実的イメージが、あまりにも違うので、前半と後半で分裂した印象を受ける作品ですが、人生ガラッと良くなるよと、プラスに捉えることもできます。ただ、図書館の部分だけ立ち読みして買った人は少しがっかりすると思います。私も、もう少し図書館の世界に浸っていたかったです。最初は、そんな美女がこんなふざけた男に惚れるなんて、都合のいい妄想だな、なんて思っていましたが、読み終えた今は幻想性を強調する効果を狙ってのことで、都合が良すぎるのは先刻承知で書いていることが理解できました。
話は変わりますが、ようやく長年温めていた構想から筆を起こすつもりになったと、この間のお手紙に書かれていて、大変うれしく思っています。小説家と言いながら、あなたは一冊も書き終えたことがありませんからね。自称小説家どころか、ただの無職ですよ貴方は。
しかし、どうせ下っっだらないファンタジーをお書きになるのでしょう?まあ、書けたら読ませてください。
幻想の世界に閉じこもっていたら、救世主が現れて、困難を一緒に乗り越え、素晴らしい現実の世界へ帰還するわけですが、私は救世主を待ってはいられません。自分で自分を救えなくとも、自分で救世主を見つけるくらいのことはするつもりです。
職場に美しい女性がいます。同僚とはあまり話さないのですが、少し長話をしてみようと思います。
未来のカナコ・ニシA様
Sより