稲生の終結
俺が信勝ちゃんと勝家の二人を連れて自陣に戻るとなぜか味方に囲まれた。
「 えーと・・・なんで俺は囲まれているんでしょうか?」
俺はついつい敬語になりながらも囲んでいる兵士を指揮している丹羽さんに聞いてみた。
「 まさか、あなたが敵に内通しているとはびっくりです。」
はい。俺も今びっくりしてますよ。
「 ぜんぜん気づきませんでした。私にわからせないとはかなり優秀な草ですね。」
「 ・・・なんでそんなことになってるの?」
「 あなた、今の状況を見てばれないと思ったんですか?」
「 今の状況って、普通に二人を説得してきて戻ってきたとこですけど。」
「 ・・・は?説得?」
「 はい。」
「 ・・・・・・・・」
「 ・・・・・・・・」
「 ・・・・・・・・」
「 いや、ありえないでしょう。信じられるわけないじゃないですか。」
そのあと、かれこれ1分ぐらい話し、やっと武器を預けることと見張りをつれて行くと言う条件で話がまとまった。
まあ、武器なくてもここ制圧できそうだけど・・・と言ったら面倒なことになるのは火を見るより明らかなので、黙っておく。
「・・・・・あのー、そろそろこの槍引いてもらえません?」
「あ、はい。槍を引けー!」
その声ひとつで囲んでいた兵士はいっせいに槍を引いた。
その動きは、皆そろっていてこんな状況だったのにきれいだと思ったほどだ。
「ん、ありがとうございます。では、二人のことで凛夏に話があるのでこれで。」
千虎が去って言った後、その場には空虚な雰囲気が漂ったのだった。
「 丹羽殿、あの二人を捕まえたことを敵に伝え、早くこの戦を終わらせましょう。」
「 そう、ですね。」
そして、三人を取り囲んでいた兵士たちをつれて十火は戦の終結に向けて動いた。
俺は凛夏がいる天幕に入った。
「凛夏、少し話したいことがあるんだけど・・・ちょっといい?」
「 ん?千虎か。なにようだ?」
「 えっと、勝家って子と信勝って子を捕まえたというか、連れ帰って来たんだけど、ってあれ?なんで入ってこないの?」
千虎は天幕の向こうにそういうと、恐る恐る二人が入ってきた。
「 こ、こんにちは、凛夏姉。」
「 晴、か・・・。」
二人の間に沈黙ができる。
「 二人で見詰め合ってるとこ悪いけど・・・」
「「 見詰め合っておらん(ません)。」」
「 ・・・まあ、そこはどうでもいいんだけど―」
「「 どうでもいいなら言うでない(言わないでください)。」」
「 ・・・はい。それで言いたいことなんだけど、この二人を助けてほしいんだ。」
「 ・・・そのことか。」
天幕の中に沈黙が立ち込める。
「 勝家。」
「 は、はい。」
勝家は凛夏に呼ばれて若干緊張しているようだった。
「 お前の力はこれからの戦で必要になる。今回のことは不問にする。これからは我の下で存分に励め。」
「 はい。柴田権六郎勝家、粉骨砕身従えさせていただきます。」
「 後は、晴だが・・・おぬしを許すわけにはいかぬ。おぬしを許してしまうと、これからも反乱を起こすものが出てくるだろう。おぬしにはこの反乱の首謀者として償ってもらわねばならぬ。」
「 凛夏、お姉ちゃん。」
信勝ちゃんの表情は悲しいというよりも、わかっていたことを改めて言われて諦めた感じのものだった。
「凛夏さあ、俺は自分の妹すら守れないやつに多くの民を守れるとは思えない。どうしても殺すって言うなら、俺がこの子を守って殺させない。」
「だが!」
「そうやって、何でもかんでもきっちりやっていると少しでも狂ったときに動かなくなる。たまには思うように動いてもいいんじゃないか。」
「簡単に言うな!我だって晴を殺したいわけではない。だが、気持ちだけでは何も解決できないのだ。気持ちだけでは、・・・だめなのだ。」
最後は自分にい言い聞かせるように悔しそうに言っていた。
「そのために、俺がいるんじゃないか。言っただろう、俺が支えてやるって。だから、こういうときは頼れ。何とかするのは俺の仕事だ。」
「千虎・・・。頼む、晴を助けたい。」
「了解した。我殿のため百神千虎頑張りましょう。」
それから少しして戦は終結した。
というか、ほとんど終結していた。
丹羽さんが頑張ってくれたみたいだった。
それから1ヶ月ほどたった。
俺は、なぜか袴を着せられ、近くにはウエディングドレスに似たものを着た信勝ちゃん、今は改名して信行ちゃんがいる。
なぜ今こんな結婚式みたいな状態になっているかというと、少し前に織田軍の武将の方々に信行ちゃんが裏切った事情を話して説得して回ったことが功を奏して、やったのことで監視(俺)つきで納得してもらい、法をつくり(俺)、裏切った者には正義の鉄槌(俺)を食らうことにした。
あの戦以降なぜか俺のことは恐怖の対象になっていて、俺がこの職に就任してからは裏切りや、反乱が激減したほどだ。
そんなこんなやっていると、凛夏が言ったのだ。
「千虎と家族に慣れたらいいのになー。」
ちなみに凛夏のあの口調は元からではなく長として威厳がなければと思ってやっていたものらしく、俺がなんか変といった次の日から普通のしゃべり方に直したようだ。
それはさておき、この凛夏の一言に対しまず稲生の戦いのあと凛夏の忠臣となった勝家が動いた。
さらに、丹羽さんが動き最終的にこの舞台が作り上げられた。
ん?俺?聞いたのついさっきですよ。しかも、ご飯の途中だってのにそのまま拉致られたよー。ははは、はー・・・笑えねぇ。
しかも、以前から少しづつ会話の中で俺の世界の結婚式を聞いて、それを再現するほどの気合の入れよう。
「千虎様、どうかしましたか?」
「いや、晴ちゃんさぁ、こんな会って間もないやつと結婚させられていいの?しかも言ってて悲しくなるけど俺って素性とかはっきりしない、かなり怪しいやつだけど。」
「はい。いずれは顔もわからぬ人と結婚させられるとこなのに、知っている、しかも大好きな人と結婚できるなんてとても幸せです。きゃ、言っちゃった。」
晴ちゃんは、一人で顔を赤くしてくねくねし始めた。
「・・・そう。」
俺の前では織田軍の家臣たちが宴会をしている。
その中には文華の姿はない。
今は絶賛監禁中らしい。
何でも、俺の結婚式と聞いて暴れだしたらしい。
「どうしよう・・・。」
そんなことを思っていると、この式の主催者勝家ちゃんが前に出てきた。
「おほん。ここで結婚式の醍醐味らしい誓いのきす?というものをしてもらう。」
「えーと、ひとついい。」
皆の視線が集まる位置には手を挙げている者がいた。
え、誰って?もちろん俺だ。
「俺なんでこんなことになってるかわかってないんだけど。」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
少しの静寂の後、周りは喧騒に包まれた。
内容としては、なに言ってるんだといった俺を非難する感じの者、話が違うといった勝家を非難する感じの者、やっぱりかといったあきれる感じの者といろいろだ。
呆れた感じの凛夏が出てきて言った。
「晴はどうしたいの?」
「私は結婚したいです。」
「そうか・・・千虎は晴と結婚するとなにか不都合があったりするの?ないなら、私は晴は家事全般できるし、何より超可愛い悪いことはないと思うんだけど。」
晴ちゃんへの不満なんかはあるはずもない。あって間もないがこの一ヶ月監視という名目でそれなりの時間一緒にいて、とってもいい子だということはわかっている。問題があるのは・・・
「問題なのは、俺がこの世界のものではなく、いずれはあちらの世界に返らなければならないからだ。」
「・・・そういえばそうだったね。すっかり忘れてた。千虎はずっとこっちにはいないんだった。」
乾いた冷気があたりを吹き抜ける。
「まあ、そんなすぐには帰る気はないけどな。」
俺がそう笑って言うと、空気が緩んだような気がした。
緩んだのは空気だけではなく、ほかの皆の特に凛夏の顔が緩んだ。
「ありがとう。」
俺はその言葉を聞いただけで心がほっとした気分になった。
「それで、どうしましょう?」
誰も何をとは言わない。
「んじゃあ、晴は千虎の部隊に入るといいよ。私はこのまま千虎を単体で私の近くに置くだけって言うのはもったいないと思ったから千虎を長とした部隊を作ろうと思っている。専用の長屋も用意したから、そこに一緒に住むということで良い、晴?」
凛夏の言葉に晴は勢いよく首を縦に振った。
「ありがとう凛夏お姉ちゃん。」
このときの晴ちゃんの顔を見て少しドキッとしてしまったのは内緒だ。
結局、晴ちゃんは許婚関係ということになって、俺の部隊《白虎隊》(自称)の隊員第1号となった。
明くる朝、誰かに呼ばれる気配がした。
「・・・・・・て・・・だ・・・い。」
なんだろ?
「お・・・て・・・ださい。」
起きてっていってるのかな?
でも、眠い・・・。
「起きてください。」
「あと、五分・・・。」
「ごふん?どういう意味ですかって寝ないでください。」
「うぅ・・・。」
「起きないと、接吻しますけどいいですか?」
「今起きた!いやー、良い朝だね。本当いい朝だ。」
「・・・・・・・」
晴ちゃんは何も言ってこない。
恐る恐る晴ちゃんを見ると、かなりふくれてた。
もう頬がパンパンなくらい膨れてる。
「・・・怒ってます?」
「怒ってます。何で接吻するって言ったらすぐに起きるんですか?そんなに私に接吻されるの嫌ですか?」
「いや、・・・嫌ってわけじゃないけど・・・。」
「嫌じゃないけど?」
「恥ずかしい。」
「ぷ、ふふふ。もう、千虎様可愛いです。可愛すぎです。そんなこと言われたら許すしかないじゃないですか。」
晴ちゃんは笑いながらそう言ってくれた。
それにつられて俺も笑ったのだった。
はたから見たら仲睦まじい夫婦に見えただろう。
千虎は目を覚ますために井戸にいって水を汲み、顔にかけた。
「ぷはー、よし。目が覚めた。」
そして、そのまま台所に向かう。
朝食を作るためだ。
昔から、自分で作らなければならない機会があった千虎は、なるべくうまいものを食べたいと思い練習したのだ。
そのおかげで、そこらへんの飲食店より作るのがうまいと自負している。 「うーんと、今日は魚があるから焼き魚と、この前とってきたドクダミで天ぷらでも作るか。」
メニューを決めて、早速取り掛かる千虎。
「手伝います?」
早速、魚の下ごしらえをしようとしたとき今まで後ろで黙っていた晴ちゃんがそう言ってきた。
「うん。お願い。」
・・・いつもならそう言ってただろう。
しかし今は状況が違う
料理だけはだめなのだ。
なんでも、織田家は代々台所に入れないらしい。
なぜって?凛夏に聞いたところによると織田家の人間が料理すると台所が戦場になるらしい。
なんでも、包丁が飛び回り、鍋や釜が弾けとび、同じ食材で同じ手順で作ったはずなのに明らかに食べられないようなもの(・・)ができるらしい。
そして、特に晴ちゃんはまれにいる危険種らしい。
なんでも、努力すれば大抵のことは人並み程度にできる。
だから、努力が大事・・・と思っている人らしい。
まあ、努力が大事なのは認めるが・・・
努力でどうにかなるとはどうしても思わない。
「む、信用してませんね。お姉ちゃんとは違って実戦経験豊富なんですよ。」
そして、そうそうに見切りを付けた凛夏とは違い、晴ちゃんは何とかやればできるんじゃね派らしい。
「晴ちゃん・・・、たぶん晴ちゃんのじっせんはおかしい気がする。」
「そうですか?でも、あってると思いますよ、実戦で。」
事前に凛夏に聞いた俺は極上のスマイルで言った。
「ダイジョウブダカラ。」
む。なんか硬くなってしまったか?まあ、大丈夫だろう。
「千虎様。とっても申しあげにくいんですが、私のこと信用してないです?」
「い、いや、そんなことないよ。でもね、でも料理だけはちょっと・・・ね?」
「うぅー、わかりました。」
「まあ、うん。もうできたから、準備をしてくれる?」
「はい。わかりました。」
頼まれたのがうれしかったのか、スキップする勢いで準備をしにいった。
晴ちゃんは台所にたたせないほうがいいだろう。
さっきまで仏頂面だった晴ちゃんは、急に笑顔になってそそくさと食器棚(千虎作)に向かっているのを横目で見て、千虎も最後の仕上げに入る。
その後、料理を仕上げた俺は晴ちゃんが机(作千虎)に乗っている二人分の食器に作ったものを盛り付けた。
それが終わると、まだ立っていた晴ちゃんと一緒に椅子(made TITORA)に座り二人でいただきますをした。
「ところで今日の予定は?晴ちゃん。」
やっと一息つけた俺は、晴ちゃんにそう聞いた。
晴ちゃんのこの白虎隊(自称)での位置づけは俺の秘書みたいなものだった。
スケジュールの管理、雑用の支援、お金の管理などさまざまだ。
そんな有能な晴ちゃんは一旦箸を終えて言ってきた。
「今日は朝5つから軍議があるそうです。なんでも今後のことについて話したいと。」
「そうか、尾張を平定してやっと安定してきたもんな。次に狙うのは美濃の斉藤かな・・・。」
「おそらく。」
「ところで今は?」
「ん?ああ、今は朝4つですね。」
4?4かぁー、ならあと朝一つくらい・・・朝一つってどれくらい?
「えっと、その表し方はまだわからないんだけど。」
「あ、そうなんですか。えっと朝5つって言うのは辰の刻ぐらいで朝4つが巳の刻ぐらいですね。」
「なるほどそうなんだ。」
相槌打ってますが、実際は冷や汗でまくりの、頭の中真っ白です。
それでも、すいているお腹のため箸(これは買った)は動いている。
「おー。この野菜癖があるけどおいしいですね。」
目をキラキラさせながらドクダミの天ぷらを食べる晴ちゃん。
「・・・ねえ、晴ちゃん?」
「なんでしょうか?」
箸をおいて、真剣に聞いてくる。
「今日の晴ちゃんの予定は?」
「私の今日の予定は千虎様のそばから離れない、と言いますか千虎様の監視下に常にいることですね。」
またまた笑顔で教えてくれる晴ちゃん。
「ねえ、晴ちゃん。」
「なんでしょうか?」
またまた箸をおいて(略)
「俺朝4つって辰なんだよね?」
「はい。そうですよ。」
またまた(略)
「ねえ、晴ちゃん?」
「なんでしょうか?」
また(略)
「やばくない?」
「・・・ダイジョウブジャナイデスカネ?」
やっと笑顔が崩れた晴ちゃん。
そのまま、沈黙が続く
そとの人の騒がしさが聞こえてきた。
あー、朝が過ぎて昼近くなってきたんだなって感じがする。
「・・・行こうか。」
「はい・・・。」
すぐにご飯を食べ終え、行儀よく食べていた晴ちゃんを待って、城に着いたときにはもう午の刻ぐらいになっていた。
俺たちは気配を消すように行き先である部屋の前までたどり着いた。
中からはみんなの話し声が聞こえてきていた。
俺たちは心配になって小声で話しだした。
〈・・・どうしましょう?〉
〈こういうときは真実を包み隠さず話すに限る。そして、謝れば何とかなる・・・はず、・・・・・・なるかなー、・・・・・・・・・なってほしいなー。〉
〈千虎様、目が目が虚ろになってますよ。〉
〈はっ!いけない、いけないごめんね晴ちゃん。〉
〈いえ、それで・・・いつ入ります?〉
〈今でしょ?〉
〈何で疑問系なんですか(> <)〉
「そこで、何をしている。」
その言葉に二人してびくっとした。
〈だ、だいじょーぶだよ。ばれてないばれてない。〉
そう言っている千虎の顔は冷や汗が滝のように流れている。
〈そ、そうですよねー。〉
それは晴ちゃんも同じようなもので・・・
「早く二人とも入って来い!」
「「はい!!」」
今度こそつい返事をしてしまった二人はしぶしぶ襖を開けて中に入った。
何より、周りの視線がいたい。
重要な会議なのか、いるのは凛夏、文華、丹羽さん、勝家ちゃん、犬南、そして今にも飛び掛ってきそうな三佐だ。
「二人とも遅かったな、私は朝5つといったはずだけど。」
あれっきり、普通に話すようになった、凛夏がそう言ってきた。
「すいません。」
俺は言い訳せず頭を下げるだけだ。
「まあ、大体の事情はわかるけどね。晴ー、しっかり伝えてっていったよね。」
「うっ、ごめんなさい。昨日はそれよりも千虎様と同棲ってことで頭がいっぱいで・・・。」
「はぁー、まあわかった。それでこれからみんなでご飯食べに行こうって話をしていたんだけど。どうする?」
「あ、それなら、いこう―」
「ごめん凛夏お姉ちゃん。私もうお腹いっぱいだから。」
〈ちょ!晴ちゃん。〉
〈だって、うそは言うなって言ったじゃないですかー。〉
「ふーん、私たちはすぐに集まって会議してたって言うのに二人はゆっくーりご飯を食べていたと。それで千虎おまえは―」
「今日の献立は、米と鯵を焼いたやつ、ドクダミの天ぷらに、豆腐の味噌汁だった!」
「献立を聞きたいわけではなかったんだけど・・・。天ぷらか、食べたいな。」
「んじゃ、今度作るよ。」
「本当か!やった。」
喜ぶ凛夏の顔はとても可愛い。
これを見るだけでかなり幸せな気分になれる。
じっと見ていると、服の裾をつかまれた。
その手をたどっていくと、晴ちゃんが赤い顔していた。
「わ、私のことも見てください。」
自分で言ったことが恥ずかしかったのか、言葉の音量は減っていき、顔の赤さは増していった。
この場に静寂が訪れ、部屋にいる人の息遣いがやけに大きく聞こえた。
「はぁ、はぁ、はぁ、凛夏様も、晴様も可愛いなー。」
音がするほうに視線を向けると少し開いた襖の隙間から、女の子が覗き込んでいた。
「猿!気持ち悪いぞ!」
凛夏が若干引き気味にその女の子に向かってそういった。
「うぅー、ひどいです、凛夏様。」
相変わらず隙間からこっちを見てしゃべる猿と呼ばれた少女。
「・・・いいから入れ、そこでそうやっていられると怖気が走る。それにちょうどいいから。」
「はい!」
そう言って元気よく入ってきたのは、普通だらけの女の子。
見た目は周りにいる人たちと比べると『普通』、身なり整ってはいるがそこまで飾ったものではなく一言で表すと『普通』、髪型は日本ならどこにでもいるような黒髪で、丹羽さんのように長いわけでもなく、逆に短いわけでもなく、言い表すならそう『普通』、雰囲気は凛夏のように威風があるわけでもなく、三佐のように荒くもなく、丹羽さんのようにきっちりしているわけでもなく、かといって晴ちゃんのようにふわふわしているわけでもなく『普通』。
「こいつは藤吉郎と言って少し前に私の小姓にしたやつだ。こいつも、千虎の部隊に入れてやりたいんだが。」
「俺は別に―」
「反対です!」
そこに異を唱えたのは、晴ちゃんだ。
「女の子が入って間違いがあったらどうするんですか。そういうのは私だけで十分です!」
「もともとこれから人数を増やしていくって言ったよね。」
凛夏がすぐさま言い返す。
「聞いてません。私にとって都合が悪いので聞いてません!」
いつになく、あつく語る晴ちゃん。
「まあ、決定事項だから。千虎よろしく。」
「千虎さんよろしくです。」
藤吉郎ちゃんは丁寧に頭を下げてきた。
俺の隣では晴ちゃんがむくれていた。
そのまま、ご飯を食べてしまっていた俺たちは行きと同じ道を逆に一人多い人数で歩いていた。
ちなみに、最初こそはむくれていた晴ちゃんだったが、藤吉郎ちゃんの人付き合いの上手さと、晴ちゃんのちょろ・・・寛大さによって今では、仲良く話している。
「へえ、猿ちゃんは農民出身だったんだ。」
ちなみにみんな藤吉郎ちゃんのことを猿と呼んでいるが、別に藤吉郎ちゃんの愛称が猿なわけではない。
「はい。下に妹がいて、お母さんに楽させたくて武士になろうと思ったんです。」
「ふーん。家族思いだね。でも、そういう子は結構好きだよ。」
晴ちゃんも藤吉郎ちゃんと話すときにはかしこまって話すことなく気軽に話していて俺としてはうれしい限りだ。
「二人ともついたぞ。」
「おー、意外とでかいですね。」
藤吉郎ちゃんはあちこち見ながら感心してそう言った。
「それと。」
俺はそう言って藤吉郎ちゃんに向き直る。
「これからよろしく。」
「・・・はい!これからよろしくお願いします。」
三人は家屋の中に入っていった。