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第 4 話  いざなう者の洞窟

 村に戻って知ったことは誰も船で渡る発想にいたらなかったことだ。それゆえに船もない。船大工もいないので作れる者もいない。


 こうなったら泳いで渡るか?

 しかし渡ったあとにあの塔をのぼらなければならないと思うと想像しただけで嫌になる。

 そもそもほしいのは鍵ではなく玉だ。玉を研究しているらしいラボの扉が開かないからマスターキーが必要なのだが……。


 なぜこんな面倒な手続きを踏まなければいけないのか?

 なんとかく村人たちに言われるまま行動していたが、結果がともなえば過程などさほどの問題ではない。そもそも俺は冒険者じゃないのでクエストの類を攻略する義理などないはず。


 そうと決まればやることは簡単だ。


「よし、行くぞ、お前たち!」


 俺の進む方向が塔とは逆であることに疑問を投げかける奴隷たちに理由を説明していやると、感心を通り越して驚愕していた。


 西の空に日が沈む。


 村の家々にも灯りがともり、日がな一日仕事もせずに村の中をさ迷っていた連中もいなくなったころ、俺たちはラボらしい民家の前の茂みに身を潜めていた。


「ご主人様……出てきた」


 夜目の利くミケがいち早く見つけた。目をこらすとたしかに人影らしいものが、扉から顔を出してあたりをうかがうと、そっと扉を閉じて出掛けて行った。


 案の定だ。中にいるのが人間ならば、いずれ食料の買い出しなりなんなりと扉を開けて出てくるはずだと睨んでいた。なにもマスターキーをさがして不法侵入する必要などない。こうして扉が内側から開くのを待てばいいのだ。


「よくやった、ミケ」


 何気なく頭を撫でてやったら喉をゴロゴロ鳴らし出したので喜んでいるのだろう。クルルもすり寄ってきたのでついで撫でてやった。マリアがチラチラとこちらを見てくるのでこのへんでやめておく。


「よし。そのまま監視を続けろ。帰り際に……押し掛ける」


 ほどなくして灯りもつけずに家主が帰ってきた。事前に打ち合わせしていたとおり、マリアが「お任せ下さい」と言って静かに茂みから出て行った。


「こんばんは」

「――ッ!」


 しまりかけた扉の隙間にマリアのつま先が突き刺さる。まるで熟練の新聞勧誘員のような手際だった。シスター時代はお布施の協力に家々を練り歩いたそうなので、手際がいいのはそのためだろう。苦労していたようだ……。


「少しお話をしたいのですがよろしいでしょうか?」

「な、なんじゃお前さんは? こんな時間に非常識じゃよ!」


 俺ならすぐに引き下がってしまいそうだが、マリアは下がるどころかぐいぐい行った。


 結果、魔力の玉の寄付は頑なに拒まれて手に入らなかったが、魔力の玉がなんに使うものなのかは聞き出せた。マリアは「申し訳ありません」と消沈していたが、成果は十分に得られたので感謝の言葉を伝えると「お優しい……」と熱を帯びた瞳で見つめられた。


 今日はもう遅いので宿屋で一泊して出発は明日にした。そして……。


「カオス様宛にまた手紙が届いていますよ」


 背中に冷たい汗が流れる。差出し人はもちろん母だ。店主に手渡された封筒はなぜだか黄色かった。内容はさらに短くなり、まるで電報のようである。その晩の夕食は喉を通らず、俺はベッドのなかで悪夢と戦った。


「カオス様、おやめ下さい、こんなかっこう神様にお見せできません、あ、ああ、あああ――ッ!」

「ゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロ、あ、ご主人様、そなんとこ吸っちゃだめニャ、ニャ、ニャ~ン」

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ――――ッ!」


 相変わらず奴隷娘たちの寝言は艶めかしかったが、俺はそれどころじゃなかったのでイベントなんて発生するわけがない。


 翌朝――。


「昨晩もお楽しみでしたね」


 俺の目の隈を誤解しているのだろう。一睡もできなかったのはお前の運んできた手紙のせいだと言ってやりたかった。


 チェックアウトして宿を出ると、道具屋で買い物をしてから西のはずれにある、いざなう者の洞窟へと向かった。


 洞窟の入口は広く馬車ごと通りに抜けられた。ゆるやかな坂をくだり地下へと潜っていく。心許ない松明の灯りを頼りにして奥へと進んでいくと、ほどなくして行き止まりまで辿り着いた。番人のように突っ立ていた爺さんをみつけたので馬車からおりて近づくと――。


「ここはいざなう者の洞窟じゃが通路は石壁で封じられておる」


 訳知り顔の爺さんだったがそれ以上のことは口を割らなかった。まさかそんなことを言うだけのために洞窟の奥に潜んでいたとは思いたくないが、相手にしていても時間の無駄だと判断し、無視して石壁へと近づいた。


 落盤などで埋まった感じではない。人工的に埋められたようだ。誰がなんのためにこんな迷惑なことをしてくれたのかはしらないが、俺のゆくてを阻むというのなら容赦はしない。


 俺はバールのようなものを抜くと助走をつけて石壁へと叩き込んだ。


 バールの先が壁に突き刺さると背後で爺さんが悲鳴をあげた。


「なにをしておるのじゃ? そこは魔力の玉を使うとこじゃろ!」

「生憎と持ってないんで――ねッ!」


 バールのようなものを振りかぶり、再び壁へ叩きつけると表面が削れた。さすがに破壊は難しいか……。


 昨晩、魔力の玉が爆弾のようなもので、石壁の破壊に使うことが判明したのだが、普通に考えれば崩落の危険があるにもかかわらず、誰一人その危険性を考えていなかったことには驚いた。


 当然、そんな危険をおかすわけにもいかない。そんなわけで掘削する道を選んだわけだがやはり一筋縄ではいかないようだ。


 しかしうちには秘密兵器がいるので諦めるのはまだ早い。


「クルル」


 事前になにをするのかは命令しておいたので、クルルは頷き石壁を調べだした。


「カオス、サマ、ココ、ココ、うすい」

「よし。そこだな、ちょっと退いてな……」


 クルルが退いた場所にバールのようなものを叩きつけると――。


「おっし!」


 バールの先が突き刺さり、壁に亀裂が入る。感触もたしかにあった。期待していたノッカーの能力は本物のようだ。


 鉱山にすむ妖精であるノッカーはこういった場所に精通していて、鉱脈などをみつける才能に長けているそうだ。とうぜん石壁の強度など軽く叩いただけ把握できるので、もしやと思いためしてみたがうまくいった。


 そしてクルルへの期待はもう一つある。


 今朝、道具屋で購入した大金槌を馬車からおろしてクルルに渡した。


「クルル、全力でいけ」

「ガッテン」


 自分の腰回りほどもある大金槌を振り上げたクルルが、壁に向かって突進すると勢いよく叩きつける。洞窟を震わす轟音と共に壁に大きな穴があいた。


「でかしたクルル!」

「カオス、サマ、うれしい、クルル、も、うれしい」


 見込みどおりだ。カエルに蹂躙されていたのが嘘のような破壊力。この子はやればできる子だ。良い拾いものをした。


 その後もクルルの働きと俺のバールのようなものの活躍により、帆を畳めば馬車が通れるぐらいの穴があいた。


「よし、出発だ!」


 こうして俺たちはクエストを無視して国境をこえた。唖然としていた爺さんが正気を取り戻して騒いでいたが無視して馬車を走らせた。


 しばらく走ると外の明かりが見えてくる。意気揚々と光を目指して馬車を走らせると数時間ぶりに地上に出た。


 この安堵感たるや……やはり人はお天道様の下で活動するべきだとしみじみと思う。そんな感じで俺たちは新大陸へとやってきた。


 アリアサンの城よりも立派な城が目印の城下町へとやってきた俺たちは、旅の疲れを癒すために早くも宿にチェックインした。


 部屋に通されて開放的な気分でベッドに横になると、閉めたばかりのドアがノックされる。入ってきたのはベルボーイだった。


「カオス様、お手紙が届いております」


 手渡された封筒の宛名を見て血の気が引く……母からの手紙だった。

 赤い……封筒が危険信号のように赤いのだ。俺は中身を開くこともできず、ただただ脅えて頭からシーツをかぶると念仏を唱えた……。


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