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第 3 話  オナジミの塔

 現在、俺はゆれる馬車の荷台で寝っ転がっていた。不愉快な振動だが尻の痛みに耐えるよりはマシだろう。馬車を手に入れた経緯は……説明するまでもない。拾得物を利用しているだけだ。


 馬車は二台あったので横転せずに幌も無事だった方を頂いた。これも法律的に問題のない行為なので後ろめたさはない。

 ついでに商人が持っていた金目のものや使えそうな雑貨も頂いた。何度も言うが合法だ。それなら盗賊も襲いたい放題な気がするが、何度もやれば自然と足がつくらしく、すぐに賞金が懸けられるので金に困ったからといって安易に人の道を踏み外すのは危険である。


 もちろん俺はそんなことしない。が……今の俺は三人の娘を養わねばならぬ身だ。商人から頂戴した金品を換金しても楽な暮らしはできまい……。


 そうそう、横転した馬車の中から三人の奴隷証明書もみつかった。これで俺も胸をはって主人を名乗れる。ちなみにこの書類は奴隷自らみつけてきた。彼女のたちの思惑どおりであるのならちょっと怖い……。


 そうして脅えた馬をどうにかなだめすかして出発した。


 現在、馬の手綱を握っているのが三人の中で一番年上のマリア。今年で18歳になるそうだ。やたら礼儀正しいと思ったら元シスターらしい。勤めていた孤児院が地上げ屋の目にとまり、施設を守るために身売りしたのだとか。

 立派な女性だ。どことなく神々しい金髪がよく似合う、見目麗しい少女の横顔を見ているだけでドキドキする……。すぐに馬車の振動だと気がついた。


 馬車の隅で体操座りをしている少女が同い年のミケ。奴隷のくせに素っ気ない奴だ。俺の一挙一動を観察しているその瞳は夜目もきく。なんと獣人娘だった。髪に隠れるほどの小さな耳だったの気がつかなかったが、まごうことなき猫耳の生えたキャットピープルだ。どうも部族間の闘争に敗れて売られたらしい。あまり口を聞いてくれないのでそれ以上の事情は聞き出せなかった。多少毛深いが赤毛の似合う可愛い少女だ。気が強そうな目つきを見ていたらドキドキしてきた。もちろんすぐに馬車の振動だと気がついた。


 そして最後に、俺から片時も離れようとしない14歳の娘がクルル。大人の階段をのぼりだした中学生のような体型の少女でやらたと好意的。これまたなんと妖精娘だった。ノッカーと呼ばれるドワーフの親戚のような種族で小さいのに力持ちとのこと。どおりで抱きつかれたときに背骨が折れそうだったわけだ。胸の感触に意識を集中していなければ気絶しているところだった。今は俺の腕にしがみついたまま気絶したように寝ている。ちなみに全裸はまずいので、俺が着ていた布の服を着せた。栗色の巻き毛が可愛らしい少女だ。腕に伝わる体温が俺の心臓をドキドキ……馬車の振動だろう。


 愛らしい三人の奴隷娘を棚牡丹(たなぼた)で手に入れたまではいいのだが、時間をおいて冷静になってみると不安になってくる。なんせ俺は家出中の身だ。金もなければ仕事もない。当然、奴隷を養っていく甲斐性もない。


 すでに詰んでるじゃないか……。


 いや、諦めるのはまだ早い。仕事を探して立派な大人になればいいのだ。


 職探しをする必要がある。


 しかしこのしみったれた島国ではたいした仕事にはつけないだろう。是が非でもこの国を脱出する理由ができた。


 俺は決意を新たに手綱を握るマリアに進路を指示する。ろくに休みもせずに走り続けた結果、夕暮れ前には村へとついた。


「ようこそレーテ村へ!」


 村の入口で同じ言葉を連呼する若者に会釈をして馬車からおりる。やばい人かもしれないので刺激しないようにと奴隷たちに言いふくめた。


 馬車からウサギの死体をおろすとさっそく素材屋へと向かう。力持ちのクルルが手伝ってくれたので手間はかからなかった。これだけの筋力があるのならカエルぐらいなら素手で倒せたのではなかろうか? 今度一緒に戦ってみようと思う。


 素材屋に持ち込んだウサギは結構な高値で買い取ってくれた。頭部以外に損傷していなかったため毛皮も綺麗にとれるからだとか。叩き折った角もふくめて100Gの儲けとなった。


 悪くない利益だ。あの程度のウサギなら何匹でも狩れそうなので、金に困ったら狩猟することにしよう。何故だかモンスター共の死体の側にはお金が落ちているので狩るだけでも金になるし、冒険者というのは結構ボロい商売なのかもしれない。ちなみにウサギ一匹とカエル二匹で30Gの利益があった。


 日も暮れてきたので今日は宿をとってゆっくりと休むことにした。奴隷たちが恐縮したが馬小屋で寝かすなんて俺の良心が痛むのでツインの部屋をとる。小柄な少女たちなのでなんとか三人でもに寝られるだろう。


 宿屋で夕食をとっていると奴隷たちが泣きながら料理を口に入れていた。

 パンと水と野菜屑が彼女たちの主食だったと聞かされて思わずもらい泣きする。薬草サラダでも食えるだけマシだったのだと少しだけ母に感謝した。


 食事を終えて部屋に戻ろうとすると宿の主人に呼び止められる。


「カオス様、手紙が届いておりますよ」


 宛名を見てぎょっとした。


 それは母から手紙だった……。


 わたしのかわいいカオスへ

 早く帰ってらっしゃい。王様も首を長くして待っていますよ。

                         母より


 最後の方はミミズが這ったような文字で読みづらかった。母の心情が読み取れて不安に襲われる。


 その夜はなかなか寝付けなかった。

 一番の理由はクルルがベッドのなかにまでついてきたことだ。人語の理解度が低いのと片言しか話せないため、いくらマリアが言い聞かせても離れようとしなかったのであきらめた。奴隷という立場はわかっているようだが近くにいるなら離れたくないという意思はなんとなく伝わる。マリアの話によると妖精族は生涯ただ一人の異性を愛するそうで、その相手に選ばれたのだろうとのこと。うれいしが……重い。


 そんなわけで薄手の美少女が俺を抱き枕のようにして寝ているわけだ。隣のベッドでは警戒心をとかないミケがこちらを常にうかがっているし、マリアも覚悟を決めたという顔で神に懺悔して豊かな胸の上で十字をきっている。


 奴隷たちが勘違いしているは俺の挙動が不審だったからだろう。しかし誤解だ。俺は母に見張られているような気がして不安なのだ。窓が震えるたびにビクビクするとクルルが体をすり寄せてくるし、隣のベッドのシーツもモソモソと動く。そんな感じで夜もふけていった……。


「カ、カオス様、おやめ、下さい。この身は、神に捧げたのです、ダ、ダメ、そんなところをさわられては――あっ――ああっ!!」

「ご主人様~ミケの尻尾は歯ブラシじゃないニャ~。そんなにひっぱったらパンツ脱げちゃうニャ~。でももっとさわってほしいニャ~」

「カオス、サマ……スキ……スキ……ちゅう……ちゅう……はぁ……はぁ……」


 眠れない俺の耳に楽しそうな寝言が聞こえてきたが、生憎と母の幻影に脅えていたせいで艶っぽいイベントは発生しなかった。


 翌朝――。


「昨夜はお楽しみでしたね」


 挨拶もそこそこに宿屋の店主がそんなことを言ってきた。俺はうなされていたはずだ。だって寝汗がすごかったもの……。奴隷たちが頬を赤らめたのは見なかったことにする。


 朝食を終えて宿屋を出ると情報収集に向かった。


 村の人々は不自然なほど親切で、聞いてもいないこともまでペラペラと教えてくれる。ぐるっと一周するころには何をどうすれば国境をこえられるのかわかった。


 最終的には魔力と玉と呼ばれるアイテムが必要なのだとか。その玉を手に入れるには近所の塔にのぼる必要があるようだ。


 さっそく下見に行ってみることにした。


 ほどなくして目的地につく。村からも見えていたので方角すら聞かずに辿り着けた。当たり前のことなのだが、どこか新鮮な体験だった。


 オナジミの塔だか言う、誰がなんのために建てたのかわからない塔を奴隷たちと一緒に見上げた。

 20階建てのタワーマンションぐらいの高さはありそうだ。この塔の最上階に行けば山賊の鍵なるアイテムが手に入るらしい。なんでも様々な扉を開くことができる鍵なのだとか。ようはマスターキーなのだろう。


 なんでわざわざマスターキーを塔のてっぺんに保管してあるかは知らないが迷惑な話だ。塔の中にはモンスターも出没するらしいという村人の話を聞いて、奴隷たちは震えていたが俺にとってはモンスターの脅威よりも、あの高さの塔にのぼることを考えるほうが苦痛だった。


「カオス様、あちらに洞窟の入口らしきものが見えます」


 神妙な面持ちのマリアが示す方向を見ると、たしかに地下へと潜れそうな岩で覆われた不自然な入口が見えた。塔をぐるっと一周するように川が流れているので、おそらくあの入口から地下道を通って塔の中に入れるのだろう。


「ご主人様……」

「イク?」


 ミケとクルルは脅えた表情を見せながらも洞窟に入る気でいるようだ。

 そういえば村人が洞窟はいりくんでいるので気をつけろと注意してきたこと思い出す。


「…………」


 誰もが洞窟を目指そうとしているのはなぜなのだろう?


 状況判断するなばら、塔は川に阻まれていて近づけないから。ということのなのだろうが……。


 この川、渡っちゃえばいいじゃないの?


 たかだか20メートルほどの幅しかない川だ。流れもたいしたことなし、ボートで十分渡れる自信がある。


 奴隷たちに提案してみるとなぜだかみんな驚いて感心された。


「カオス様は鬼才ですね」

「ご主人様……すごい」

「カオス、サマ……スキ」


 馬鹿にされているのではなかろうか?

 しかし彼女たちはいたってまじめのようだった。


 とりあえず乗り物を調達するために村へと戻ることにした。


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