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弟の見解

急いで書き上げ為に展開は割と雑です。

 自分はフレデリック・フリーデン、一般的に武家と称される家の次男である。早速だが、言いたいことが一つだけあるので言わせてもらいたい。人は立場に見合った態度と力を持ち、それを行使しなければならない。

貴族ならば貴族らしく教養を蓄え、国の為にこれを行使する。

武家ならば武家らしく武芸を磨き、これを以って国を守る。

農民ならば農民らしく畑を耕し、これを基に国の基を形成させる。

 かくあるべきだ。

 だがなるほど、世の辛さを何も分かっていない、十二にも満たないただの小童がこのような事を言って何とするか、という意見もあるだろう。

 それに、先の考えに従うとするならば、小童は小童らしく大人しくしていろ、と言いたいのもわかる。

 だがしかし、小童と言えど、世に名を馳せる武家の端くれたる自分が、立場に見合わぬ態度をする者を見過ごせようか。否!断じて否である。

 しかもその対象身内であるとするなら、、殊更にその行いを正さねばならないだろう。力はあるのに使わず、家の為に働かないとは何と勿体無い。

 それ故にまず、我が兄を正す為には、自分がその見本たる行いをするべく、力をつけねばならない。よって今日も自分は学問に励み、武芸に精を出さねばならぬのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー


雪解けもそろそろ終わる頃の初春で、正午も過ぎて程よく暖かくなった部屋の中で、中年とまでは言えないがそこそこの歳の青年一人と少年一人が羊皮紙と本を片手に会話をしている。


 「さて、フレデリック様、一般に魔術と言うのはどの様なものであるかはお分かりですか?」

 

 「百年ほど前の戦の時代に突然使えるようになった特別な力、だと聞きました。魔法陣を使うものと、詠唱を行う物とがあります。」


 「よくご存知です。復習の方は出来ているようですね。」


 ここは、フリーデン家邸宅の一室である。今行われているのはフリーデン家次男、フレデリック・フリーデンへのマンツーマンの学問指導のようだ。幼い頃から行われてきた教育のお陰もあり、間もなく十一歳という年齢とはおよそ不釣り合いな知識を身につけている。秀才タイプの勉強家で、努力に裏打ちされた知識力だ。


 「次に、魔術の起源についてですが、百年ほど前に、多くの国が興っては消えていく戦乱の時代がありました。」


 「旧戦争時代ですね。」


 「その通りです。この家の先祖、つまりはフレデリック様の曽祖父であるウィリアム様は公式な記録の上では初めて魔術を使ったとされています。魔術を行使できた理由については諸説があります。これは多々ある説の一つですが、戦乱の時代を憂いたウィリアム様は、世界一の高さを誇る山の頂上で神の遣いより魔力の使い方を授かったが故に、魔術の使用方法を知ったとする説が一般的です。」

 

 一呼吸おいてから、教育係は落ち着いた口調で諭すように教鞭を執る。生徒は目を輝かせて食い入るように授業に熱中する。


 「その力を使い、当時この国は建国数十年で小さな国であったものの、義勇兵から将軍の地位まで大抜擢され、現在の騒乱が収まった均衡状態の礎を作られました。」


 「それ程までに魔術とは戦争に有用なものだったのですね。」


 「確かにその通りなのですが、それらは戦争への活用のみならず生活の面にも大きく出ていたのですよ。火を出したり水を操ったり土を耕したりなどの生活面での有用性は、考えるまでもありません。」


 「魔術も使い方によってその用途は大きく変わってくる訳か……。」


 「さて、今までは魔術の歴史などについて説明してきましたが、今回は、魔術の性質について説明致しましょう。ここからはまだ教えない重要な所です。よく覚えておいて下さい。」


 「わかりました。一言一句逃さずしっかりと頭に叩き込みます。」

 生徒の魔術に対する意欲は十分を通り越しているようだ。。


 「良い心意気です。では基本中の基本的ですが、魔力とは四元素の火、土、水、風の四つからなり、その他各種治癒魔法など、細かく分類されるものがあります。それらを自分の中にある魔力を引き出し、詠唱、或いは特殊な文字によって魔力を変換し、イメージをを形成する。以上のことを全てこなして初めて魔術が成立するのです。」


 「魔力とは膂力と似たようなものなのですか?」


 「まぁ、そう焦らずに。順を追って説明しますので。で、魔力についてですが、これは誰の中にも内包されており、一般的には誰でも扱うことが出来ます。ですが魔力の扱いに関してはそうではありません。人による個人差はありますが、魔力の内包量の上限、魔力操作共に向上して行きます。その点では膂力と似たようなものですね。」


「なるほど。」

 と、頷くのを見て、教育係は更に続ける。


 「また、魔力だけでは殆ど意味を成さず、魔術として扱う事で初めて魔力を消費することができます。その上個人個人で微妙に違った性質があり、人によって得意な魔術が異なってきます。では試しに、魔法陣を使って実際に魔術を使いましょう。見ていて下さい。」


 そう言って、傍にある五芒星に二重円、それと間に幾つかの文字が描かれた羊皮紙を取り出すと、その上に手を乗せて何やら力を込めるような動作を行う。すると図形と文字が輝き出したと思うと、羊皮紙から程々に離れた中空から、ボッ、とこぶし大の火の手が上がった。するど何故か少年は悪寒を感じた。火を見て驚き、恐怖した訳でも無く、また、感動したわけでもないのは何度も似たような感覚を味わっているのでよくわかる。


 「今、悪寒を感じたようですね。魔力の行使を感じとったのです。これは改めて説明することではないかもしれませんが、人間を含めた生き物は、魔力に対して敏感なのです。これらは本来無いものでしたからね。」


 「確かに、魔術が便利であり、有用なものであるのは分かります。ですが、魔力を消費することによって疲労したりはしないのですか?」


 「その通りです。例えば、運動をすれば疲労するのは当然の理であるように、魔力を使うことで疲労します。これは使用した魔力の量に比してその度合いは上昇します。ですが、先程も言いましたとおり、膂力とは似ているのですが、そこには一つ、大きなリスクがあります。」


 「違う点とは?」


 「年齢を重ねて魔力が減ることはないものの、老いた状態で魔力を使うと、『神の咎め』を受けることがあります。」


 「神の咎め?」


 「魔力は神から授かったものであるということはさっき説明しましたね。どうやら神は老いた人間が前に出てくるのを好まないらしく、老いた者が魔術を使おうとすると、唐突に死を与えることがあるのです。これを指して『神の咎め』と呼びます。老いても衰えることのない魔力ですから、老人が戦場でも活躍できる要因になったりすることもあるのですが、結果的に老兵は基本的に後進の指導に当たることが多くなりますね。」


 「なるほど、それで王学校の武官の育成に人が回ってくるわけだ。」


 「そうでなくとも先人の知恵は貴重なものです。まぁ、それをないがしろにするような行いをする者も残念ながらいるのですけどね……。おっと、話題が逸れましたね、魔術に関してですが、早速フレデリック様にも使って頂きましょう。」


 「いきなり実践か、魔力を操作する自信がないのですが……。」


 「問題はないでしょう、内にある力を行使するイメージがあれば誰でも使えます。魔力の性質については、以前調べた結果ですと、火、風に関しての扱いに長けているそうです。基本的には一つの属性に適性があるのが一般的で、他の属性も使えないこともない、というのはありますが二つの属性に適性があるというのは珍しいのですよ。」


 「兄上は全ての属性に適性があります。」


「あの方は例外です。それに魔術の良し悪しを決めるのは適性だけでなく、魔力操作の精密性や魔力量などにも左右されます。その事をゆめゆめ忘れないで下さい。現にアルス様は、そのとてつもなく低い魔力量と魔力量の上昇の幅の低さによって適性や魔力操作の精密性の優れた点を無駄にしています。」


 「残念ながら確かにそうだな……。」


 「まぁ、アルス様は工夫によってうまく扱えていたりするのですがね。要は魔術も使い方次第です。では外に出て、実際にやってみましょう。ここにフレデリック様に作られた籠手がありますが、初級魔法用の魔法陣が刻まれています。これを使って魔術を使ってもらいます。」


 「唱える方は行わないのですか?」


 「いざという時のための奇策として用いられることはありますが、戦場ではそんなものを唱えている暇はないとご説明致します。よってそちらは後々時間が空いたらやりましょう。」         

 「……わかりました。」

 そう言いながらも、不満であることは表情から見て取れる。


 「そうそう不満そうな様子を見せないで下され、後々確実にやりますので。」


 「絶対ですね。」


 「絶対です。では移動しましょう。」


 二人は部屋から出ると、廊下には冷たい風が流れており、いささか少年のやる気を減退させる。だがそこはやはり寒気を堪えて外に出る。歩きながら籠手を装着し、感触などを確かめてみる。木製の籠手で、二重円の魔法陣の形の彫り込みが入れてある以外は普通で、軽くて扱いやすい。


 そうして外に向けて歩いていると、オルタトリアンがふと立ち止まって上を見上げる。どうしたのだろうと思って自分も見上げてみるが、そこにはなんの変哲もない薄汚れた天井があり、穴が少し空いている以外は、これと言って気に触ることはないと思うが、どうしたのだろう。訳がわからない。


 「フレデリック様、外で魔術の実演をすると言いましたが、ここで実際にやりましょう。まずはあの天井に向かって私が火球を撃ち込みますので、見ていて下さい。」


 「あそこはただの天井ではないですか、家を壊すおつもりですか?」


 そんな意見も無視して、オルタトリアンは籠手を着用した右手を天井にかざし、力を込めると、前方に人の頭程の火球が作られ、そして天井に向かって飛んでいく。

 火球は天井にぶつかると弾けて、軽く天井が崩壊してしまった。だが、床に落ちてくる瓦礫の中には、何かしら人のようなものが落っこちてきた。


 「痛てて、殺す気かよオルト。そうでなくとも火事起こしちまうぜ。」


 「いやいや、殺すつもりなどございません。それにしっかりと狙った上で、ただただアルス様にその態度を直して頂きたく、不肖私めが父君に代わって叱責をしただけございます。」


 気づかないように天井に隠れていたのは、フレッドの兄のアルスだった。どうやら、土属性の魔術を利用して天井に隠れていたらしい。

 

 「この時間は別の部屋で戦史を学んでいるはずの時間ですが、いかがなされましたか?いくら武家の長男とはいえ、学ぶことを嫌がって逃げ出すことなどございますまい?」


 「いやぁ、戦史を学ぶ以前に魔術の修行が遅れているから、ここらで修行でもしようかなと魔術の練習をしていたんだよ。」


 「どんな言い訳をしようとも、嫌がって逃げたのは事実。相応の罰は受けてもらいますぞ、それに魔術の修行にしては随分と元気なご様子でいらっしゃいますな。」


 「嫌だなあ、そんな理由建前に決まってるじゃあないか。もう逃走経路の確認はできているんだ。それじゃあ俺はトンズラさせてもらうとするよ。」


 「お待ちくだされ、逃しませんぞ。さて、フレデリック様、実践の相手はアルス様です。思う存分魔術を使ってくだされ。」


 「そうさせてもらおう。」


 そうはさせまいと兄は少しでも状況を有利にしようと、必死に弟を説得しにかかる。


 「待て弟よ!兄を裏切ろうというのか!ここで兄に対して寛大にも慈悲を見せ、許して逃走の手伝いをするのが弟としてあるべき兄弟愛ではないのか!」


 「聞こえませんな。自分はあくまでも兄の為に兄を正します。」


 

 さっきから兄がぎゃあぎゃあとうるさいが、集中して内にある力をイメージしてみる、するとなんとなく魔力らしきものが自覚でき、操ることができたので、それを籠手の魔法陣に対して送り出す。すると、前方に火の玉ができて、その大きさは自分の身長程の大きさにまで膨れ上がる。熱放射を身体に受けて、今にも燃え出してひまいそうだ。集中が途切れそうになるのを必死に堪えて、火球を形成するイメージを崩さない。


 「うわ!なんでいきなり中級の魔術組み込んでるんだあの籠手、しかもあいつ扱えてやがる……。って、お前も火事を起こす気か!火属性の魔法は危ねーって。」


 兄は狼狽えて逃げようとするが、いつの間にかオルタトリアンが地面を盛り上げてアルスの周囲を囲い、逃げられなくする。そこに初級の水属性の魔術を撃ち込んで脱出を図るが、周囲の土壁はびくともしない。


 「さあ、受け止めなされ兄上!弟から兄への兄弟愛です!」


 と、大きくなった火球をとばすイメージを行い、兄に向かって撃ち出す。火球は綺麗な直線の軌道で兄の下まで飛んでいくと、土壁に触れて爆発を起こす。 

しかし、そこには既に兄の姿はなかった!瞬間!彼は土属性の魔術を使い、地面を掘り進んで脱出していたのだ!そして彼は家から外へ、一心不乱に地面を掘り進む。


 あるすはにげだした。


 「そんな兄弟愛、いらんわい。ふう、この辺が外かな?そろそろ出てみるか。……あ。」


 しかし、まわりこまれてしまった。


 「そう何度も同じ手に引っ掛かるとお思いか、甘いですな。相手の土魔術を利用して自分に対する視界を断ち、水魔術で壁を壊しているように思わせ、その隙に土魔術で掘り進む。確かに良い手ですが、残念でしたな。では、父君の所まで連行させて頂きましょう。」


 と、オルタトリアンはアルスの襟首を掴むと、アルスは見苦しくも喚こうとする。


 「待ってくれ!落ち着いて話し合おう。話し合えばきっとわかり合えるはずだ。だから父さんの所に連れて行くという手段はないことにしよう!なぁ!」


 「問答無用です。では、フレデリック様、先程の部屋の所に戻っていて下され。後ほど魔術の理論について詳しく説明させて頂きますので。それと、先程の魔術は中々のものでしたぞ!」


 フレデリックは相変わらずの兄の態度に呆れながらも、魔術を上手く使いこなすことができ、まずまずといった具合で満足する。ふと兄が引きずられていく様子をちらと見る。必死に逃亡の策を講じているが、全く通用していないようだ。弟はゆっくりとした足取りで元いた部屋へと戻っていった。



 

 


 

 


 


 


 

 


 



お読みいただきありがとうございました。



次の投稿は10月2日に間に合わせるように頑張ります。


2014/10/17 修正

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