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2回目の呼び出し

 拝啓 お母様

 雲の上でいかがお過ごしでしょうか。こちらは再び夏がやって来て、連日の暑さを耐え忍んでハイハイをこなす毎日であります。そして私、アルス・フリーデンはこの世に生を受けてより健全にここまで育ちました。これもひとえに私を二回目に産んで下さった、お母様のおかげです。産褥熱とやらでお亡くなりになられたと聞きました。今回は、命日ということで、こうして思いを馳せる次第です。

 さて、ここで新たにお伝えしたいのですが、私に弟ができるそうで、家族、周囲の配下諸共がそわそわする毎日です。お母様はそのことにお怒りになられますでしょうか、第二夫人に夫を盗られた、と。それともフリーデン家の繁栄を願ってお喜びになられますでしょうか、いずれにせよ、私には雲の上にいらっしゃるお母様のお気持ちを十二分に推し量ることはできません。

 名残惜しいですが、そろそろ、お暇させていただきます。お母様の天上での安寧を願いつつ、天私とお家の繁栄を見守って頂きたく存じます。

                     敬具


 あ、これは実際に書いた手紙とかとかそういうものではなくただの脳内妄想なのでご心配なく。手紙形式で綴った近況報告。文法とかあってるかはしらないが


 さて、ここでは再び謎の部屋で、多田燿人の姿に戻り、


 「久しぶりだね。」

 

 見た目は大人、頭脳は子供の自称妖精さんのご登場である。俺が再び生まれてより二度目の精神世界への来訪だ。


 「毎度毎度失礼だなぁ。」

 「それもあなたの態度が原因じゃあないですか……。」

 「タメでいいよ、タメで。」

 

 前回と同じく飄々とした態度で出迎えるのは、さっきも話したが、自称精霊ことシグマ。相も変わらず冴えないおっさんの姿である。今回はポロシャツにジーパン、それにヘッドホン着用という出で立ちだ。その服装には色々と突っ込みたいが先に重要な問題を片づけておこう。

 「そんなことより二年放置ってどういうことですか!?音沙汰もなしに。それに、前回帰ったら三日間ずっと寝てたって言う状況でしたし。」


 『タメでいいと言っただろう。』


 こいつ、直接脳内に…!


 「脳内会話はやめましょう、現実世界の翻訳会話でお腹いっぱいです。それに、精神年齢は置いといても、年齢としては大人ですし。脳内に直接話しかけられるくらい一心同体なら、話す必要なく分かってるんじゃあないですか?」

 「一心同体だから頭の中では呼び捨てだってわかってるんだけど?」

 「それを言ったらお終いなんですけどね。」 

 「堅苦しいのは抜きで行こうよ。対等だよ対等。」

 

 なんでそんなにこだわるかは知らないけど、取り敢えず質問に移らないと。


 「前回聞きそびれたことが沢山あるんだが。だが、それよか、前回の丸二日寝てたってのはなんなんだ?」

 「だよね。それ、気になるよね。で、魔力についてなんだけど。」

 「聞いといて無関係の話か……。」       

 「まあ、一応関連性が0って訳じゃあないから聞いといてよ。」

 「はぁ……。」


 前回も思ったが、このマイペースっぷりにはかなり振り回される。これからも振り回されるのだろう。はぁ……いや、こういう人に対面したことが無いわけではないけども。


 「で、君は魔法ってどんなものだと思う?」

 「魔法……。何もない空間から火とか水とかがとび出たりとか、何かを召喚するとか、かべのなかに送られるとか。」

 「最後のはともかく、大体そんなイメージだろうね。まぁ、魔法の性質や使い方については君もそのうち教えてもらうだろうけどさ。でも、ここで語るのは魔力の本質だ。」

 「本質?」

 「簡単に言うと、魔力は精霊が人間に与える対価だ。」

 「対価って言うことは、何かしらを精霊に差し出していることになるんだが……。」

 「そうだね、まずは精霊という存在について語らないといけないな。長くなるけど聞いておいてよ。いきなりだけど、精霊というものは、君が現在生きている世界には本来はいないものなんだ。」

 「???」

 

 いきなり訳のわからない事を言われた。いや、訳がわからないからこそこれから説明されるのだけれども。


 「まあ聞いてよ、僕らが元々いる世界は、丁度この半透明の壁の向こうみたいなどろどろとしていて混沌としているんだ。君の世界の物理法則も通用しないよ。その中では、不思議な感覚なんだけど、誤解されるのを覚悟して言えば、『一にして全、全にして一』というようなものになる。その中では、精霊個人が形作られることなく、また、精霊同士が混ざり合っているのに互いを意識できる。いわばその世界は『精霊の集合体』なんだ。そして、」

 「ちょっと、待って!全然整理がつかない!」

 

 全体なのに、一つ?つまりは、人間で言うと、細胞の一つ一つが自我を持っているみたいなことか?想像してみるとなんか気持ち悪いな……。


 「君の言うところの細胞である僕に対して、お褒めの言葉をどうも。まぁ、大体そんな解釈でいいけど、こればっかりは実際に体験しないとわからないからね。取り敢えず聞き流してていいよ。」

 「随分アバウトな……。」

 「まあいいじゃないか。だが君にとってはここからが重要だ。僕等はこの『精霊の集合体』から、一個体の『精霊』として切り取られる。そして、契約を強制されるんだ。」

 「強制される?誰に?」

 「そこは、それほど重要な点ではないだろう。そこに疑問を抱くこともわかるけど。」


 重要なこと……契約の理由?いや、違う。自分にとって目下の問題である契約の対価か。

 

 「そう、ここで重要なのが魔力の対価の話だ。」

 「勿体ぶらずにさっさと教えて欲しいのだけど。」

 「そうだね、前回みたいにならないように手短に話そう。既に僕はかなりの恩恵を貰っているんだ。僕らは、君ら人間に魔力を提供する対価として、人格を成す栄養素となるものを君達と共有している。」

 「それは……記憶、か?」

 「イグザクトリー。あ、記憶が対価と言っても、記憶を食べたりしてる訳じゃあないからね。」

 「なんだ。じゃあこちらには何の問題もないじゃないか。なら気にすることはないんじゃあないの?」

 「前に話したよね。記憶を保存するのは肉体だって。君が死んだら、人格の元になる魂はどこかに行くだろう。だけど、肉体こと記憶は、僕らが貰っていくんだ。」


 つまりは、肉体が死後に保存されないで、死体が残らないってことか、ファンタジーで光となって消えていく。ってのがあるけど、こんな感じのだったらあまり嬉しくないな。でも、死体が残らないってだけならそれほど警告するものでもない気がするが……。


 「忘れたの?記憶が対価だっていうことを。精霊の性格やら何やらで魔力と記憶のレートが異なるだろうけど、明らかにこちらにとって利益がなくなった場合、精霊は記憶を喰い散らかして、さっさとおサラバしちゃうってことだよ。まぁ、一度に使うことのできる魔力が精霊によって違ってきたりとか、色々と制限規約がちゃんとあるから、そうそう精霊に食べられたりはしないだろうけどね。」

 

 ……。大カミングアウトじゃないか、そんなの。ということは、この世界の人間は常にそんなリスクを負いながら魔力を使っている訳だ。冗談じゃない。そんなリスクを前提とした力なんて、


 「でも、それほどデメリットだけがでかい訳じゃあないよ、魔法というものは、僕等の本来いる物理法則の通じない世界から非日常を引っ張ってこれるんだ。、君達にとって悪くない話のはずだよ。君もそういうのに憧れた口だろう。精霊との契約はあくまでも対等だ。」


 確かに、そういったものに憧れるのは事実だ。そういった非日常は生きていくにあたってものすごく面白いものになるだろう。だが……


 「君は、この世の中を楽しく生きたいと願った筈だ。その為にも魔力はこれからの君にとって必要なものになるんじゃあないかな?」


 無知は幸福なんて言うが、このことを知らずに魔力を使うことは果たして幸福だろうか。この世界の魔法についてそれほど詳しく知らないけれど。


 「まぁ、なんにも差し出さずに力を得よう、なんてのもあるけれど、それが叶うことなんて殆どないよ。その辺よくよく考えて判断することだね。まぁ、魔法についてはその内教えてもらえるだろうから、そのリスクとメリットを吟味することだ。多田燿人君。この時間と空間の概念を無視した空間に、普段僕からは干渉できない君を呼び出したりもできることだしね。」

 「分かった。それと、シグマの格好がそんなラフな格好じゃなかったらもう少しシリアスな場面に見えたし、格好良かったと思うんだけどな。」

 「おっと、やっとツッコミが入ったよ。ずっとツッコミ待ちだったのに。思考の端にもなかったから、触れてくれないのかと思ったよ。シリアスっぽいのは僕も君も柄じゃあないしね。」

 「待ってたのかい……。」


 さて、今さっき言われたことは、とてつもなく重大な事だな。これからファンタジー世界を生きていく為にも、気をつけなければいけない事項だ。


 「うん、思考にふけるのもいいけど、また二日間寝ている、なんてことになっちゃうよ。今回は話はここまでだ。考える

なら向こうで考えるといい。そろそろ送還しないとね。」

 

 そう言ってシグマは床下のカーペットを取り払い、前に見た魔法陣(ペンタクル)が姿を表す。

 今回は前よりも早くに帰れるそうだ。前回のようなことは御免だからな。また周囲に迷惑をかけるようなことはしたくない。 


 「さて、準備は整った。前みたいにこの魔法陣の上に立って。次は二年後ぐらい後に呼び出すから。」


 シグマに促されて再び魔法陣の上に立つが、ここでふと疑問が生じたので尋ねてみる。

 「なあ、シグマ、前に呼び出された時と、今回呼び出したときに時間の差がかなりあったけど、なんでそんなに時間を置くんだ?」

 「寿命とかが減る。」

 「おい!ちょっと!なんなの今の発言は!」

 「冗談、と言いたいところだけれども、これは本当だ。事前に説明しておくべきだったね。ここに意識を呼び出すのは、君と君の世界との繋がりが薄れてしまうからね。」

 「ん?ここは精神世界じゃなかったのか?」

 「正確には、君の世界と精霊の世界の中間にある世界だ。普段は君たちと意識を共有して過ごすんだけど、この世界は曖昧でね。僕たちのでたらめな世界の力、つまりは魔力を使うことで契約した相手同士を呼び出したりもできる。」

 「でもこっちにはリスクしかないじゃないか。」

 「そんなことはないよ、これも後々わかるだろうけど、君にとって必ずしも悪いことじゃない。それに、減る寿命も一年程度だしね。じゃあ、疑問も解決したことだし送還するよ。」

 

 と、シグマは魔法陣に手を置いたと思ったら、魔法陣がキラキラと光を放つ。


 一年って結構あるじゃん……なんていう感想を抱いたものの、また意識が遠のいてきて、体が引っ張られる。なんか嫌な感覚だ。けど、そうしないと帰れないししょうがない。取り敢えず、じゃあな。と手を振ってきたので手を振り返すと、そこで意識が途切れた。

 

 次呼ばれたら、絶対にこっぴどく文句ぶちまけてやろう

 


 

 

 

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