呼び出し
さてと、俺は赤ん坊として眠りについたはずなのだが………。今俺が見ている状況がよしんば夢だったとしても異様な光景だった。
俺が目を覚まして、最初に目に入ったのはこれ。
いわゆる妖精の羽が生えた冴えないおっさんのような人(?)が寝っ転がってテレビを見ている。
???、何に対して突っ込めばいいんだこれは?なんで暗転して訳わからん状態になるのが何度も続くんだよ。
…取り敢えず、あのモンスターは後回しだ。身近な疑問点から挙げていこう。
まずは、これが夢であるか、ということについてだが、夢を見ているにしては感覚がリアルすぎる。夢を見ているのにこんな風に思考する事もそうないし、何より座っている感覚がしっかりとある。こんな夢は経験したことがない。
次に、この空間だ。見た感じは白く塗られた壁のように見えるが、半透明であり、そこから微妙に透けて見えるのは、名状しがたい色の粘っこい液体が流れている様子だ。ああ!窓に、窓に!……窓は半透明の壁と何ら変わらなかったが。やってみたかっただけだ。そしてこの部屋の中には、およそこの空間に不釣り合いなちゃぶ台と座布団、そしてアナログなテレビが青いカーペットの上に置かれており、ドキュメンタリーのような番組を映している…。
最後に、疑問に思ったのは、今こうして周囲を見渡している自分の姿は、転生前の俺、多田燿人のものであることだ。俺は確かに転生したはずが、この姿をしている。いったいぜんたいどういう事なんだ。夢オチか。でもその後に麒麟が来てくれるかもしれない。
そんな風に現状の確認をしていると、どうやら向こうはこちらに気づいたようで、体を起こして
「お、やっと来た。随分待ったよ」
割と若い印象を受ける声で話しかけられた。だが、顔は割と想像通りの無精髭を生やした浅黒い肌のおっさん。おっさんが羽を生やすとか誰得だよ…。見た目のインパクトから意図的に無視していたが、現状を確認する為にはいつまでもそうしている訳にはいかないので対応する。
「えっと、すいません、ここはどこか尋ねても?」
「いいよ。ここは世にも有名な精神と時の部…「ふざけるのは抜きで」ノリが悪いなあ。取り敢えず夢オチではないって事は確かだよ。ここはまあ、言うなれば僕と君との精神世界?」
「精神世界?」
「そうだね。正確に言えば今君が所有している肉体の中にある精神を、僕と君とが共有しているのを 視覚的にしているだけなんだけどね」
うーん、電波なこと言ってる不審者と捉えることもできるが、不思議な事に多く立ち会っている以上、そうそう否定する事も出来ないので取り敢えず相手の言うことは正しい体で進めるとしようか。ん?肉体を共有ってどういうこと?
「それはね、僕が君と契約した精霊だからだよ」
「うわっ!人が考えている時に話しかけて来ないでくれださい!って、契約ってどういうことです?」
「そ、契約だ。君のいた世界とは違って、この世界では、生を受けると同時に精霊と契約するんだ。そうすると、君と僕とは1つになるんだ。薔薇とかの意味じゃあないよ。だから、君の考えていることも大体は分かる。記憶もね。というわけで、改めて ドーモ。タダヨート=サン。セイレイデス」
「」
なんか、とんでもないことをカミングアウトされた。これが……妖精だって…。一応妖精っぽい羽のようなもの生えてはいるが、これが…、こんなの子供が見たら泣くぞ。夢壊すどころじゃないぞ。何この幻○殺し…。あ、ルビのせいで隠せてない。
「失礼だなぁ、そこまで言うことないだろう。これが 君の望んだ妖精の姿だよ」
「え!?そんなことあってたまるか!こんなおっさんの風貌をどうして……何かの冗談ですよね……」
「うん、冗談だよ。」
分かった。この人俺の苦手なタイプだ。何が楽しくてこんな精霊と契約しなきゃいけないんだっつー話だよ…。
「ねぇ、君、考えていること筒抜けなの分かってる?」
「ちょっと待って、何で俺の考えが筒抜けであなたの考えが筒抜けなんです!?」
「それはね。俺がただ思いついたことをありのままに喋ってるからだよ。びっくりした?」
「いや、別にどうでも…、じゃあ記憶の方は?」
「さらっと酷いね。それはそこのテレビ使って鑑賞して。まぁ、俺の記憶は長いからまともに見ようとすると、見るのに時間がかかるよ」
「ちなみに総じてでどの位で見終われ」
「八六四一〇〇時間」
「……。って、一〇〇年必要じゃないか!」
「秒換算で三一一〇四〇〇〇〇〇〇秒」
「言い直さないで!」
「ははは、君と話してると楽しい。それに、面白い記憶も持ってるしね」
というか、記憶が一〇〇年分あるってことは、一〇〇歳ってことか?でもここでは、人間換算で考えるのが、おかしいのかもしれない。もう割り切ってしまおう。
「こっちは疲れるし、人の過去を勝手に覗かないでくれよ…。あ、あと他に幾つか質問してもいいか?」
「いいよ。タメ口になったね」
「まあ、そんな風に話されたらそうなるよ…。じゃあ貴方の名前は?」
「おっと、名前を言い忘れてたか。ごめんね。僕はシグマ。と言っても機械に変なウイルス撒き散らして暴走するハゲじゃあないからね」
「パロネタはもういいよ…。俺の記憶を観たのは分かったからさ。じゃあ、シグマ、精霊ってのは一体何なんだ」
「精霊ってのはね、一言で言うと、肉体に魔力を貸し与える存在だね。詳しい話は面倒だから記憶の中から探して」
「あの一〇〇時間の中から探すのはちょっと……。というか、この世界には魔力なんてものがあるのか。まぁ、今はあと2つの質問を優先するとして、じゃあシグマ、転生前に群集から聴こえた声はシグマのもの?」
「ううん、違うね。もっと別の、精霊と魂とを引き合わせる存在だと思う」
「そうか、別のやつか。そういう奴もいるんだな。じゃあ、あと」
「戻れないね」
「そこは喋らせてよ。……はぁ。元の世界には戻れない、か。」
「悪いね、こればっかりは精霊にはどうすることもできないね。代わりに、翻訳は勝手にやらせて貰ったよ」
「そういう訳だったのか。なら、引き続き頼んでもいいか?あと、精霊には、って言うことは他の存在にはできる可能性はあるのか?」
「前者については問題ないけど、これからは必要になると思うから、字幕版にしておくね。まあ、字幕とは言っても音と同時に内容がわかるようになるだけだけど。それと、後者についてだけど、少なくとも僕はそういうのを聞いたことがない。他の存在に一抹の望みをかけるのもいいけど、あまり期待しない方が良い。」
「分かった。ありがとう。帰ることには、あまり期待しないでおくよ。じゃあ最後に、俺の肉体はどこに行ったんだ」
「そうだね…それは、データになった。というのが相応しいかな」
「データ?」
「うん、記憶データだ。肉体は記憶を保存するものでもあるからね。これは他にはなかなか無い症例だよ。肉体を持ったまま転生するなんて、これは今回の君の人生における大きなアドバンテージだね」
「ん?おっと…時間だ。そろそろ君は帰らないと」
「時間?ここに居られる時間も限られているのか」
「うん、さすがに精神世界だからっていくらでも居られる訳じゃない」
「で、帰るにはどうしたら良い?扉とかそういった物はどこにも見当たらないけど」
「簡単さ、じゃあ返すよ。ちょいとそこどけてくれるかな」
そう言った後、シグマは、よっこらせ、とちゃぶ台をどけて、カーペットをひっくり返す。すると、下にいわゆる半径一メートルほどの魔法陣が書いてあった。円が何重にもあり、中央には五角形、円と円との間には何かの文字が書かれている。
「この上に立って貰えるかな。そうすれば帰れる。またここに来るときは、必要になったら僕が呼ぶから」
と言うと、シグマは魔法陣に手を触れる。すると、何やらシグマの手からキラキラと何か色のついたオーラのようなものが出てきて、魔法陣を包み込む。そうして、オーラのようなものは魔法陣に吸い込まれて、魔法陣が光りだした。
え!?俺の意思云々で来れないのか?という疑問は伝える事が出来ずに、俺の体が光の粒になっていく。そして遠のく意識の中、シグマが「じゃあね〜」と手を振っている様子を、黙って眺めていく他にできることがなかった。
言いたいことは前回と同じです。加えて、読んで頂き感謝