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少壮有為の邁進者 前編

オルタトリアンが初陣を飾ったのは十四年ほど前、彼が十四歳頃のことだ。


 彼は若い頃から武術への造詣が深く、また学問においても優秀な成績をだした彼は、同年代の嫉妬と羨望の眼差しを受けながらも将来を期待されていた。

 彼は八から十一の終わりまで王立の学校に通っていたが、急な出世したをした父親に呼び出されてと帰還し、地方官の息子、リュリークに見出されて彼に使えることとなった。

 そして、その愚直な性格がリュリークに気に入られて暫くしてより、彼の、ひいてはフリーデン家の将来の為に経験を積ませなければ、と言うことで少数ながらも部隊を率いての初陣を命じられて、現在は砦へ向けての行軍の途中である。


 林道を行く三百人程度の行軍の先頭には、小柄で容姿端麗な金髪の色白な少年が一人と、大柄な体格でありながらではあるものの、童顔で灰色の髪の少年が一人。

 言わずもがなオルタトリアンとムートである。

 驚くなかれ彼らは同い年である。ムートはオルタトリアンと同じく、父親が出世した為に、王立学校から呼び戻されて今に至る。  

 もっとも、彼とオルタトリアンの父親では側近と将官という、大きな立場の違いと、能力の違いがあったが。


 両方とも初陣であるのに、その面持ちは全く違う。片方は険しい顔つきだが、心は全く動じていない。もう片方は表面的には無表情だが、心は恋に揺れ動く乙女のそれより揺れ動いている。緊張に表情が強張るのも無理はない。 

 ムートは心を落ち着かせようと、王立の学校の同胞へと話しかけてみると


 「なあオルト?」

 「公務中だ」

 「兵尉殿?」

 「なんだ?ムート副官?連絡の早馬でも来たのか?」


 いつでも変わらないオルタトリアンに少し心が解れたムートは、改めて自分が彼の隣にいるのに疑問を呈する。

 

 「何で俺がここにいるのかそろそろ聞いていいか?」

 「私が副官を務めるようにと命じたからだ」

 「そうじゃなくて、何で俺を選んだ?俺九位だぞ?お前七位だぞ。横にいるのはもっと偉い人が横にいるべきだろ」


 実際、軍を率いる将官につく副官は、一定以上の地位かつ、位の近しい者、あるいは経験のある者が務める。九位という低い地位で、なお且つ十三の将と同い年であるなど、異例中の異例だ。


 「務める能力があると認めているからだ、それと敬語で話せ」

 「片や神童と呼ばれた男、片や戦闘以外はまるで駄目な俺じゃあ釣り合わないと思わないか?それにお前は大抜擢での初陣だってのに全く動じてないし。俺の心は揺れるスライムさながらだぜ。」


 ヘヘっと笑うムートにオルタトリアンはため息をつくと、彼に向かって固い表情筋から露骨に嫌な表情を作ると


 「それは愚痴か?」

 「いえ、兵尉殿の人選に対する疑問を、副官として追及致します。これでいいか?」

 「俺も緊張がない訳ではないぞ。だが、お前はやればできる奴だ。魔術以外の才能も俺と同程度にある。ただ開花していないだけだ」

 「いや、照れるなー神童と呼ばれたお前にそう言ってもらえるなんて、ガハハ」

 

 もう既にムートにとっても緊張はどこ吹く風のようだ。いつものマイペースが少しずつ前面に出つつある。オルタトリアンは少し肩をすくめると


 「お前のそういう所が駄目なんだ。そこを直せ。それともお前は王立学校に戻りたいのか?」

 「御免だね。王国に万歳(マンセー)!はもううんざりだ。で、お前の人選の本当の意図はなんだ?」


 この態度である。これであれば、たとい優秀であっても、上から見ればはた迷惑なだけだろう。そんな友の様子に若干呆れ気味ながらもオルタトリアンは応える。


 「お前はまた……。まぁ、お前が納得できるなら、他の奴では反りが合わないからと言っておこう。」

 「出る杭は打たれる、ってやつか。人気者はー、辛い辛い。」


 若くして出世する者には、どうしても嫉妬や侮蔑の念が付きまとうのはいつの時代でも同じことだろう。


 「もういい、陽が傾いてきたから野営の準備をするぞ。話は後だ。」


 少し開けたところに出たので、オルタトリアンは進軍を止め、兵士達に各々野営の準備をするように命じる。

 野営は今日で三日目で、本城から出発してより四日ほど経つ。

 今回の軍派遣の目的も、何の因果か砦周辺の魔物の討伐である。帝国の侵攻に備えて不確定要素を取り除こうという目的での目的で派遣された。

 まだこの時は帝国の攻撃も活発なものであったので、散発的な小競り合いが国境付近で繰り返されており、周辺の村落もどこか重苦しい雰囲気が流れていた。

 

 定期的な会議も終わり、すっかり陽も落ちると、することのなくなったので、オルタトリアンは焚き火の側で木剣を振るっていた。

 するとそこに、例のごとく野営の準備の指揮を完全に終えたムートがやってきた。

 そこらの小石をどけると、オルタトリアンの近くに座り込み、話しかける。一緒に木剣を振ろうとはしない。


 「おぅ、オルト。ご苦労様だな。っつか、にしても今日はなんか、こう……、サツバツ!って感じだったよな。道中がさ」

 「確かに、道中でも魔物が多く見受けられたな。襲ってこそ来なかったが殺気立っていた。あれは集団で土魔術に類似したものを使ってくる魔物だったか?」

 「いや、そうじゃなくてさ、全体的な雰囲気がだよ。人も土地も魔物も。」

 「そうだな……土地がというのは解せないが概ね同意しよう。」


 道行く人や生き物が殺気立っているのは、国境付近であるというのもあるが、それを差し引いても何処かしらおかしい。度重なる定期的な戦によるものだろうか。

 ムートは自分から話し出したものの、暗い話題を出すと、再び緊張を思い出してしまうので話を切り替える。


 「で、目処は立ってるのか?そうそう大きいやつはいないっつっても魔物だぜ。戦い慣れてねーだろ。」

 「兵さえ付いてくればあとは何も問題はないな。」

 「大問題じゃねーか!」

 「仕方がない。若輩に率いられるのがよほど気に入らないのだろう。特に年寄り勢は露骨すぎる。」

 「しょうがねーだろう、年寄りには年寄りのプライドと面子ってもんがあるんだ。慮ってやろうぜ。年寄りの知恵も馬鹿にしちゃいけねーし」

 「それはわかっているさ。全部が全部そういう訳ではない。ただ年寄りなら長く生きている分、功名心を律し、経験を活かして若者を立てる位してほしいものだ」

 「お前、それでここにいるんだからそう欲張んなよ」

 「お前も年寄りの味方か?」

 「さあな。で、それはさておきどうするんだ?兵士達を動かしたいんだろ」


 聞くと、オルタトリアンは頭に少し考え込む様子を見せてからムートの方を見ると小声で呟く。


 「まあ、方策がないわけではない。それに、お前を副官に任じたのもそこに由来するところがある」

 「で?その方策って?」

 「おお、見ろ。あの草はマカタバミではないか。冬の寒さが厳しい北の地域でも、生きることができるのか。魔物とは凄いものだな。」

 「まぁ今年は暖冬だったのもあるしな。って、誤魔化さないで答えろよおい」

 「今言ってもいいが、まだその策を講じるための要素がまだ欠けているんだ。少し待て。」

 「ちゃんと作戦があるんだろうなぁ?」

 「安心しろ、嘘はついてない」

 「ならいいけどよ」  

 「分かったらさっさと寝たほうがいいぞ。明日も早い。昼前には到着出来るよう急がせるぞ」

 「へいへい、そうさせてもらうよ。お前も程々にな」


 そう言ったが、何やら兵士達のいる方が、にわかに騒がしさを増しているのに気づく、何かが入り込んできたようだ。それは段々とこちらに向かってきている。


 「ん?なんだ?」


 近っいてくると、その正体がわかった。伝令の早馬だ。


 「伝令!伝令!」


 オルタトリアンは早馬の前に出て、馬の足を止めさせる。すると馬上の若い兵士は、相手が年若い少年であるのを見て訝しむ。

 

 「私がこの軍を預っている、十官法、七位、兵尉のオルタトリアンである。話を、聞こう」


 すると、兵士は馬を降りて跪いた後、自分の名前と階級をのべて伝令を伝える。

 

 「十官法、八位、ユング・ヘルメロイ!砦より、伝令を伝えに参りました!砦の守将、ラー卜・アオスガングよりの伝令!帝国からの進軍の兆しありとの報告!至急、砦の軍勢に合流されたし!」


 「相分かった。総勢三百ほどの小勢だが、ないよりは良いだろう、皆!聞いたか!野営の準備は終わりだ!夜を徹して砦に向かう!進軍の準備を急げ!」


 「して、お前はどうする。これから近くの城に援軍を頼みに行くのか?」

 

 「は、既に砦から他の城へも伝令を送っております。私はこの軍勢に今の状況をお伝えせよとの命を授かっておりますので、私はここに従軍致します」


 「準備が大体は整ったぞ!進軍の号令を出してくれ!」

 「ん?そうか、すまないが状況説明は進軍しながらで頼む。隣に付いてこい」

 「承知致しました」

 「では、皆行くぞ!進軍開始!」


 と言うやいなや、驚くべき速さで馬に飛び乗ると砦の方向へ飛び出し、兵士達が付いこれなくともお構いなしという具合でどんどん道を突き進んで行く。

 事実兵士達でその速度に付いてきている者は少数で、遅れている者達を が後方で必死に追いかけるように仕向けている。

 そして、先頭では馬を並べた二人の、傍から見れば喧嘩の怒鳴り声のようなの会話が繰り広げられている。

 

 「では、説明を頼む!」


 馬を相当な速度で走らせながらなので、お互いの声が聞き取りづらいためである。


 「はっ!帝国の斥候を捕らえたところ、敵の本体の数は不明とのこと!ですが、こちらが人を遣わして偵察に向かわせたところ、敵の先遣隊と思われる部隊を発見し、兵数を三千ほど確認したとの報告が来ました!敵軍の到着は三日後の昼頃と思われます。敵の本体に関しましては、目下確認を行っている途中です!」


 「それで、砦の兵力は!?また、近くの城や砦は!?」


 「砦の兵力は一千程です!最寄りの砦は一里北東に向かったところに一つ、二里南のところに二つ、それぞれ三百の兵がおりますをまた最寄りの三里離れた南東の城には、二千五百の兵力が控えており、加えて、五里離れた北の城に向かえば千六百の兵力!それら全てに早馬を飛ばしております」



 「心許ないな……。砦の蓄えの方は大丈夫なのか?」


 「いつもは、決まって雪の溶けきった夏の初めに敵がくるので、麦の搬入が終わっておらず兵糧はもって一月というところでしょう!ですが、武具の方は問題ありません!」


 その返答にオルタトリアンは小声で毒づくが、後ろの方から何者かからの声が聴こえる。

 

  「俺からも聞いていいか!?」


 声のした後方をちらと見遣ると、ムートが馬を全速力で走らせていた。やっとの事で後方の兵をまとめ上げて先頭へと追いついてきたようだ。


 「なんだ!?言ってみろ!」

 「事前に進軍の兆候は読み取れなかったのか!?国境争いをしているとは言っても人の出入りくらいあるだろう!噂とかは聞かなかったのかよ!?」

 「申し訳ありません!どうやら電撃作戦だったようで、民衆達からも、そう言った類の話は聞きませんでした!」

 「間者からもか!?」

 「間者からもです!」

 「なんだそりゃ!?」


  ムートは顔を(しか)めて問い返す。確かに、万単位の兵力を動かす電撃作戦など、そう上手く行かないだろう。真偽の程はわからない。二の句を継ごうとしただがそれを遮ってオルタトリアンが疑問をぶつける。


 「その確認は砦についてからだ!それより次だ!率直に聞こう!援軍の到着までその兵力差で何日持ち堪えられる!?」


 「はい、あそこは元々、旧戦争時代に建てられた物を改修して使ったもので、砦の堅固さは折り紙付きです。いかに兵力差があろうとも、十日は持ち堪えられるでしょう。」


 「わかった。もういい。急ぐぞ。」


 ただでさえ兵士達が付いてくるのに精一杯な速度を更に上げる。小さな体躯に似合わず先頭を切って疾走するその姿は、十分に貫禄のある将と言っても過言ではないだろう。


 「ちょっ、おい!速いって!その速さじゃ皆付いてこれねーだろうが!」

 「既に勝機が見えている以上、考える時間は無用だ!さっさと付いてこい!」

 「勝機ってどういうことだ?」


 脇目もふらずに全力で馬を走らせている彼が、応える様子のないことを悟ると、再び後ろに行って兵を建て直さなきゃいけない、と、ムートは沈痛な面持ちで馬を止めるのだった。

 




 

こう、何というか、後々辻褄合わせに細かいところを変えるのは許して下さい……はい。

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