立ち会い
季節は春、未だ寒さが残り、草花がやっと芽吹き始めた初春。とある大陸のとある場所で、一人の男の大音声が、乾いた空気にかっと響く。
「始め!」
言葉と共に木剣での打ち合いが始まった。どうやら打ち合いの稽古をしているようだ。片や一七〇サンチの身長、髪にブラウンの眼の少年、もう一方は一五六サンチの身長と顔に幼さの残る出で立ち、栗毛の髪に蒼い瞳の少年、木剣を振る二人は既に十数合と木剣を重ねており、その太刀筋はその若さの割になかなかのものだ。しかしこの勝負の審判であり、2人の守り役である男はその様子に溜息をついていた。その溜息の理由は明らかだ。なぜなら、
「ちょ、待って!ストップ!右眼に虫らしきものが!」
情けない声と挙動に、背の低い方は振り下ろす木剣をピタッと止める。
「兄上、貴方は今年で齢十六、虫ごときで情けない姿を見せるなど…。家の長男たる自覚を持ってください!」
「さすがは俺の弟だ、齢十三にしてしっかり武家の誇り自覚を持って、偉いぞ」
「さらっと自分を棚に上げて非難を逸らさないで下さい!剣も言葉も受け流すのばかり上手くてはしょうがないですよ」
「いやぁ、悪い悪い……」
ご覧の通りの兄の気性である。学問や武芸の習得は上々であるが、抜けたところが多く、その気質から武家の長男としては心もとない。弟を見習って欲しい……。
「アルス様、フレデリック様、手を休めないで打ち合いに集中して下され。稽古の途中ですぞ」
オルタトリアンはそんな事を考えながら稽古を続けることを促す。
「しかしオルタトリアン、兄上の態d「隙ありっ!」うわっ!痛つつ…汚いですぞ兄上!」
兄は弟の話の途中で木剣で突きを繰り出したのだ。それを紙一重に避けるフレデリック。
「油断する方が悪いぞフレッド、戦場では汚いなんて言葉も言ってられなっ「それを兄上が言うか!」うおッ!」
「どうかしましたか兄上、戦場ではそんな事を言っては言ってられないのではないのですか?」
と、仕返しに不意打ちを兄に浴びせた弟。受け流すのには辛うじて成功したようで、にやりと笑うと
「やってくれたじゃないか弟よ、ならこれならどうだ!食らえ、砂かけ!」
と、足下の土を蹴り上げ器用にも弟の目に直撃させる。
「ぎゃあぁぁ!目が!目がぁー!許さんぞ兄上ーー!」
はぁーー。と2人の様子を見ながら2度目の溜息をつく。そこそこ優秀だが態度に問題がある兄アルス、生真面目で負けず嫌いの気が強い弟フレデリック、何だかんだで仲の良い兄弟だが、兄に問題がありすぎる…あの兄が少しでも真面目になってくれれば、と切実に願うオルタトリアンだった。
この兄弟のいる世界は、俗に言う、剣と魔法の世界。とある王国のとある武家、フリーデン家に生まれた転生した兄アルスと、生真面目な弟フレッドの2人の物語。
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