第一話:創られた神
現在の社会の現状について、です。
「なんで、俺、選ばれたんですか?」
ハヤテは問いかけた。
流れ行く景色を見送りながら顔を見ず入谷にそう言った、車内のことだった。
本部に向かうまでに、それなりの距離があるようだ。
タクシーを拾って三時間、未だ、それらしきものは見えない。
「俺は普通の人間です。特別な何かを持ってるわけでもないんです」
ハヤテはチラリと窓ガラスに映った入谷の顔を見ようとしたが、自分が邪魔で見えない。
入谷はわずかに微笑むと、
「違うわ。あなたは確実に、特別な力を持っている。世界中の誰よりもね」
そのことは、確信していた。十五年前のその日から、とうに知っていたことだった。
ハヤテは誰よりも特別なものを宿している。他の選ばれた五人よりも、さらに。
だがしかし、もちろんそんなものの存在をハヤテ自身が知るはずもなかった。これまで生きてきて、特別奇怪な現象に巻き込まれたりもしなければ、特別奇怪な生物が現れもしなかったのだ。さらに言うと、「天使」に狙われたこともなかった。
だから、まさか自分が神とは思わなかった。
世界は、存続の危機に晒されていた。
十五年前のある出来事をきっかけに、「天使」という未確認生命体が活発に人間たちに加害するようになったのだった。
当時、ある研究者によって“神の御魂”の存在が証明された。そして同時に、人間は“神の御魂”を手にすることに成功したのだ。
それが、罪の始まりだった。
人間は、神の実体化を願った。それ故に、ある方法を研究者たちは激しい討論の末導き出すことに成功した。
―ドール憑依計画―
その計画は直ちに実行された。“魂無きいれもの”、「ドール」という、人間と姿が酷似した生命体を作り出しその身体に御魂を憑依させたのだ。そして人々は、“世界で最初に出版された書物”である聖書から、最初のドールを「アダム」とした。
人間は、神の姿をもとに創造されたものとされている。ただし、人間が完全の姿になるには「アダム」だけでは不可能だった。だから人々は、二番目の人間「イヴ」を創ることを願った。
人間は、神になりたかったのだ。
創造責任者は言った。
「この子は神だが、これから人間になる。だから人間の名前が必要だ」
彼は若くして優秀な、日本人研究者だった。御魂の存在を証明したのも彼だった。
だから神は日本に生きることとなった。
彼は言った。
「神の名は“杉村疾風”。この子には日本で、普通に生活してもらいたいと思っている。しかし残念なことに、その生活に私が混ざることはないだろう」
彼の名は杉村雪人。創造されたドールの容姿は彼がベースとなり、よく似ている。まるで親子のようだった。
人々は尋ねた。
なぜ、神とともに生活しないのか?
杉村はその整った精悍な顔で、笑顔をつくった。ジョークを言うかのように、悪戯っぽく。
「神は人の子ではないからな。みなさん、“イヴ創造計画”は任せましたよ」
その言葉を最後に彼はこの世を去った。彼の概念をそのままデータ化しインプットさせた機密プログラム「MARIA]を残して。
“神”杉村疾風はこうして世界に誕生した。そしてそれ以降、人間の起こしたこの罪によって「天使」が人々を襲った。
MARIAの概念をベースに、人々は「天使」に対抗した。神がこの世に誕生して以来、その御魂を狙って襲撃してくるそうだった。
人々はこう検討した。
天使とは、人間と同じく神になりたがっている存在である。それ故にそれらは神を狙い、また神の姿を模られた人間の姿をも、手に入れようとしている。
アダム創造後、人々はイヴの創造に成功した。そしてさらに、神の力が杉村疾風だけにあるわけではない、ということを発見した。
神がドールに憑依させられる際に制御しきれない力が体内から溢れ出し、その持ち主をもとめて漂ったようである。持ち主は杉村疾風と同年の四人の子供たちと、次いで創造された夜神イヴとなった。彼女たちは今、収集されて本部にいる。
杉村疾風及び神は、体内に入ったことによって一時的に力を失った。よって「天使」に狙われることなく生活を送ることが可能になった。
人々は亡き杉村の言葉を思い出し、本部から杉村疾風をはなしてしばらく普通の生活を送らせることにした。そして杉村疾風は、杉村の遠い親戚である夫婦の元へとあずけられた。
いつかまた覚醒が訪れるその日まで。
これから、登場人物が増えていきますので。
次回もよろしくお願いします。