渥美なつき
ねえ、まつり。
人はね、死んでしまったら終わりなんだよ。そこから先には何もない。未練も後悔も、夢も希望も何もない。ううん、何も感じない。悲しみも喜びも、怒りも憎しみも愛も恋もない。
なんにもないんだよ。
死んで悲しむのは生きてる人だけ。お葬式もお墓も、生きてる人のためにあるものなんだ。
死んだ人はね、どこにも行かないし、どこにもいない。もう『ないもの』なんだよ。
生きてる人の記憶に『思い出』として残るかも知れないけど、それもね、結局は『死んだ人の記憶』であって、死んだ人が宿っているわけじゃない。
残された人を縛るのは逝った人じゃない。すべては自分が縛るもの。『ないもの』は何も縛らない。語らない。残さない。
縛るのも語るのも残すのも全部全部自分自身なんだよ。
だからね。
もう止めようよ。
どこを探しても『ないもの』は見つからないよ。後悔しても報われない。謝ったって意味もない。
あなたが探している答えを与えてくれるものは、いないんだよ。
だからね。
そろそろ前を向こう。
生きてるんだから、生きて行こうよ。
忘れないで。自分を許すのも自分だけだってこと。
さあ、帰ろう。
ここにはあなたの答えはない。誰もいない。笹野さんもいないよ。笹野さんは『ないもの』だから。
うん。ごめんね。最初から信じていなかった。興味があったわけでもない。
だけどね。あなたを連れてくることに意味を見いだしたかった。
無駄だったかな?
無駄でも良いよ。
さあ、帰ろう。
もうここに意味はない。
あったかも知れないけど、今はないんだ。
うん。
わたしはね、笹野さんのこと知ってるよ。噂の本当の意味も。彼女が生前どんな人だったかも。
でもね。やっぱりそれに意味はない。笹野さんはもう『ないもの』だから、ね。
どこにも、いないんだよ。
悲しいね。
生きてるから悲しいね。切ないね。
でも。
生きてるからこそ、前を向こうよ。
ねえ、まつり。
帰ろっか。