足立さん
忘れな草の花言葉は『あなたを忘れない』だってさ。
忘れないよ。忘れるわけないじゃないか。どうやったら忘れることができるの。たとえ十年五十年経ったって、忘れることなんかないよ。うん、忘れないよ。
あたしはね、だから別れを惜しんだりしないんだ。泣いたりしない。するわけないじゃん。だって、忘れないんだもの。
みんなさ、会えないことが寂しいんじゃなくて、本当は会えないから忘れてしまうのが怖いんだよね。だから別れを惜しむのさ。涙を流して悲しむんだ。
でもあたしは忘れないから怖くない。
何も、怖くないよ。
だって友達だもの。忘れるわけないじゃん。忘れるなんておかしいよ。
友達だもの、ね。
ずっとずっと覚えてるよ。だからさ、笑って別れを告げようよ。涙なんか流す必要ないじゃん。
それにさ、ただ行く学校が違うだけだよ。死んでしまうわけじゃない。生きているんだから、いつだって会えるよ。
そりゃさ、死んじゃったら終わりだけど、あたしもあんたもまだ生きてるじゃん。だからたいしたことないよ。
ううん。たとえ死んだって忘れないよ。あたしが死んでもあんたが死んでもね。ちゃあんと覚えてるよ。だって、友達だもの。
え?
なんで忘れな草の話なんかしたのって?
なんでって。だってそこに忘れな草が生えているじゃない。
どこにも、生えてない?
何いってんの、だってそこに生えているじゃない。あんたの足元よ。そうそこ。
生えてない?
うん、生えていないね。
じゃあなんであたしは忘れな草の話なんかしたんだろう。
だってね、だって、忘れな草の話を――。
え、笹野さん?
誰それ?
知らないよ。ううん忘れたわけじゃないよ。そもそも知らない子だよ。知らないんだから忘れたわけじゃないんだよ。
そんなことより忘れな草の話だよ。
話。話。そう忘れな草の――。
あれ、いつの話だろう。
ううん、忘れたわけじゃないよ。あたしは忘れないよ。
でも。
忘れな草を――。そう忘れな草を手に持って。
そう。
「忘れられても仕方ないよね」
そう言ったんだ。
誰がって?
そりゃさ。ええと。
忘れてないよ。忘れるわけないじゃん。
そう。忘れな草を持っていたのは――。
去年。そう去年死んじゃった。
――笹野、さん。
ううん。
忘れていないよ。
忘れるわけないじゃん。
だって。
知らない子だもの。
知らないから。
忘れないよ。