第四章ヒロト②
「おい、ダイスケ、起きてんだろ? 起きてないならウソだからな」
留守番電話に切り替わった携帯に向かってヒロトは自棄気味にそう告げる。
「なんだよ」
「いるなら早く出ろよ」
「こっちだって色々忙しいんだよ」
普段穏やかなダイスケが少し声を荒げて、途端にヒロトは申し訳ない気持ちになる。
「悪かったよ。勉強頑張れよ。あと、よいお年を」
「なんだよ、それだけ?」
「それだけって、気を使ってすぐに切ってやろうとしたのに」
憤って言ったが、まじめに勉強を頑張っているダイスケを想像すると、ヒロトはあまり凄めなかった。
「勉強、はかどってるか」
「まあ、ぼちぼちだよ」
「もうすぐ12時だぞ」
「そうか」
「気にせず勉強か?」
「恐らくそうだろうね」
「じゃあ、気づいたときには年を越しているって訳か」
「まあ、そうだろうね」
ダイスケはいつも、揺るぎない答えを出す。
幼少時代はひ弱だった彼が、いつからそんなに強くなったのか。
ヒロトはそれを、ダイスケが夢を持ったときだと知っていた。
「いいなお前は、目標がはっきりしていて」
「お前だってそうじゃん」
「・・・俺はもうだめかもしれん」
ヒロトはつい本音を零す。
「分かるよ、その気持ち」
するとダイスケから思いもよらない答えが返って来た。
「俺も毎日、その気持ちと戦っているんだ」
ヒロトはその時、初めて彼が自分と同じ状況にいることに気づいた。
「人ってそういうもんだろ」
そして、自分より、より明確なビジョンと強い決意を持っていることにも。
「お前は強いな」
「なんで、俺はいつもヒロトを見習って頑張ってるんだよ」
「そんなことあるか、お前はお前で頑張ってるんだ。俺は口ばっかで曲の一つも書けなくなったヘタレだ」
「でも、そこで苦しんで、踏ん張ってるじゃん」
俺も頑張るから、といってダイスケは通話を遮断した。
「カッコイイこと言いやがって・・・」
ヒロトは苦く微笑みながら歩く。
明かりは神社から漏れたものだった。
境内に続く石段に自然と足をかける。
無心で階段を上っていると、携帯電話が震えた。