第四章ヒロト①
瞬くと、ひっきりなしに開く自動ドアの向こうから、楽しそうな初詣客が入ってきた。
誤算だった。
そうヒロトは思う。
平日は閑静な住宅街で、きっと楽だろうと思って働き出したコンビニの近くに神社があったなんて。
それに見栄を張って地元に帰らず、そのくせ一人では寂しいからとバイトを入れた結末がこんな悲劇を招くなんて。
大の労働嫌いのヒロトでも、次々と出される買い物籠を処理しないことにはあっという間に行列が出来てしまう状況に、仕方なしにでもレジ打ちをしないわけにはいかなかった。
「っらっしゃいませー」
「なあ、あんちゃん、おまえ、何で大晦日の夜にこんなバイトしてんの」
客の顔などいちいち見ていなかったが、さすがにそんな質問をされてヒロトは顔を上げずにはいられなかった。
視線の先には中年のおっさんが顔を上気させて笑っていた。
「未成年か? まあいいや、これやるよ」
そう言って差し出されたウィスキーの小瓶を睨みつけながら受け取る。
幸せな家族を持つおっさん。
でも、幸せってなんだ?
好きでもない仕事に精を出して、はした金を稼いで、ひいひい言いながら家族を養っている。
それで、年末、コンビニで安酒を買い漁って勝ち組の顔をして帰っていく。
それって幸せ?
ヒロトは違うと思う。
人生一度きり、やるならやらねば。
どこかのお笑い番組で聞いたフレーズがそのまま彼の人生の座右の銘になった。
高校一年で地元のバンドコンテストに優勝して、その勢いで上京した。
誰も彼についてくるものはいなかったが、彼はその時、一人でもイケると確信していた。
自分には才能があり、運があり、それをものにする行動力もあると。
当然、上京に反対した親から援助はなく、彼はバイトで生計を立てながら身一つで音楽活動を続けた。
自分は強いメンタルの持ち主と信じて疑わず、極貧生活にも耐え忍んできた。
しかしどうだろう。
上京して三年、夏の暑い日に一曲搾り出した後、それまで湯水のように湧いて出ていたアイデアがはたと途絶えてしまった。
ギターを抱えたまま頭を抱える日々が続いた。
そして半年が過ぎようとしている。
そして年が今日、越してしまう。
ヘトヘトになったバイトの帰り道、彼は漠然と灯る明かりの方へ足を向けていた。