第四章ヒロト④
「なんだよ裏切り者」
タケシが電話に出ると第一声にそんなことを言った。
「いやいや裏切り者じゃねぇし。ってか心配してかけたやったのにひどい最初の一言だな」
「俺がお前に何を心配されるんだ? お前は何もおれに対して心配しなくていい。むしろ俺がお前を心配するほうだから」
「なんだよ折角年末年始を共に迎えてやろうと思ったのに。どうせお前、チェンネル廻しすぎてレミに怒られたりしたんだろ?」
「ばか、何でわかんだよ。ありえねぇ」
「やっぱり」
ヒロトはタケシの反応が可笑しくて仕方なかった。
寒さに身を震えさせながら、地元の見慣れた風景を思い起こした。
「てゆうかもう年越してるし!」
「おいマジか?」
そう言われて時計を見ると、確かに日付が変わっていた。
「マジじゃん! おれ全然準備できてなかった」
「俺も。ってかなんの準備だよ」
「いや、生まれ変わる準備? 新しい一年だし?」
「だよなー。とりあえず年越しの瞬間はジャンプしたかったよなー」
そんな冗談を二人はひとしきり言い続ける。
「まあ、今年もよろしく」
「おう、今年もよろしく」
そして急にまじめになって、そんなことも言ってみる。
遠くで、今年も宜しくね、とレミの声が聞こえた。
「そういえば、さっき二人と話して、ダイスケの受験が終わったらまた集まろうって話になったから」
「おう、いつでも来いや」
「その時にはみんな、何か変わってるかもよ」
「なんだそれ?」
なんでもない、と言ってヒロトは笑いながら電話を切った。
初詣に来たわけでもないし、神様を信じているわけでもない。
帰るか。
彼はそう一人ごちて石段をくだりはじめる。
帰って、メロディーを搾り出すんだ。
苦しくても、徹夜で一曲完成させてやる。
きっとだ。
きっと。
お焚き上げのお札が爆ぜる音、鐘が鳴り響く音、初詣客の雑踏。
そのどれもが彼の耳を震わせる。
いいのが書けそうだ。
ヒロトは意気込んで階段を駆け下りていった。




