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龍との関係

龍と仲良くなる方法。なんて言っても、そんなの人間の場合と大して変わりません。それでは、瀧沢脩一の場合はどうなのか?

 次の日の放課後。

 慧の周り――と言うか、転校生文也の周りには今日も多くの女子が群がっていた。

「ねぇ、岩井君の家ってどこら辺なの?」

「兄弟っているの?」

 それこそ、質問は根掘り葉掘りだ。

 頬杖を付きながら隣の席から眺めている慧も、流石に呆れて、よく続くものだと思っていた。

 それだけ、文也の事が知りたくて堪らないのは分かるが。

「僕は、皆の事が知りたいな。教えてよ」

 文也は、そう群がっている女子に質問し返し、おまけにその可愛らしい笑顔で質問を煙に捲こうとする。その事に、傍で聞いている慧には分かった。

 周りの他愛無い女の子たちは騙せても、自分は騙されない。

 話したくはないのだろうか。それとも、何か秘密でもあるのだろうか。

 昨日の不可思議な発言が未だに頭に引っかかっている慧は、何だか面白くない。

 どうも、この文也と言う転校生の全貌がはっきりとしないのだ。

「よっ、慧。待たせたな」

 ぼんやりと隣を眺めていると声が掛けられた。

 一緒に帰るのがいつもの事となっている脩一が、教室まで迎えに来たのだ。

「じゃあ、帰ろっか」

 慧は席から立ち上がり、脩一と共に学校を出る。

 今日は、脩一は倉橋家に寄っていく予定なのだ。

 黎貴の神仙となったのだから、一日でも長く黎貴と一緒に居たいのは当然の事だ。

 ましてや、人見知りをされているのだとしたら尚更だ。

 一刻も早く馴れてくれなくては、神仙として傍にはいられない。

「今日は、黎貴どうだった?」

「どうって?」

 急にそんな事を訊かれて、慧は質問の意図が分からずに問い返す。脩一は、そんな慧がじれったそうに口を開けた。

「寝起きは良い方なのか? 朝ご飯はしっかり食べてたか? 好きな食べ物は? 嫌いな食べ物は?」

「はいはい、ストーップ!」

「人間の生活には馴染んでいそうか? それから、それから――」

 慧は、脱力して待ったをかける。

 脩一は、慧の制止にも気付かないように、まだ怒涛のように質問をする。

 自分の話を聞いていないのを知って、慧はドスッと脇腹に拳を叩き込んだ。

「――俺の事はなんて――ガハッ!」

 脩一は、慧の拳の前に、呆気なく膝を付いた。慧は、にっこりと笑いかける。

「そーゆー事は、黎貴に直接訊いてくれる~?」

 かなりイライラさせてしまっていたらしい。

 その事にようやく気付いた脩一は、腹を押さえたまま大人しく呟いた。

「…………分かりました」

「よろしい」

 慧は、大きく肯く。

「…でも、黎貴、俺に懐いてくれるかな…」

 余程、昨日黎貴に「嫌だ」と言われたのが堪えたのだろう。ふと、脩一は、いつもの脩一らしくない弱音を吐いた。

 だから、慧はその弱音を笑い飛ばしてみせる。

「何言ってんの。あんたらしくもない。…脩一、あんたはウザイけど、あんたを嫌う人間なんてそうはいないわよ」

「慧…」

 従妹として生まれた時から付き合ってきた慧だからこそ言える言葉だった。

 脩一は、思わず感動してしまった。

 口は悪くて、すぐに手が出る慧だが、本当は誰よりも優しいのだ。

「もう、ちょっと! 離れなさいよね!」

 歓喜のあまり抱きついてくる脩一にもう一発拳を叩き込んでから、慧は玄関のドアを開けた。

「ただいま~」

「……おかえ――」

 律儀にも出迎えてくれた黎貴は、玄関に脩一がいるのを見て固まった。

「よ、黎貴…」

 脩一は、慧に殴られた一発が効いているのか、玄関に蹲りながら片手を挙げて引き攣った笑顔を見せる。

 慧はにっこりと微笑んだ。慧の微笑みには、黎貴は何か良いことがあると刷り込まれているようで、ふうっと表情を和らげる。

「今日は脩一も連れてきたわ」

「…ぇ…」

 黎貴は、小さく声を上げる。また固まった。しばらく固まった後に、そろりそろりと後退りし始める。

 それを見た慧は、黎貴の腕をサッと引っ掴んだ。

「どうして逃げるの? 脩一は、あんたの神仙よ? 味方なのに、何を怖がってんのよ?」

 慧にはもうかなり懐いている黎貴は、慧の言葉に足を止めてふうっと脩一を見つめた。

「……脩一、は…味方……?」

 脩一は、ここぞとばかりに身を乗り出す。

「そうそう。俺は、お前の味方だよ。…慧よりは怖くないから、もう少し仲良くしてくれると嬉しいんだけどな」

「何か言ったかなぁ?」

 脩一の言葉を聞きとがめて、慧は低い声で呟く。脩一は、ギクリと背を波立たせた。

「あ、け…慧ちゃん…」

「だぁれが怖いですって? 一体、だ・れ・が?」

「い、いや、それは…。ちょ、ふぃた…! ほふぃるから!」

 頬をびろーんと左右に引っ張られて、脩一は涙目で「痛い、伸びる」と繰り返す。

 慧は、えいえいと更に引っ張ってから、ようやく解放してやった。

 脩一は、頬をさする。すっかり赤くなってしまっていた。

「痛…。ホント、手加減なしだよなぁ」

「何を今更。あんた相手に手加減したって意味ないでしょ」

 慧は、ふん、と鼻を鳴らす。

 まだ痛いと頬をさすっていた脩一に、黎貴が可哀想に思ったのか、おずおずと近寄ってきた。

「…だ、大丈夫か……?」

「や。大丈夫大丈夫。いつもの事だし」

 近寄って、自分から声を掛けてきてくれた黎貴に一瞬目を見開いたものの、脩一はすぐに何でもないかのように笑って答える。

「俺はちゃんと分かってるから。これも一種の『愛』だって」

「ちょっと、気持ち悪い事言わないでくれる? マゾ?」

「ちっがーう!」

 キラキラとした瞳でいった脩一に、慧は本気で鳥肌が立ったように半眼で睨む。

 脩一も気付いたのだ。これまでの遣り取りが慧の半ば仕組んだ事だったと言う事に。

 同情であれ、何であれ、まずは話しかけても安心な相手だと思わせる事が肝心。

 そのために、慧は自ら憎まれ役を買って出たのだ。

 案の定、黎貴は二人のやりとりから脩一に少しだけ親しみを持ってくれたようだった。

 そうすれば、もうこっちのものだ。

 結局黎貴を質問責めにして引かせてしまったが、脩一は何とか黎貴の心を掴む事に成功したようだった。


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