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カラコロ

作者: 真柄

 佐治(さち)は、境内の石階段を膝に手を置き、登っていた。

 お社は未だに見えないのだが、上のほうからは賑やかな祭囃子が、昼間の雰囲気を帯びた生ぬるい風に乗って、なんとか聴くことが出来るところまでは着た。

 佐治は、こんなに神社は遠かったものかと、久しく来ていなかった記憶を辿る。

 ぼうっと頂上へと向けていた視線をふと、横へ向けると、一人の女の子が佐治の真横に立っていた。黄昏時の暗がりでも映える、黄色の浴衣が目に眩しく思えた。

 「ねぇ。早く行こうよ」

 女の子は佐治の手を引き、神社へと進もうとする。

 佐治が呆けていたにしても、先ほどまで一人だったはずの石階段に、突如として現れた女の子に不信感は否めない。石灯篭(とうろう)の僅かな灯りと傾く夕日に照らされ、女の子の顔は、陰影深くなんとも大人びて見える。体型と声音は年相応だが、表情だけかけ離れていていることも、不安要素の一つとなっているだろう。

 「早く行かないと綿あめなくなっちゃうよ?」

 先ほどよりも幾分か拗ねたように話しかける女の子に急かされ、佐治はなんとか一歩を踏み出し始める。

 前へと進み始めた佐治に気を良くしたらしい女の子は、下駄音を響かせリズムを刻むように石階段を上る。その後ろを、なんとか付いていく佐治は、なんとも情けなく感じた。

 「君は、綿あめが好きなの?」

 女の子とは言え、知らない相手と会話もなく登るというのは、なんとも詰るもので、息苦しさを紛らわす目的も兼ね、佐治は話しかけた。

 「大好き! ママも大好きなんだって」

 「へぇ」

 「ふわふわしてて、真っ白で、雲みたいだもん。お空の雲もきっと甘くて幸せなんだろうねぇ」

 「雲が幸せなの?」

 「違うよ、雲を見ると幸せになれるってこと!」

 空に浮かぶ雲を指差し、夢見がちなことを話す年相応の女の子に、佐治はひとまず安心した。

 終わりの見えない石階段だが、祭囃子は少しずつ表情豊かに流れてくる。

 「お兄ちゃんは、綿あめ好き?」

 「んー……そういえばずっと食べてないなぁ。どんな味だったか忘れちゃった」

 「えー、もったいないなぁ。甘い幸せな味がするのに」

 女の子は、綿あめだけで幸せになれるのだろう。佐治は纏わりつくような風に反し、自由に揺れる女の子の髪先を細めた眼で見つめた。

 「お手軽な幸せだね」

 

 話しているうちに、終わりがやって来た。

 「ママー」

 女の子は佐治の手から離れ、こちらに駈けてくる『ママ』に向かい走り出した。『ママ』は、佐治に深々と頭を下げ、女の子と人ごみへ消えていった。

 佐治は、しばらくその母子の後ろ姿を細めた眼で見送った。


 参道の両脇には、屋台が軒を連ねる。

 佐治は、石階段のすぐそばにあった屋台へと足を進めた。

 「おじさん、一つちょうだい」

 「彼女への手土産かい?」

 「違うよ。初恋の子が好きだったこと思い出してさ。久しぶりに食べたくなっちゃった」

 「青春だねぇ。はいよ」

 女の子の着ていた浴衣と同じ、黄色い袋に入った綿あめを佐治はかじった。

 女の子と話している時、初恋の子を思い出していたのだが、それもそのはずだ。

 初恋から十数年。彼女が着ていた浴衣は、娘へと受け継がれたようだ。

 「あっまいなぁー」

 空を見上げると、夕日色に照らされた綿あめがぷかぷかと浮かんでいる。

 佐治がかじった綿あめは、懐かしい、幸せの味がした。


読んでいただきありがとうございます。

処女作ですので、至らない点が多々あります。

何か意見や改良点などがありましたら、ぜひ教えていただけたら幸いです。


8/23に編集いたしました。こちらは、編集済みのものとなっております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 処女作というわりには上手く書けていると思います。文章もきれいですし。絵も浮かびます。 [気になる点] 一行目の「手を置き登って」ですが、「置き」のあとに「、」をいれると良いかと。女の子の登…
2011/08/22 15:42 退会済み
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