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【なな―――打ち捨てて、】






 緑の色が風に揺らぐ。

 誰もいない場所で、ただ語りあいたかった。




「……館の皆さんは元気ですか?」

 遠くで遊ぶ子供たちの声が聞こえた。

 そんな城の窓辺に立ち寄って、リアディさまに尋ねました。

「ああ。―――元気だ」

 低く耳に届く声。

 風が渡らせるのは、竜の声。

 それから。

 ――――輻射される貴方の息と肌の、熱。

「よかったです」

  過去に世話になった方々の事を思い出しながら笑顔で返事をしました。

 もう、過去を思い出さぬようにと己の心を戒めながら。

「……ウルティカの話だと、ちいさきものたちは一時期眠れないほどにショックをうけたようだったということだった。それでも、メイドたちの声かけや世話が効いたのか、少しづつ食事を摂り、睡眠をとるようになったということだ。―――いまの彼等の合い言葉は、【カナお姉ちゃんが帰ってきたら、笑顔でお迎えするよ!】らしい」

「………」

「トールとレイヤは、いまはメイムの下で手伝わせている。彼ら二人も十分良く働いてはくれるが、それでもいざというときの判断や実務能力についてはまだまだだというのが二人の言い分だった。―――【アニキが全ての指示を出してくれていたからこそ、俺らは安心して働くことが出来たんですよ】と言っていた」

「………」

「メイムはあいかわらずの仕事ホリックだが、最近は小言が多くてたまらん。【だから、さっさと優秀な人材は確保しておきなさいといったでしょう】だと。…あいつもカナのことは認めているようだ」

「………」

「―――――― 皆が待っている。……帰らないか? 館へ」

 困ったような表情のリアディさま。

 いつも堂々と胸を張って、予想外の仕事を押しつけてきたリアディさまだから、―――新鮮です。

「まず、一つ目に私が城へとやってきたのは城からの召喚があったからです。――― この城にて生活しろと竜族の長であるバランさまからの命令があるからです。私の意志による滞在ではありません」

 知っているはずですね?

「………」

 文を届けたのは、リアディさま。――――貴方ご自身だったのですから。

「二つ目に私の存在を皆様が好意的に受け止めていてくださったことはとても嬉しいです。一年の間の仕事を評価していただけたと思うとそれだけで嬉しい。これもみな皆様のご協力とご指導のおかげでの成果でした。本当にありがとうございましたとお伝えください」

「………」


「最後に」

 

 一瞬言葉をきって、リアディさまの瞳を見つめた。

 黒い瞳。――――――私と同じ、日本人の瞳と同じ色の瞳。


「私の帰る場所はたった一つです。――――――岩倉武道館の本流である岩倉家。―――第26代目当主 岩倉宗吾の居る場所こそが、私の帰るべき場所です」


 帰りたい場所は、――― いつも一つだった。

 








「……リアディさまには本当に感謝しているんです。何もわからなかった私を保護してくださった。ただ居場所と物を与えるだけでなく、私が協力出来る仕事を与えてくれて、私の考える意見を聞いて受け入れようとしてくださった。―――それがどんなに幸運なことであり、満たされたことであったのかはよくわかっています」

 それは本音の言葉。

 与えられるだけの人生などに興味はない。

 何かを作り、誰かと繋がり、生きる道。

 そんな人生でなくては、長い人生を歩む勇気などもてるはずもない。

 そのために必要な環境が、異世界などという未知の場所であたえられたことを感謝しないはずがない。

 たとえ、長がいうように「落人」という希少にして望まれる存在としてたとえどのような種族であっても、「落人」というものが保護されるべき存在だったと説明された今だとしても。


 何も知らずにただ混乱していた私の前に顕れたのはリアディさまであり、他の誰でもなかったのですから。


 ―――感謝しているんですよ。


 他でもない、私が一番揺らいでいたあのときに傍にいてくれていたことに。

 けれど。


「私は不器用なんです。―――― 私の大切な場所は二つはいらない」


 あなたたちはいらない。






 最後に嘘をつきましょう。

 許されることもいらないから。

 嘘をいうことしかできぬ女だと諦めて。

 願わくば。

 頑固で狭量な女が一人、差し出されていた優しい善意の手を振り払ったと理解してほしい。

 たとえ、それが虚勢であるとばれていても。



 ―――もはや、壊れた偽の関係さえも放棄してください。





 風が緑を浚う音も。

 水が日の光をかえす名残も。


 ―――― 帰る場所と相似しすぎていて。



                        伏した瞳から涙が落ちそうになる。











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