【よ―――迷い、】
∴∴∴∴∴
「――――何をしにいらっしゃいましたか?」
問いかけたのは私から。
答えたのは、たった一人。
「ああ。―――俺の未来を奪いにきた」
もう会うつもりもなかった竜族のリアディはそう答えました。
「…………」
俺の未来って、……。
ため息を我慢するのも苦労しました。
言葉があったのです。
手紙が一つ。
私のもとへと、届いたのです。
『 カナ。 ―――――― おまえを奪いに行く 』
通達された彼の思い。
ねえ、あなたは私の何を奪うというの。
ねえ、あなたは私の何を欲するというの。
――――――― 私の未来はどこにあるの。
答は、いつも闇の中。
◇◆◇
「小さな皿がある」
「はあ……」
「そして、そこにはスープが満たされている」
「ええ……」
どうもよく分からぬ説明が始まったようでした。
「リフェール、次は俺と喋ってくれるよね? ね?」
「ボクとも!」
「静かにしなさい!」
少し離れた場所で、トラオムさまとガ―プさまが困った表情のミランダさまに確認している声が聞こえました。
布の仕切りで分けられたのは、私とリフェールさま、イオ・スさまの三人だけでした。
「スープはすでに皿に溢れていて、料理は完成しているように見える。―――だが、そこに未知の食材が落とされる」
「未知の食材?」
「そうだ。――――― 完成しているように見えた料理は実は欠損した料理であり、そして未知の食材は、遠い過去に失われた料理の素材の一つであった」
「失われた…」
「欠損した料理は補完されることを望み、失われた素材を呼びよせる。―――― ふさわしい場所へと」
全ては、それがはじまり。
「―――― 料理がお好きなんですか? リフェールさまは」
苦肉の相槌でした。―――しなきゃよかったかと即座に思いましたが。……沈黙は金か、雄弁は銀か。――― さて。
「……わからなくてもいいが。――――― 失われた素材はもちろん、その料理をあるべき姿に近づけるが、問題はその素材は料理の調和を壊すことがないのかという心配があるということだ」
もっとも、今回はその心配はなかったようだが。
自己完結でなにかわからない説明をされたリフェールさまに、一つお聞きしたい事があります。
……本当にあなた6歳ですか?
うるんだ瞳で我が子を見つめているイオ・スさまと、喋りつかれたのか再び眼を閉じたリフェールさまに会釈をして部屋を去りました。
「リフェール、寝たんだったら俺も一緒に昼寝する!」
「ぼきゅも!」
三人兄弟そろって昼寝にはいった竜族の子供たちを置いて。
「イオ・スさまも一緒にお休みしません?」
「えっと。……そうですわね、ミランダさま」
仲良くそんな会話をされた第二夫人と第一夫人の声を遠く聞きながら。
何かを求めたのか呼ばれたのかそれさえ分からぬままに、私は天を仰ぎ見ました。
明るい太陽の輝く空。
今でも、あの高き天の上には異世界への穴が存在しているのでしょうか。
私の故郷へと続く道が。