【ふた・ふた―― 愛しい者たち。】
護るから、と家族に誓った。
この手はまだ未熟で、誰の未来もつかめないままだけど。
望む未来は曖昧で、誰の夢ともわからなかったけど。
護るから、と異端の竜が一言、呟いた。
その事実だけは今でも変わらない。
ファンリーさまの後見のもと、竜と蛇の群れの境界にあたるはずれの場所に居を作った。
初めは、ファンリーさまのもとで生きることも考えたけれど、弟妹の姿を見ればそれは好ましくないと思った。
とくに妹のマリアムの反応は顕著だった。
蛇族の教育をガラ・オン様のもとで受けた妹にとって、竜族との共棲は無理だったようだった。
蛇族のもつ竜形種への敵愾心とも執着ともとれる複雑な想いを歴史と共に受け取ってしまったらしい彼女には、たとえ父母の友であり好意を寄せられるファンリーさまの支配下の竜だとしても、真の意味で寛ぐことは出来なかったようだ。
弟のメイムのほうはマリアムに比べればまだ余裕はあるようだったが、それでも何かを感じるのか、父母の死が影響したのか、リアディのもとを離れなくなった。
【仕方がない、…のかしらね】
ぽつりと、小さくとぐろを巻いて眠る弟妹を見つめながら、ファンリーさまは呟いた。
暗い空には細く縒った糸のような、頼りない月が一つ昇っていた。
数日後。
軽くなった二人の弟妹を腕につかまらせたまま、邸を出た。
生活費はほとんどがファンリーさまに頼った状態だったのは、1年ほどだったか。
そのころになると、まずはメイムが人形をとれるようになっていた。
5か月ほどの間を置いて、今度はマリアムが。
人形での生活の慣らしをかねて、敷地内に作った畑の世話をさせたことも懐かしい。
そんな頃、懐かしい友人にリアディは出会った。
「元気にしてるか? ボーイ」
「…セロ」
「ちょっとお願い、つーか、いい話をもってきた」
「……俺にいい話?」
「そして、俺にもいい話さ!」
調子がいいけど、嘘はつかない竜の友人であるセリアロだった。
「おまえ、これどこの群れのものか覚えてね?」
「あ?」
そう言って差し出されたのは、過去に強制参加させられた空を飛び隊飛竜組との地域特産品査定の旅で見たことのある器が一つ。
「……これ、鹿の群れんとこの特産物だろ?」
たしか、西央域の山に行ったときに作ってるの見たぞ。
記憶力はいいリアディの答えに対して。
「ビンゴ!」
やっぱり、おまえに会いに来てよかった!
叫んだ元・空を飛びたい飛竜組組員一号。(ただの空の暴走竜族)
それがきっかけで、セリアロ始めの友人たちを使いつつ、巷の女性群を主とする消費者の望む品々を右から左に提供するうちに、しまいには商人の資格を取るまで至ったのが、リアディという一人の竜族の始まり。
彼の仕事が認められる頃には、妹は独立し、彼女だけの仕事を手にしていたけれど。
長兄大事の弟は、いつのまにやらそんなリアディの仕事管理を自分の役割にしていたけれど。
「行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
たとえ、君たちが大人になって、新しい家族が出来て分かたれたとしても。
「兄さんたちも頑張ってね」
笑顔で旅立つ君たちを、寂しいと思いながらも誇らしい、―― 兄がここにいるのです。
護れたのだろうかと、己の過去を思いながら。
護れたのだろうかと、君たちの先を思いながら。
護られたのは誰だったのだろうかと。
心の奥底で思いながら、ただ家族のことだけを思えていたのは幸せでした。