【ふた・ひと―――父母、】
【…はじめまして】
最初の言葉は、確かそんな一言だった。
二人のために場所を退いた導親の姿の代わりに、顕れた二人の姿。
「生まれた! 生まれたよ! エン! ファンリー!」
可愛い仔、生まれてくれた!
「ちょ。……ヨーコ、俺にも見せてよ!」
俺の子供でもあるんだからね!
黒髪黒目の人間が、顔を染めて俺を覗き込んでいた。
灰髪緑目の人形が、そんな彼女の後ろから俺を覗き込んでいた。
震える真っ赤な小さい舌を見せ、黒い瞳を眩しげに開いて。
まだ表面も乾いていない黒色の鱗を生理的な理由で震わせながら、俺は家族を見つめた。
そして。
【 ありがとう 】
父さん。母さん。
家族を呼んだ。
赤い日が訪れる。
夜空に満ちた赤い火の燃える中、父母は死んだ。
「ファンリーさま」
「リ―坊」
泣いた二匹の弟妹を胸に抱きしめながら、俺は願った。
「俺は、家族を守りたい」
「……」
今日のために集まっていた火竜たちは、その業を果たしている。
蛇の里の長は、それを見守り、立ち会っている。
俺たちの傍にいるのはファンリーさまだけだ。
父母の友人で、俺の導親で、俺たちのこれからの後見人の彼女だけ。
「―――メイムとマリアムが望む間だけでいいから」
星が流れて墜ちる姿さえ、赤い空にまぎれて見えはしない。
涙も屍も晒したくはないと呟いた、父の姿は何処に消えたのだろう。
「おれたち家族を、竜の群れで護って欲しい」
憎んではいない。――― わたしは私の望むまま、この世界で生きられたからねと囁いた、母の父への睦言は聴くべき人の場所へと届いたのだろうか。
「いいでしょう。私の出来る限りで」
おまえたちの望む絆を、―――― 見守りましょう。
万全とはいえまい。
長男の導親としての権利。
竜族の大身の一人としての権利。
父母の遺言を託された身として、子供の末を見守る存在として、ファンリーさまはそう告げた。
大蛇の子供たちはそうして、竜と蛇の境界に佇む身になった。