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【ふた・たり―――兄妹、】



「マリアム」

「はーい」

 ただいまー、お兄ちゃん。 


 幼い少女の姿を取るようになった妹を抱えた。

 今回の送迎を担当していた蛇族の女性に一度頭を下げてから、妹とともに家へと入る。


「今日は、何が食べたい?」

 何でも作ってあげるよ?

「何でもいいよー」

 でも、マリアムにもお手伝いさせてねー。


 料理好きに育ちつつある妹は、大蛇一族の台所のマスコットへとなりつつある。

 癒されるんです。










 突然の竜族招聘から、すでに三年が経過しました。

 いろいろなことがありました。

 時折、火竜たちの巡礼に従事させられてみたり、お空を飛び隊飛竜組に連れられて各地の旅(地域特産品査定の旅)に参加する羽目になったり(…意外に楽しかった)、帰ってきたらなぜか弟が痩せて人嫌いになっていたり(ちょ、どういうことですかヨーコさあああん!)、妹がなぜかガラ・オン様に懐いていたり(待って、本気で待って、マリアム)、エンさまの趣味の模型作りがとうとう邸のサイズを超えようとする暴走が始まっていたり(やめて、エンさま止めて)、ヨーコさんが品種改良したいとか言ってファンリーさまに謎の壺をもらっていたり(どこの魔女の壺ぉおおおおお)。

 ……自他共にいろいろあったこの三年間。

 ファンリー陛下には、「これが大蛇一族でしょ?」ととうとう朱に交わってしまった発言を貰ってしまった。―――最後の常識人がいなくなりそうな気配。


 長男は、今後の竜生じんせいどうしようかと悩んでいます。



「リ―くん? どうしたのー?」

 お腹減ったよー、ご飯食べようよ。

「あ、はい」


 ぼうっとしていたら、夕餉を器に盛る手が止まってしまっていた。

「お兄ちゃん、あたしお父さん呼んでくるね―」

 ぱたぱたと廊下をかけて、趣味の部屋にこもっているエンさまを呼びに行ったマリアム。

「いやあ、マリアムがいるとエンが素直に食卓にやってくるから助かるわあ」

 にこにこと笑顔のヨーコさんは家族分の箸を用意している。

「………もう運ぶものはありませんか?」

「ああ、これでいいよ。ありがとう、メイム」

「…いえ」

 無表情に俯く弟は可愛かった。

 長兄大好きなメイムは料理は苦手だが、お手伝いは必ずやる子だ。

 長兄は無自覚だが次兄のお手伝いが終わると必ずお礼をいうので、それが更にブラコンメイムの心を掴んでいるということを知っているのは母と妹だけである。


「俺の家族って、やっぱりいいよな!」


 こうして、長兄の竜生の悩み(大蛇一家が暴走していく不安)は綺麗に霧散していくのが通常運営である。



家族コンプレックス(ファミコン)』?


 たまに遊びに来る陛下が呟く言葉の疑問符は、撤回される直前まできている。



























 家族皆でのご馳走さまと喫茶タイム(今回の主役は一週間のおでかけから帰って来たばかりのマリアムだった)が終わり、のんびりとしたあとの各自の湯あみも終えて、お休み時間がやってきた。


「あたし、ここがいい~」

「……ここ」


 誰か家族の長い留守のあとには、大蛇一家はほのぼの皆で添い寝をする。

 そのためにお布団ころころ床に敷き詰めるのはヨーコさんとリアディの仕事であった。

 普段はさすがに子供たちも己の子供部屋で寝るのだが。(そして、リアディは何故かいつも弟妹の襲撃を受ける。おねしょの始末にも今じゃ慣れたものです)

 本日は皆で仲良く、川の字である。(外側に縦線+2)


「でね、アリアがあたしに突っ込んできたからね、仕方ないからユーミアも巻き込んであげたのよ」

「うん、マリアム。リトルキャットファイトは俺の心に痛いので、そこは報告しなくてもいいよ?」

「…勝者は結局だれだったんだ?」

「もちろん、リディアよ」

 あたしたちは痛み分けの負け組なのー。


 笑顔で己の負けを報告する妹の将来が不安だ。

 幸い、将来の蛇の里の後継候補たちのなかのトップ(リディア)に愛でられているので、其処は何とかなりそうでほっとしているのだが。

 

「さすがはリディア嬢」

 漁夫の利も見事に奪い取るか。


 遠い場所での人間関係にだけ興味津々な弟は、どうすればいいんだ。




「マリアム、ガラ・オンさまの勉強は楽しいかい?」


 瞼の下に黒クマを飼った姿のエンさまがうっかり添い寝で寝ないようにと怯えつつ、兄弟の会話を聞いていたのだが楽しげな会話につい問いが出た。

 エンさまもそうだが、俺だってそこは常に気にしていることだ。

 「彼女」とかわした約束の結果。

 少女が不幸になることなど、誰が望む筈があるというのか。


「うん。楽しいよ!」


 笑顔で笑うツインテールの少女に嘘がないことを確認して、ほっとする。

 そんな二人。

 ――――家族が欲しかった、二人の安堵。



 代償に、お前の子をもらうよ。



 大蛇一家の初めての女の子であったマリアムが生まれたとき、当然のようにガラ・オンさまはやってきた。

 奪いはしない代わりに、将来を貰うと言ったのは情であったのかなんだったのか。

 たまに顔を出しては、マリアムと一緒に過ごしていたがどうやらその結果が今の状態のよう。

 蛇の里長であるガラ・オンさまの後継になりうる少女ということで、その他の少女たちとともに英才教育を受けている。

 どんな教育なのかは、雄が知っていいことではないんだろう、きっと。

 それに妹が嫌だと言ったなら家族全員反抗もしたが、実際のところ初めての同い年の友人や遊び半分の教育に少女は夢中だ。

 ならば、よいかと納得したのは家族である。



「嫌なことがあったら、いつでもやめてもいいんだからね?」

 エンさまが言った言葉に。

「嫌なことを乗り越えるのが楽しいのよ?」

 と、不思議そうに言った彼女は間違いなくヨウコさんの娘だと思う。




 どちらにしても、家族みんなが幸せであればいい。









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