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【ひと・なな―――泣かされて、】











 彼の森は緩衝地帯と呼ぶに近かった。

 住まうものは竜と蛇が数体ばかり。

 はぐれが居付くには条件が悪いその場所は、素のままの世界であり、原初の力が満ちた森だった。

 そこに彼の卵が置かれていたのはどんな思いの為したものであったのか。

 土は命を養い、水は全てを混合し、木々は全てを補った。

 彼がまだ卵であったとき、 森を診に訪れた竜族たちはこう言った。


「これはまた厄介な場所に」

「まさにまさに」

 これでは属性が落ちつかんだろなぁ。久々に複属性の竜族が誕生するかもしれんのう。


 竜族は水属性しかり土属性しかり単属性をこそ好む。

 複属性などただの困惑のもとである。

 だから、いままでこんな属性の重なった土地に竜の卵が放置されることなどありはしなかったのに。


「して、その卵。―――が食してよろしいか?」


 先を憂う竜族かれらに、ともに訪れていた蛇族の長が艶やかに笑んで問うていた。











「バラン、様?」

「やあ、大蛇の養い子くん」


 突入してみた部屋に立っていたのは、竜族の長バラン様でした。竜族の慣習どおりの人形のバランさまは、白銀の長髪を背中まで垂らしたままでした。

 ラフな格好のそれは、どう見ても部屋着です。


「っ、すいません! まさか、バランさまのお部屋だとは思ってなくて、…っごめんなさい!」 


 さてはバラン様の私室に乱入してしまったのかと慌てた少年リアディは脱兎の勢いで部屋を去ろうとして。


「まあ待って。落ち着きなさい」


 がしりと肝心の相手であるバランに服の裾を捕まえられて、逃げそびれた。

 いつもこんな感じだな、少年。(竜族が相手のときばっかりじゃねえか!とどこかのリ―坊が反論しそうだ)


「ここは私の私室ではないよ」

「…え?」

 そうなんですか?


 穏やかに笑ったバラン様の表情は、とても優しそうでした。


「ここはただの、 竜族の厳正なる禁足域  です」

「うわああああああああ、すいませんごめんなさい悪気はなかったんですっっっっっ!!!」

 入っちゃってごめんなさい!!


 優しい顔した鬼が、其処にいました。







 ぐずっ、ぐすっ。

「…何も泣かなくても」

「泣かしたのは、だれですか」

 ぐす。


 優しい顔してしっかり黒いバランは困った顔をしていたが、それもどこまで本気か不明である。

 そんな色んな意味で酷いバラン様の前で泣いているのは、もはや混乱を通り越して一杯一杯になってしまった少年リアディである。真実困っているのはどちらの方だと言われれば、間違いなくこちらの方だ。


「そりゃあ、夜中に部屋の外に一人で出た僕が悪いことくらいわかってますよ。でも、だからといってこの仕打ちはあんまりだと思います。ぐす」

 素直に客室まで連れていってくださったなら、なけなしの銀一粒くらいなら払いました。 


「…そうか」


 ここで少しばかり困った仮面の裏側にクエスチョンマークが発生した。

 銀一粒?

 なぜここで金の話が出たのだろうかと、いろいろと確信犯だったバランが脳裏で首を傾げた。

 守銭奴という少年リアディの性格(特徴)はどうやらバランの所にまでは行き着いてはいなかったようだ。どこで情報はとめられたのだろう、友人一族溺愛娘のところか、快楽主義者の友人のところか、どっちであっても今後の悪戯ネタはここで手に入れたのでよしとするかと考えるバラン(一応竜族の長だが腹は黒い)はどこまでも酷い。


「竜族ってみんなこうなんですか?」

 だったら、俺もう嫌だな。


 両目を潤ませたまま、素直な少年が確認した。


「……否定したら信じて、くれる、…かな?」


 釣られて素直に答えたバランは、その純真な少年の瞳からそっと眼を逸らしていた。

 罪悪感という名の自覚があったようで何よりである。

 









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