【ひと・む―――楽しんで、】
「あははは。子供は冒険心を大事にしなくちゃいけませんよ、リアディくん」
「はははは。大人はどーんとそれを見守るもんだぞ、リー坊くん」
理不尽な竜族凸凹コンビは真夜中にそう言った。
チェイサさま、リ―坊呼ぶのはヨーコさんとファンリーさんとエンさまと、ガラ・オンさまだけの特権なんで止めてください。(いやその前になぜその呼び名を知ってるんですか)
さりげに逃走ルートを潰されてしまったことに早々に気付いた彼は、無言で一歩後ろを歩いた。
クロムさまが持っている灯火で映し出される二人の影をたまに踏みしめていることに少し歪んだ満足感を覚えているのは内緒である。
「…なんで、そんなに楽しそうなんです?」
疑問符を直接きけるのは子供の特権である。
まだまだ幼い域に片足を遺しているリアディは素直に聞いてみた。
「そうですね、きっと嬉しいからですよ、リアディくん」
「そうさな、楽しいのさ、リ―坊くん」
灯火に移る二人の顔はじつに怪しく楽しそうであった。
…ただの酔っ払いかと思ったリアディに罪はない。
「君にはわからないでしょうが。僕らは嬉しいんです。――― 彼女の存在を感じて」
「ふむ。 ワシには残念ながらそのようなことは思えぬが」
しかし、稀なことは面白い。
微笑んで語ったクロムさまの言葉に否を唱えたチェイサさまは、それに一言付け足した。
「面白いことは楽しむのが宜しかろ」
快楽主義者という言葉をリアディが学ぶのは、残念ながらこの数年後であった。
夜闇のなか、黒雲が月を隠したその隙に消えたのは竜族の凸凹コンビ。
好きなだけ城のなかを無暗に連れまわされていた少年にどうしろというのか。
困ったまま立ちつくしていた彼は、もう一度その感覚を覚えた。
「誰か、呼んでいるのか?」
白い壁の地下の部屋。
少年は知らずに、禁域へ足を入れる。
白はその部屋の色だった。
どこか寒々しい感のある部屋は、ただ静かにそこにあった。
「―――誰か、いるのか?」
問うた少年の声は。
「おや。夜ふかしは成長期によくないぞ、少年」
一人の男の声に応えられた。