表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

【ひと・み―――眩み、】





 竜族のリアディは卵から生まれた。

 始まりの場所は、蛇の里の人里離れた森の中。

 親と呼ぶにはもう縁遠くなった存在が産み落としたその場所には、土の慈愛と樹の恵みと、水の憂いがあった。



「………これは、また」

「ふむ。――まだ、このような場所がのこっとったか」


 踏みしめればふかふかの黒色土の上には、まあるくついた卵の跡が残っていた。
















 竜配達便の《速達便》を使って、竜族の大身の一人のファンリーのもとへ友からの手紙が来たのは昨日の事。

 あら珍しい、とその身を起こして受け取った手紙には一言。

【ヨーコが、ヨーコが、ヨーコがあああああああ】

 最後の文字は涙で滲んでいた。

「…………」

 沈黙のあとでベルを鳴らして。

 優雅に朝食を摂取した後で、「数日留守にするわ」と言いつけて、空に舞ったのはお約束。

 ―――ヨーコは今度はどんなトラブルを巻き起こしたのかしらと、心で何度事前に予測をつけても裏切られることしかない心の防壁を築きながら、友たちの自宅へと龍形種の娘は宙を急いだ。

 そうそう。

 蛇足ながらに付け加えると、エンからの【ヨーコが!】お手紙を、ファンリーは【非常事態宣言エマージェンシーコール】と呼んでいる。

 ―――― そのまんまだねとエンから納得を示される日は、たぶん近い。
















「で、何がありましたの」


「なにもないよ―」


「………」

【………】

【ファンリーお姉さん、いらっちゃい】


 開口一番、尋ねたらにこにこ笑顔でヨーコが返答した。

 沈黙してるのは、長子のリアディと次子のメイムだ。

 可愛く挨拶したのは、大蛇一家の最後の良心というか癒しのマリアムである。

 そして、ファンリーをお姉さん呼びするようにチョウキョウ…もとい、保身…もとい、………………きょ、…教、育?………したのは、…大蛇のパピーだ。落人のマミ―にはそんな気の利かせ方という小技は存在しない。




「…エンさまは?」


「エンはいま休眠中。――なんだかしらないけど、ファンリーへのお手紙を出した後、いきなり気を喪ったの」

 どうして、あんなに気が弱いのかしらね~。不思議。


「………」

「………」

【………】

【………マミ―、パピーきらいなのー?】

「うーうん、大好きよー」

 エンもリアディくんもメイムくんもマリアムもねー!

【マリアムもマミ―大好き―!】


 きゃっきゃっきゃっきゃ。


 バックに花が咲いていた。

 大蛇一家の女性陣にはそういう機能が付いているかのようだ。


 そんな二人を眺めたのち。

 沈黙を守る二人の男性陣|(未成年)をぐわしと捕まえた美貌の龍形種ファンリーさまは。


【―――― 叩き起こしてらっしゃいな】



 凄艶とも形容できそうな怒りの笑みで、下知を下した。

 女王さまと呼びたい部下の気持ちがよくわかると、後年のエンがよく呟いていたものだ。












「………ああ」



 深いため息とともに、水を大げさにぶちまけられ、お肌に小さな蛇族ちゃんの咬み後を残したエンを前にして、ファンリーは呟いた。



「―――――――――――― また、トラブルですのね」



 すいません。


 土下座したエンの姿はそう告げていた。










 …眩暈が、する。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ