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【ひと・たり――能力、】








    


 リアディは竜族においてやや特殊な出生を持つ。

 彼の本性は間違いなく竜形種でありながら、彼を育てた家族は蛇族であった。

 父に大蛇たるエンを持ち、母に落人たるヨウコを持つ。

 弟妹には父と同じ蛇の種たるメイムとマリアムを持つ彼は、竜族のなかにおいてですら異端であった。

 秘された彼の誓言がある。


「けして、属性の力みだりに用いず。竜の一族に反せず」、と。


 彼は幼い日、竜の一族の城で誓ったのだ。







「ファンリーさま?」

 ここはどこですか?

 幼い彼は、住まいである場所を離れて父母の友である竜族龍形種のファンリーへと問いかけた。

 彼の手を引いた女性とは親しい間柄だ。

 なにしろ、彼女は彼の「導きの手」でもあるのだから。 




 リアディの父母は彼を産み落とした竜族ではなく、彼を拾い育て上げたエンとヨウコだと彼は理解している。ソレを否定するものを彼は赦さない。

 しかし、竜卵のまま彼等に引き取られた彼が卵より生まれ落ちるには必要な存在があった。

 それは竜族。――――彼と同種の存在である。

 竜の卵は硬い。

 それゆえに、卵は親の産み落とした場所で問題なく過ごすことが出来るのだが、しかしその硬さは逆にうちにいる児一人では生まれにくいことがわかる。

 不思議なことに、竜は竜を知る。

 そのためか、たとえ人里離れた場所に産み落とされた卵であっても発露の時期になると竜の成体がその子の出生を手伝うことが多いらしい。

 竜族は生まれると同時にその能力を発するというが、しかしそれは無事に生まれたあとでこそだ。

 生まれる際の竜卵の外よりそれを導き、能力への同調を教えられて能力を開花するが故の事実。

 その際に児の出生を導き、同調を教える竜族の成体。―――それを竜は〈導きの手〉、あるいは、「導手どうしゅ」「導親どうしん」と称する。

 森林に産み落とされていたリアディの竜卵を拾い上げたヨウコとエンの紆余曲折な物語はともかく、結局のところそのままリアディは彼等の保護下に置かれることになった。

 これもひとえに友人の存在ありきだなとエンが呟いたのを、彼女は知っていたのか知らなかったのか。

 とにかく、その頃まだ長男メイムも授かっていない頃の話なので家族が増えることを彼等は喜んでいた。

 時折邸へ訪れる竜族の友人に、仔竜の育て方講座をうけたりしながら。

 もちろん、その時点でリアディの導きの手に自薦してきた友人ファンリーであったことはいうまでもない。

 生まれたばかりのリアディは、土を纏い水を呼んだ。

【予測通りの複属性持ちね…】

「……ほんとうにいたんだんな、複属性…」

「泥はばっちいからめっしなさい! めっ!」

 貴重な水属性と土属性の持ち主であるのを把握して呆れたのは、竜族が一人、大蛇が一人。

 ちなみに、いまだにこの世界の慣習とかにうといままの農業ミセスは素直に沐浴させなくちゃとか呟いたとか。…どの世の落人もマイペースである。

 さて、後に告げることはとくにはなかった。

 竜族は生まれた時点から自我を持つ。むしろ、生まれる前から周囲の気配を察知しているふしがある。

 いささか、落人であるヨウコの影響(あるいはヒッキ―な大蛇のエンの影響)で変わった視点をもつ少年へと育ってはいたが、それでも彼ら三人の生活は平穏であった。

 農業を喜びとする母ヨウコの手伝いで畑をしていたときのことである。間引いたはずの小さな実を握りしめたリアディの手の中で実が成長した。

 ……そのときのリアディの心境はヨウコ譲りの異世界風エコ精神「もったいない」の一言だったらしいのだが。

 とにかく。

 畑でのその出来事は、ヨウコが「よくやった」とリアディを褒め、夕餉でその話を聞かされたエンが窒息しかけ、ファンリーをはじめとする竜族の大身たちが彼を城へ招聘する事態へと結びつく羽目になった。 

 全くもって話題の突きない大蛇の一家の日常風景、すなわち通常運転な事態である。







 招聘された竜の城で、リアディは誓った。


 土の竜にして水の竜。―――そして、木の竜でもあった彼がその能力を乱用せぬことを。




 竜は世界の均衡を崩してはならない。

 それが彼等が定めた掟だったから。









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