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七:まおうさまと同族。

 リシューが居なかった間、女の子は一人で退屈だった。

暇故に遊んでもらおうにも此処にいる人間は脆い。ダンジョンの最奥で育った女の子にとって比較対象は己か周りにいた魔物だ。竜殺しやら八つ星モンスターと比べられたら誰だって脆いに決まっている。


 食事の必要のない女の子としては何故食べる必要があるのか解らないが、ご飯を出してくれるし、襲ってくる者も居ない。ジャンからのレイラインで殺しは無しが好ましい事を学んでいた。

なぜ駄目なのかはイマイチ理解できなかったが、女の子の中でジャンは『良いヤツ』なのだ。ダンジョンにいた時に周りの魔物にも時々居た、無条件に襲ってこないイキモノ。それは女の子の中では総じて『良いヤツ』に分類される。

大ざっぱと云う事無かれ。魔物も人も亜人も精霊も関係ない所で育った女の子にとってはコレで十分だ。そもそも襲ってこないヤツなんか片手で数えられる程しか居ない。


 そんなジャンから殺しも駄目だと感じとった女の子は、自己防衛のための遊び……狩りをしなくても良い状況と云うのは酷く暇な時間とかしていた。面白そうだったお絵描きも結局取り上げられてしまったし、特にする事も無い。


 しかし子供とは反復することで物事を覚えていく生き物である。


 そんな訳で例にも漏れず、女の子はここ数日にあった出来ごとを思い返してみた。


・泡でざぶざぶされた。

・同じ形のでかいのが良く解らない音を吐いていた。

・面白い棒で強かった魔物を描いてみた。

・描いてみたらそいつが出て来た。同じ形のデカイのの一つが還せと言ったので還した。


 此処まで思い返してみて女の子はもうちょっと深く考えてみた。

そう言えば同じ形の更に似た一つが変な棒を広げたら同じ形のデカイのが出て来たなぁとか、同じ形のデカイのが四角いのにぐねぐねを入れたら魔物の絵に向かって音が出たなぁとか。


 勿論女の子にこんな明確な単語は使えないのだが、とりあえず思い返すだけ思い返してみた。

幸い、女の子が無意識無自覚に危険過ぎるのでこの部屋に人はいない。それが暇に拍車を掛けているのだが、うっかりまたエンペラーホッグのようなモノが召喚されたら次こそ屋敷どころか国が滅ぶ。

 そんな訳で細心の注意を払われて若干軟禁されている女の子は意気揚々と『ぐねぐね』と自身の魔力を練って行った。


「あうー」


 相変わらずの詠唱を終えてみてみると、部屋にある家具が一揃い増えている。

テーブルもソファーもキャビネットもポールハンガーもだ。部屋の中がせまくなってしまったが、作ったテーブル等を重さなど感じない動きで一所にまとめて更に魔力で遊ぶ。


「あーうーあー」


 次に今までより少し長い詠唱と少し多い魔力を消費して作ったのは、成人男性の拳一つもありそうな大きな鉱石の原石だ。

過去に女の子が見て「綺麗だなぁ」と思った一品である。物凄く透明度の高いアイオライトと呼ばれる石だ。


 本来、材料無しの魔力だけで何かを作るのは不可能で、水の魔法は空気中等の水分、風はそのまま空気の移動、火は空気中の埃等を無理やり摩擦熱で発火させる等の元を作ってそこに魔力を通して量を増やすのが魔法、魔術と呼ばれる現象だ。

故に女の子が行った行為は全く新しい何かなのだが、此処に人はおらず誰もそれを知らないままポコポコと宝石や家具を量産していった。


 女の子が部屋で見た事のあるものを量産していたら、ペット用扉から中型犬が入ってきた。シークウェス家の番犬見習いだ。

しかし普通の犬とは若干違い、額に二本の角が生えている。


 この世界には、『秩序ある地』と『無秩序の地』の二種類がある。秩序ある地は人間や動物が暮らし、無秩序の地は魔物などの人が恐れるものが生態系を作っている。

力の強い上位の魔物などは秩序ある地に来る事が出来るが、そうそうある事では無い。

基本的に無秩序の地の方が土地が豊かで実りが豊富なので人が入る事は多いが、力に覚えがある者しか入る事は無い。そうやって住み分けがある程度出来ているから弱い生き物も生き残れる。


 そんな秩序ある地に行き成り無秩序の地が湧く事がある。それがダンジョンだ。

ダンジョンがどのような経緯で発生するのかはまだわかっていないが、人の街に塔のダンジョンが出来た時に一つ、解った事がある。

野良猫が塔のダンジョンの敷地内で子を産んだら、猫型のモンスターが産まれたのだ。それを見た冒険者が学士組合に急いで報告して調べたところ、驚きの事実が判明した。


 基本的に動物と魔物は同じ生き物で、産まれた土地に秩序があるか無いかで見た目が変わるのだ。そして生後数週間、どちらの土地で成長するかで凶暴性の度合いが変わる。

ようは筋力重視で知性が無いのが魔物、知力の変わりに自己防衛の力を弱めたのが動物だ。


 さて女の子の目の前にやって来た角が生えた中型犬。勿論普通の犬では無い。

人が人為的にダンジョンの中で産ませて、産まれてすぐに街の中で訓練しながら育てた半魔物だ。普通の犬より凶暴性があるが、野生の犬型モンスターのように知性が無い訳ではなくある程度の云う事はきく。中型犬サイズなのでそこまで力は無いが、一応モンスターなので一般人よりは圧倒的に強い。云わば訓練された魔物である。


 そんな中型犬を見て、女の子は精いっぱい疑問を顔に出した表情をした。傍から見たら無表情で若干首をかしげている状態だ。


「うー?」


 女の子の中では不思議が渦を巻いていた。魔物の気配だ。それは間違いない。だって育った場所はこの気配で包まれていたのだから。女の子としては同族に近い。

しかし暴れていない。こんな生き物は初めてだ。女の子にとってジャンやリシューは同じ形の者、では人為的に産まれたこの魔物ならどうだろうか。


 女の子が産まれた所は秩序ある地、育った場所は無秩序の地。それに反してこの番犬見習いが産まれたのは無秩序の地、育った場所は秩序ある地。

全く正反対だが、それにより波長があった。お互いに足りない部分を補おうとしたのか、ほぼ同時にリンクの魔法を使った。


 無秩序の地は弱きものにとっては棺桶にしかならない。一人で生きていけるまでは親が守るが、巣立ちをしたら弱い者はすぐに死んでいく。なればこそ、無秩序の地で生きるイキモノの総てが最初に覚える魔法がある。それがリンク、知識共有の魔法だ。


 こうしてシークウェス家の居候と番犬は、誰にも知られる事無く生きる力を増やして行った。



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