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二:まおうさま、意思疎通をはかる。

 女の子は、目の前の大きな自分と同じ形をしている生き物が怪我をしている事に気がついた。

自分の怪我は、治すもの。自分以外は敵。でもコレは自分と同じ形をしている。もしかしたら自分もこんな顔なのかもしれない。

鏡を見た事の無い女の子は、そう思った。正確にいえば女の子は言葉と云う概念が無かったので、それに近しい思いを抱いた。


 目の前に居る、コレが何なのか、女の子には判断がつかなかった。何かを体に巻かれたけれど、それも拘束する類の物では無かったし、敵と対峙した時のピリピリする感覚も無い。

どうしよう……。困った女の子はとりあえず目の前の生き物の怪我を治しておこうと考えた。あんまり強くないみたいだし。襲ってきたら倒せば良いと思ったのだ。


「あー」


 一言、単語にもなっていない声を上げた途端、ジャンの身体は優しい光に包まれかすり傷一つない健康体になった。それどころか今まで感じていた疲労感も無い。

異常だ。異常事態だ。だがそれを肯定してくれるのは誰ひとりこの場に居なかった。


「君は一体何者だ?」


 若干警戒を含んだ声色で尋ねてみても、女の子はキョトンとするだけだ。


「大体なんでこんなところに子供が居る? 親はどうした。それになんだあの力は! 頼むから何か言ってくれ!!」


 懇願するような声を孕んでも、女の子は不思議そうな顔をしている。表情筋をあまり使う機会が無かった女の子は、自分に出来る精いっぱいの困惑を顔に出したつもりだが生憎と傍から見たら無表情だ。不思議そうな目をしているな、と解るくらいであろう。


「うー」


 またしても女の子は一言声を上げた。自分以外の人間を見た事の無い女の子は当然、会話なぞしたことも無い。それどころか声を上げる必要すら無かった。何せダンジョンのヒエラルヒーの頂点はこの女の子だ。痛みでうめく。なんて経験も無いだろう。

 故に女の子の語録は「あ」と「う」しか無い。喉をふるわせて出せる最低限の音だ。


 逆にいえば、世の魔法使い達等が長ったらしく時間を掛けて使う魔法を女の子はこの二音だけで扱う事が出来るのである。

世界中の魔法使い達等が聞いたら絶叫しかねない事実である。


 そんな世の常識を軽々と破壊してくれた女の子と、女の子の目の前にいる何かとされているジャンは女の子の発した魔法で心が繋がった。

レイラインと云う上位の魔法なのだが、女の子は知る由もない。ジャンはガラガラと音をたてて崩落していく常識を乾いた笑顔で見ている感覚に陥った。


 敵? 敵? 怪我? 治る。何? 同じ? 敵?


 一拍して、自分の中に疑問がふつふつと湧き上がるのをジャンは感じとった。何事かと思ったが、レイラインを通じて送られてくる女の子の感情なのだと理解して、己も感情を送り返す。

ここで女の子に敵と認識されたら堪ったものではない。何せ自分が倒せなかったハングリーアーウベアを軽々と三体も倒したのは目の前にいる女の子だからだ。


 同じ。味方。傷。無い。感謝。感謝。


 ありがとうと感謝の念を述べ、最後に一つ付け加えた。


 同じ。沢山。……来る?


 明らかに情操教育の悪いこの場から連れ出した方が良いだろうと云う考えだが、産まれてこの方ダンジョン以外の場所を知らない女の子にとっては今更であろう。

しかし、女の子を縛るものは何もない。今までもこれからもそうであろう。だから女の子は自分の感情に素直に従った。


 沢山。楽しい? 行く!




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