十三:まおうさま、短文を話す。
女の子のお出迎えを受けたジャンは報告に受けていた部屋のあり様を見て軽くため息を吐いた。
「リツァ、お前は本当に非常識の塊だなー」
レイラインで繋がっているので、誰よりも的確に女の子と会話が出来るのを良い事にジャンは他の者より多く言葉を掛けるように心がけていた。
「ううういい? 」
心で繋がる言葉とジャンの発した音を重ねて、ひじょうしき? と聞き返しただろう女の子に「ひじょうしき、な」と訂正を入れ、ジャンは部屋をぐるりと見回した。
増えた家具にごろごろと、二十や三十はくだらないと思われる拳大の原石たち。最初はアイオライトだけだったが今は赤に黄色に緑にと種類が増えている。
もしもこの原石たちを然るべき所で売り払えば数年は遊んで暮らせるだろう。質も大きさも逸品だ。
「まぁ良いか。王からハイトーンメモリージュをお借りしたから今日から一緒に観賞会しような」
「うー! 」
解った! と心で訴えて来た女の子に向かって「か・ん・しょ・う・か・い。言ってみようなー」と言葉を続けながらなけなしの魔力をハイトーンメモリージュに籠める。
普通のメモリージュやトーンメモリージュなどの映像や音に特化した物ならばジャンも意識せずに使えるが、二種以上を掛けあわせるマジックアイテム、この場合は映像と音を同時に扱うハイトーンメモリージュ等は存外魔力を喰う。
元の魔力が少ないジャンにとってはあまり歓迎したくないアイテムだ。
そんな事をしながらまず最初に見せたのは貴族の子供に見せるようなおとぎ話の劇だ。
数代前の隣国、アースライドの歌姫と勇者の冒険だ。八つ星の吟遊詩人の歌を聴けばたちまち傷は癒え、体力等が向上し農民の子でも一軍に突っ込めるようになれると言う、最強の援護姫。後に援護姫だと語呂が悪いと本人が訴えたため、歌姫と名を変えた姫君の話だ。
とりあえず魔力を籠め終わったジャンは女の子を抱き上げ、元からあったのか増えたのか解らないソファに腰掛けた。
膝の上に女の子を乗せ、立体映像のように出て来た逆円錐の光で出来た映像を眺める。
最初こそ驚いていた女の子だが、ジャンが害は無いと伝えると興味深そうに映像を眺めていた。
「どうせだから言葉でも覚えような。アレにレイライン見たいな魔法掛けれるか? 」
出来れば万々歳だ。と云う風に伝えてみれば、女の子は少し唸った後に「うぁあー」と抑揚のない声でハイトーンメモリージュに青白い光の波を送った。
レイラインで何? と聞いてみれば、覗く。と返って来た。他人の思考を覗く呪文だろうか、ジャンの中ではピープと呼ばれるだろう魔法に近い。
波打つ光を出しながら、女の子はジャンの膝の上で劇を見続けた。ピープで言葉を覚えているのか、レイラインで繋がってくる感情で、意味を咀嚼しようと必死に頭を動かしているのが伝わってくる。
劇もクライマックスに近くなり、勇者は剣を掲げ歌姫は両腕をゆるく伸ばし意気込む。
『我が魂あるかぎり! 悪が罷り通る事はなし!! 』
『攻撃も防御も出来ませぬが、わたくしの歌声にて援護しまする! 』
役者の腹から出る声に、女の子はきらきらとした目で劇を見る。ジャンはそれを微笑ましく見つめながら終劇を待った。
「楽しかったか? リツァ」
劇が終って感想を聞くと、巨悪の魔物に立ち向かうシーンをそのままレイラインで送ってきた。よほど二人の言葉が気に入ったのだろうか。
ふとそんな事を思ってジャンは勇者の台詞をなぞってみた。
「我が魂あるかぎり、悪が罷り通る事はなし」
「えん、ご、しましゅる! 」
「えええええええええええ?! 」
劇を見せる前までは『あ』と『う』、そして先程増えたばかりの『い』しか云えなかった女の子が、行き成りつっかえつっかえだが短文を喋った。
どうやらピープで音と映像を解析し、舌の動きから読み取ったらしく慣れない動きに翻弄されながらも喋り方のコツをつかんだらしい。
とてつもない衝撃に襲われながらジャンは「本当に非常識の塊だなぁ」と呟いて女の子の頭を撫でた。