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第八話

 馬車の旅は順調に進んでいる……とも言えなかった。

 平民を運ぶ馬車は貴族のそれや商隊と違って護衛をつけていない。

 その代わり御者が多少戦えるのだが、今回は違うようだった。


「はあっ!」


 一閃、巨大な魔物ーージャイアントベアーが崩れ落ちる。

 ボスがやられたことで残りは散り散りに逃げていく。

 手早く素材を剥ぎ取り、馬車へと戻る。肉は流石に持ち運ぶのが難しい。


「い、いやはや、お客さん若いのに強いんだね!」


 服についた土をはらうことも忘れ、御者は褒め称える。

 武器も装備も悪くないが、立ち振る舞いから見るに素人同然だった。


「いえ……また何かあれば声をかけてください」

「そ、そうさせてもらうよ」

(やっぱり、高いのにすれば良かったかな)


 あまりの頼りなさに心の中で愚痴る。

 大抵のことは対処できるが、数で来られると苦労するだろう。

 せめて、頭数に入れられるぐらいの強さは欲しかった。


「お疲れ様です」

「ありがとう。ボスをやったら逃げてくれる手合いで助かった」

「そうでない場合もあるんですか?」

「むしろ、そっちの方が多いな」


 この手の手合いはボスがやられるとしゃかりきに向かってくる。

 破れかぶれで向かってくる敵ほど厄介なものはない。

 ジャイアントベアーはそうでないと知っていたため、ボスを狙ったのだ。


「まあ、強い生き物ほど孤独を好むから、結局は一人でいるような奴の方が手強いけどな」

「……兄さん、まるで歴戦の戦士みたいですね」

「ばっ!?」


 最もな感想に変な声をあげる。

 すっかり、五年間戦い抜いたグレンのつもりで話していた。


「ま、まあ、受け売りなんだけどな」

「誰のですか?」

「……本の?」

「本、ですか」


 ルナの目ははっきりと本なんて読むんですかと言っていた。

 村にいる時の俺は勉強が大嫌いで、ルナに誘われても頑なにしなかった。

 同然、部屋には本なんてものは一冊もなく、不信感を持たれるのは当然だ。


「も、もっと正確に言うと本の話だと人から聞いたんだ」

「ふーん」


 まあ別に良いですけどとルナは目を逸らす。


「兄さん、隠し事が増えましたね。あの時から」


 あの時が指す日は、当然過去に戻ってきた日のことだ。

 ルナ目線では同じ時間を過ごしてきたはずだが、実際には五年の歳月によって隔たれている。

 真実は話せない……わけではない。


(とはいえ、五年先の未来から戻ってきた……なんて荒唐無稽すぎてなあ)


 俺自身、目の前の光景を現実だと決めただけで実際のところはわからないのだ。

 既に未来も変わったことだし、殊更触れ回る必要を感じなかった。


「この年になるとな。話せないことの一つや二つできてくるものなんだよ。ルナにだってあるだろ?」

「私は……ありますけど」


 そっぽを向くルナ。


「あ、あるのか……」


 自分で言っておきながらショックを受けるのは、我ながら情け無かった。


「私の気持ちわかりました?」


 俺の心情を見抜いたルナが、ニヤニヤと嬉しそうに煽ってくる。

 ぐうの音と出なかった。


「……お、お互い大人として見て見ぬふりを覚えない、とな」

「無理しない方が良いんじゃないですか? ほらほら、楽になっちゃってください」

「ぐぬぬぬ、俺は屈しないぞ」

「強がっちゃって……体は正直ですね」


 ……おかしい。会話の内容がいかがわしく感じる。

 額を手の甲で叩き、思考をリセットする。


「ジャイアントベアーは普段は森の奥地に生息するんだ。人里に現れるのは群れから逸れたり、追い出された個体ぐらいで」

「でも、先ほどのは群れでしたよ?」

「それだけなら珍しいで済ますこともできるっちゃできる。ただ、簡易的とはいえ整備された道に出てきた」


 いくら平民向けとはいえ、強い魔物が現れる地帯であれば護衛をつける。

 御者の様子から見てもイレギュラーな事態だったのは間違いない。


「どの個体も肉付きは悪くなかった。一方でーー」


 先ほどの戦利品ーーボスの爪を見せる。


「……だいぶ傷ついていますね」

「何かとやり合った可能性が高い。人ならまだ良いが」

「より強力な魔物だったら……」


 頷く。

 住処を追われたケースだ。


「村近くでは魔物がいつもより少なかったが、王都に近づくにつれ、気配を強く感じるようになった」


 そこに現れたのがジャイアントベアーの群れ。


「……景気の良い話でありませんね」

「まあ、そろそろ王都の警備隊の範囲に入るから俺たちが気にすることではないけどな」

「兄さんが戦うはめにはなりませんよね?」


 不安そうにしていたのは、俺を心配してだったのか。

 ルナの優しさに笑顔が溢れる。


「当たり前だろ。警備隊のはもちろん騎士団に、魔法師団、それにいざとなったら傭兵たちも集められるしな。俺が出る幕なんてないよ」


 大陸で一番戦力が揃っている場所だ。

 未来ならともかく今の俺にお役目など回ってこない。

 何せ、実績もなければ罪もないのだから。


(そうだった。王都ならあいつがいるかもしれないのか)


 昔の知り合いを思い出し、苦い表情をする。

 今や縁もゆかりもないとはいえ、あまり出会いたくない相手ではあった。


「学園の生徒が頼まれることはないんですか?」

「あー、どうだろう。生徒であることより、家の都合によるんじゃないかな」


 戦場で学生を見かけたことはある。

 しかし、彼らがどのような形で参戦してきたのかは知らなかった。


「心配するな。いざとなったら俺が連れ出してやるからさ」

「ふふっ、心配してませんよ。兄さんを信頼してますから」


 そこは阿吽の呼吸。逃げる一択なのはわかっているらしい。


「なんであれ死んだら終わりだ。いざって時は迷わず生き残れる道を選べよ」

「兄さんこそ」

「俺は地べたを這いずるのが得意だから大丈夫」

「どうでしょうか。憎まれ口を叩きながら、なんだかんだ渦中に飛び込んでいきそうです」

「…………そんなことはない」


 言われてみれば勇者パーティとはそんな感じの関わり方をしていたような。

 敵の敵は味方的な考え方で共闘もしたし、助けに入ったこともある。

 逆もまたしかりだが。


「私が心配してるのは兄さんのことだけですよ」

「俺はルナが心配なんだけど」

「これでも結構強かなんですよ?」


 ちゃめっ気たっぷりにウインクするルナ。


「まあ、強かなのは知ってるけど」

「どうでしょう。兄さんが知ってる私は特別可愛い私だけなので」

「???」


 ルナが可愛いの確かだが、言っている意味がよくわからなかった。

 きょとんとする俺の顔が面白かったのか、ルナは楽しそうに笑うのだった。


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